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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
52/90

くま捕まる

御読み頂き有難う御座います。

第二章幕間追加で登場人物紹介編集しました。

 路地を駆けるメイドを追うマッキーはなかなかメイドに追いつけないでいた。その原因は人ひとり抱えて走っているとは思えないメイドの驚異的な膂力にもあったが最大の問題はこのアルカヴィルシオの特異な構造だった。

 住宅が立ち並ぶこの辺りはもちろん区画整備などされているわけもなく、そのせいで迷宮のように張り巡らされた路地が広がっている。曲がり角も多く、分岐も多い。その為、マッキーは建物の影に消えるメイドを見失わないようにするので精一杯だったのだ。



 空へと飛び上がって上空から探せばよさそうなものだが頭上には洗濯物が建物同士で架けられた紐の上ではためいて視界を遮っている。マッキーが上空に飛び上がればそんな遮蔽物の陰に隠れてすぐに見失ってしまうだろう。


 そんなことをしているうちに大通りが近くなったのか近くから人々の喧騒が聞こえるようになる。そこでメイドは何を思ったのかくるりと角を曲がり、一直線に大通りの中へと駆け込んだ。二人が人込みを掻き分けるようにしてその中へと消えていく。

 マッキーは急いでその後を追うと行き交う人々の頭上へと躍り出た。



 「なんだアレは?」

 「くま?」

 「おかーさん!くまがとんでるよ!」

 飛び出してきたマッキーに通行人達が口々に何か言っている。目立ち過ぎたかと思ったがもうすでに遅い。



 どうやらここはアルカヴィルシオの名所でもある噴水広場へと続く道だったらしく多くの人で溢れかえっていた。商人の威勢のいい声が響き、たくさんの人々が買い物に興じている。遠く通りの先には名所の噴水から吹き上がる水が小さく見えた。


 マッキーは周囲を見回し令嬢とメイドを探すが意外なことに二人は少し先でローブを服の上から着込み、二人並んで立ち止まってこちら向いている。深くローブを被っているためよくは分からなかったがローブから覗く口元から仮面を取っているのが分かる。その口元が笑みを作り、そのままべぇっと舌を出した。マッキーは意味が解らず困惑するがその疑問は次の瞬間にすぐに氷解した。



 「あれは魔道具の自動人形ではありませんか!金貨十枚は下りませんことよ!」

 大きく息を吸い込んだ令嬢がそう叫んだのだ。

 人々の視線がマッキーに集中し、先程まで驚いた表情だった人々の目の色が変わるのが分かった。



 「俺が捕まえてやる!」

 「待て!俺のだ!!」

 「馬鹿野郎!押すんじゃねぇ!」

 宙に浮かんでいたマッキーを捕まえようと人々が殺到する。その隙に令嬢とメイドは踵を返し、人込みに紛れてしまった。急いでその後を追おうとするが欲に駆られた人間の行動力は凄かった。他の通行人を足場にして一人の男がマッキーへと飛び掛かって来たのである。幸い捕まることはなかったもののバランスを崩して地面へと落ちてしまう。


 それからは大騒ぎだった。無数の手が四方八方から伸び、マッキーを捕らえようとする。マッキーはその足元を潜り抜け、逃走を図ろうとするが集まった人々は意外に多くなかなかそこから抜け出すことが出来ない。ついには騒ぎを聞きつけた憲兵までやってきてその場は大混乱に陥ったのだった――。








 「――まったく酷い目に会ったのだよ……」

 恨みがましく呟いたマッキーはいましがたようやく騒ぎを囲う野次馬の中から這い出たところだった。後ろではいまだに騒ぎが続いている。騒ぎはいつの間にか憲兵との衝突に発展しており、元のマッキーを探すという目的を忘れた様にあちこちで喧嘩が起っている。



 「はあ……」

 溜息を吐いたマッキーは周りの状況を確認しようと顔を上げ、辺りを見回す。騒ぎの間に少しずつ移動してしまったようで通りの先の水路がある辺りまで来てしまっていた。水路の向こう側も大店が並んでいる商店通りがある為にその人通りは多く。対岸で起こった騒ぎを何事かと足を止めて見ている人もいた。



 その中に一つの人影を見つけてマッキーの動きが止まる。



 マッキーの目線の先にいたのは少女だ。年齢は十才より少し上くらいだろうか。クリーム色の長い髪を無造作に流し、布を巻いただけのような貫頭衣のような服を纏っている。少女は人込みに揉まれながら裸足で水路越しの通りを抜けていくところだった。



 「――ベールっ!?」

 マッキーは驚きに立ち上がった。浮遊魔法で水路を飛び越えようと考えるが一瞬でその考えを打ち消す。いまでさえ騒ぎが起きて大変なことになっているのだからここで再びマッキーが浮遊魔法を使い、姿を現せば更なる大混乱になるであろうことが容易に想像できたからだ。


 どうしようか、いっそ気にせず魔法を使おうかと悩んでいるとひょいっとマッキーの体が宙へと浮かぶ。驚いて振り返るとそこには橙色の髪にハンチング帽子を被り、オーバーオールを着た少年が立っていた。



