11.旅立ち
トーマスと別れて二年。
ユーリは少女から女性へと成長した。トーマスとの再会を願って伸ばした髪は、今では、腰近くまである。
成長不足だった体もバランス良く育ち、綺麗な筋肉がついた。
動きやすいので、男物の服を来ているが、それでも胸元を押し上げる胸は豊かで、キュッと締まった腰は細い。
以前から人目をひく美少女だったが、今では誰もが振り返る美貌だった。
ジハードは、あれ以来、ずっとユーリと一緒にいてくれている。トーマスを思って夜毎泣くユーリを膝に抱えて宥めてくれた。
昼間はユーリに剣を教えてくれた。
ジハードは魔法との相性があまり良くないと、使わず放ったらかしにしていた魔法の書も全てくれたので、ユーリは色々な魔法を覚えることができた。
その上、知り合いの魔法使いを紹介してくれて、魔法の基本も学ぶ事ができた。
トーマスと別れてから、ユーリはひたすら腕を磨き続けた。同じ場所にいるので、クエストも進めていない。
「腕をあげたな、ユーリ。」
いつものように剣を交わし、嬉しそうにジハードが笑った。
この2年、ジハードには、自領に招きたいとの話が後を絶たない。彼はその話の全てを断っていた。
そして、ユーリには知られないようにアミュダットと、サキュガイアの情報を集めていた。今もサキュガイアはユーリエ姫の事を諦めてはいないはずだ。
【闇を倒すものはサフィニアの花より産まれる】
これは古からの言い伝え。そして、サフィニアの花こそ、アミュダット王国の紋章だった。
ジハードは、母がブレスレットをユーリに渡したと知った時から、ユーリはユーリエ姫だと確信していた。
この方を守らなければと思った。
そして、トーマスの喪失を埋めるようにユーリを慈しんできた。
最初は年の離れた妹のように。抱きしめて、髪を撫で、悪い夢からも守っていた。
それがいつ頃からか、抱き締めれば、胸が苦しく、隣に立つだけで、抱き寄せたくなってしまった。
この気持ちは誰にも知られてはならないと思っている。
今もユーリの笑顔が眩しくてたまらない。
「ジハード、相談があるの。」
「なんだ?」
「サキュガイアが何をしているのか、田舎にいても、耳には入ってくる。あの国に対抗しようとしている人達が、ジハードに協力を依頼していることも。」
どうしてだ。知らせないようにしていたのに。
「少し前、ジハードが山に行っている時にハッサンが来て、話して行ったの。」
「……ハッサンから、何を聞いたと言うんだ。」
「色々。ジハードが居ればもっと戦力が集められるそうね。私もこのままサキュガイアを放置するのは良くないと思うの。」
「ユーリ。」
「だから、私も一緒に戦うから、行きましょう!」
「駄目だ!駄目だ!!ユーリを危険には晒させない。」
「ジハード。」
「ユーリが望むなら、俺は戦おう。でもユーリは駄目だ!」
「ジハードは、気づいているのでしょ?私がアミュダットのユーリエだと言うことを。」
「……」
「私は、いい旗印になると思う。私も、両親と妹、そして、国の人々の敵討ちがしたいの。」
ジハードが握った拳を震わせて。
怒ってるかな、と、ユーリは思ったが、いつまでもこのままではいられない。
自分もそれなりの戦力にはなったはずだ。自分の身を守れるだけの力はついたと自負している。
それにジハードがいる。
ユーリもわかっていた。ジハードが自分を見る目が変わってきた事を。
今でもトーマスがまた現れることを期待している。でもこの2年、ユーリを守り、支えてくれたのはジハードだ。
保護者のような彼が、傷つきやすい少年のような心を持っていることも知っている。
大きな翼で丸ごとユーリを包んでくれた心地良さに、どれほど、安らぎを覚えたか。
だから、ジハードが望まない事はしないと決めていた。
しかし、この世界の情勢はそれを許してはくれない。
「本気か?ユーリ。俺が行かせたくないと言っても?」
「行くわ。そして、ジハードも一緒。私といつでも一緒にいてくれるのでしょう?」
「……そうだな。ユーリが行くならどこへでも。」
ジハードはユーリの燃えるような赤髪をひとすくい指に絡め、そっと唇を触れる。
「命ある限り、お前を守ろう。」
「ジハード。」
「ハッサンに連絡を取ろう。」
「うん。」
「出発は1週間後だ。」
「すぐに支度するわ。」
ユーリは腰に剣を履き、背に弓を背負った。
この2年を無駄にしたつもりは一切ない。最後に、今日まで過ごした部屋を見渡し、背中を向けた。
いつかまた、ここに戻ってこよう。
この家は、この世界で、唯一の自分が休める場所だった。
建物から出たら、既にジハードが待っていた。
「ごめんね。待った?」
「いや。行こうか。」
ユーリは火炎馬に、ジハードはドラゴンに跨った。
知らなかったのだが、ドラゴンは二足歩行もできるらしい。今回は、馬と並んで走るのだと言う。
走ってみれば、馬並に早い。
ハッサンとの待ち合わせの街まではあっという間だった。