 困惑するマッキーに少年はそばかすのある顔の前までマッキーの首根っこを捕まえて持ち上げる。



 「金貨十枚いただき」

 そういって少年はあどけない笑顔をマッキーに向けた――。









 「――で喜び勇んで元の持ち主にふっかけに来たところを人質に取っていたマッキーに逆に拘束された、と」

 「……なんだよ」

 何かかわいそうなものを見る目をしていたクロノにむすっとした顔で橙色の髪の少年が言う。



 クロノ達が話していたのは観光案内所で紹介して貰った宿屋、『疾風の鱗』の一室であった。宿屋ということで紹介して貰ったがどちらかといえば高級ホテルのそれに近い。部屋は広く清潔感があり、ベランダからは街を一望できる。ベッドは天蓋付きで、絨毯や調度品もいかにも高そうであり庶民のクロノは気後れしてしまったくらいである。まあいい値段を払っているのだから、といえばそれまでなのだが。



 そんな部屋の真ん中に縄に縛られた少年と椅子に腰かけたクロノ、そしてその肩に陣取っているマッキーといった具合だ。



 「もっと考えろよ。俺達じゃなかったらボコボコにされて水路にポイでもおかしくなかったんだからな?」

 「むうぅ……」

 貴族などならば十分ありえたことである。この少年は恰好から見るに明らかにスラムの出身である。スラムの子供がひとりふたり消えたところで憲兵が動かないのは火を見るより明らかだ。ならば金貨を恵んでやるより口封じをして、となるものもいるだろう。

 クロノの指摘に少年は顔をしかめる。




 「はあ……まあいいや。お前スラムの出身だろ?名前は?」

 「……ロロ」

 溜息混じりのクロノの問いかけにロロと名乗った少年はぶっきらぼうに答える。その表情はいかにも不服気である。自分の状況が分かっているのだろうかとクロノが心配になる程だ。



 「『闇オークション』についてなんか知ってるか?」

 「お?兄ちゃんそういうのに興味あんのかよ」

 「まあ仲間がちょっとな」

 ものはついでと聞いてみたが思いの外ロロの反応は良かった。この様子だと意外にアタリかもしれない。クロノは目で先を促す。



 「『闇オークション』は外区のマフィアが取り仕切ってるんだ。大きな儲けだから大きなところが持ち回りしてる。今回の主催はカストール・ファミリーだったかな?開催日は表のオークションと同じ日の夜だ。場所は担当したファミリーが設定するから毎回違うんだ。もちろんオレはわかんねーぞ。でも飛び入りで参加は難しいと思うぜ?」

 ロロは少し考えるようにしながら闇オークションについて喋っていく。

 分かってはいたが普通ならば参加は厳しいようだ。おそらくお得意さんを集めて行うのだろう。その方が情報が漏洩しにくいという利点もある。表のオークションと一緒ということは三週間だ。三週間以内に何とかしなくてはならない。



 「そうだな、じゃあ……」

 クロノはアイテム袋の中から金貨を一枚取り出し、ロロに見せる。ロロの表情が一瞬で喜色に満ちたものになった。それを見てクロノはマッキーにロロを縛っていた縄を解くように目配せをした。小さな風が起こり、ロロの髪を揺らすとそのときには既に縄ははらりと床へと落ちていた。マッキーの魔法の精密さに感嘆しながらもクロノはロロへと視線を戻す。



 「おっ!情報料か?さすが兄ちゃん!太っ腹!」

 「ちげーよ。そんな子供でも分かる情報に価値があるか。これは仕事の前払いだ。」

 揉み手でもしそうな様子でにやにや笑っていたロロにクロノは金貨を投げる。金貨を受け取ったロロは途端に股間とお尻を手で隠した。



 「いや、兄ちゃん……。いくら何でもそれは……。確かに金貨は破格だけどよ。なんつーか……オレにもプライドがあるというか……。初めては好きな人とというか……。いやしかし金貨一枚なら……。……アリか?兄ちゃんなら確かにアr――」

 「ねーよ!!まず俺がねーよ!!今の話からどうしてそっちに飛んだんだよ!やめて!そのなんか決意を固めましたみたいな顔をするの!ないから!俺にそっちの趣味はないから!!」

 真面目な表情でぐっと金貨を握りしめるロロにクロノは即座に否定の言葉を返す。この子はアホの子なんだろうか。クロノは手で顔を覆いながら俯いた。



 「オークションの方だよ……。そのカストール・ファミリーに渡りを付けるかそれが可能な人物を紹介して欲しい」

 「なんだそっちの方かよ。いきなり大金出すからついソッチかと思ったぜ。まあ心当たりがねーわけじゃねーけどな」

 「ならそれで頼む。期限は一週間だ。しかし大金出したらいきなりソッチって……」

 「そうか?割とある話だぜ?貴族が後腐れないスラムの子供を買うとか。貴族は結構エグイらしいからなー。兄ちゃんならソフトな感じかと思ったんだけど」

 ロロのその言葉にクロノは大きな溜息を吐き、項垂れるのだった。





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