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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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くまとお嬢様

「さてと」

クロノの肩から路地へと飛び降りたマッキーは日傘を差した令嬢へと目を向ける。クロノに任せたと言われたがはてさてどうしたものだろうか?手っ取り早いのはこの変な仮面を被った令嬢を捕まえてしまって全てを吐いてもらうことだろう。しかし相手の実力は未知数である。

マッキーは首を傾げて顎に手を当て、考え込む。クロノから言わせればこのような仕草があざといと思うのだがマッキー自身はそのことについてさほど考えてやっていなかったりする。



「あら、わたくしのお相手はくまさんですの?こんな可愛いくまさんではわたくしの相手としましては物足りませんわよ?」

「なかなか言うのだよ。私程強いくまもなかなかいないと思うのだよ?」

 肩を竦めて令嬢はおどけてみせる。顔がひょっとこなだけに酷く滑稽にしか見えないのであるがこちらのほうも本人は気付いていない。知らぬが仏である。そんな令嬢の余所にマッキーは自分の有能性を謳って腰にその丸い腕を当て、胸を張る。



 「それはどうかしら?これを見てもそんなことが言えるのかしらね?」

 令嬢がごそごそと手に持った袋に手を入れる。女性用に装飾が施されていたがどうやらそれはクロノが持っているようなアイテム袋のようであった。何かを取り出そうとする令嬢にマッキーは警戒を強める。武器を取り出した場合、すぐさま魔法を打てるようにマッキーは体に魔力を漲らせ、戦闘態勢を取った。



 令嬢の持ったアイテム袋から大きな塊が取り出される。艶やかに磨き上げられたそれは光沢を放ちながらアイテム袋から姿を現す。それの姿は強者のそれであり、見事な曲線を描く体躯が太陽の光に当たって黒光りしていた。



 「それは!!」

 マッキーが驚いたように声を上げる。天に向かって雄々しく突き出した角、マッキーなど容易に握り潰すことが出来るであろう筋骨隆々の腕。その逞しい四つの腕が獲物を捕らえんと伸び、鋭い爪がギラリと光る。大きく開かれた口からは尖った牙が剥き出しになっている。躍動感溢れるその姿は今にもこちらへと飛び掛かってくるのではないかと錯覚させる。




 そう。令嬢が取り出したのは大魚を捕らえんとする木彫りのレッドホーンベアの置物であった。




 「この雄々しい姿!今にも襲い掛からんとするこのポージング!それでありながらこの繊細な彫り!何をとっても一級品!まさに匠の作品ですわ!これこそ熊!これこそ至高の熊ですのよ!!」

 「あ、うん。君は周りの人から少し残念な人だと言われないかね?」

 軽くハイになっている令嬢に向かってマッキーは極めて冷静に答えた。どうやらこれを見せたかっただけらしい。相手のことが全く分からない。強いていうならこの令嬢が世に言う残念な類の人種であることだけは理解したマッキーである。




 「なんと!この良さが分からないとは!ならこれはどうです!この愛らしい中にもキラリと光る芸術性!おどろおどろしく在りながらなおチャーミングさを忘れぬこの姿!」

 またごそごそとアイテム袋を漁り始めた令嬢が取り出したのは信楽焼の狸の置物であった。




 「…………」

 「…………」




 憮然と立ち尽くすマッキー。何か期待を込めた視線を送るひょっとこ。マッキーは深く溜息を吐いた。




 「――ッ! な、ならばッ!」

 令嬢はそういうとこれは、これはとアイテム袋の中から様々な調度品を取り出し始めた。何処ぞの蛮族が着けているような羽根飾りのついた四角い奇妙な仮面、輿を背負った金ぴかの象の置物、シュールなポーズを取る白磁の豚。次々と奇妙な品々が積み上がっていく。





 「……君は人から変わった趣味だねと言われたことはないかね?」

 「ぐっ……むむ……」

 令嬢は呻って目を伏せる。どうやら他の人にも言われたことがあったらしい。マッキーは再び溜息を吐く。クロノに任せたと言われたのはいいものの相手が何をしたいのか分からない。見れば令嬢は攻撃を仕掛けて来る様子もない。戦闘する気がなければ本命は此方ではなくクロノということだろうか。




 「【風縛(ウィンドバインド)】」

 とりあえず相手を拘束するのが一番だろうとマッキーは肩透かしに終わっていた魔法を発動させる。令嬢の周りに風が巻き起こり、令嬢をその場に釘付けにした。

 ふわりと令嬢のスカートが風につられて舞い上がりそうになり、令嬢は慌ててその裾を手で押さえつけた。

 



 「ななっ!なんて破廉恥なくまですこと!いますぐこれを解きなさい!」

 「解きなさい、と言われても困るのだよ。君は自分が私達を尾行していたことを忘れてないかい?」

 顔を真っ赤に染めながら令嬢が必死に抗議する。クロノがこの場にいたのならば元の世界の某女優を思い出していただろう姿でその様子には貴族の威厳もない。マッキーは肩を竦め、やれやれといった様子で令嬢に声を掛ける。




 「ぐうぅ……『遊戯の騎士(チェスセット)』!【操作(コントロール)】『歩兵(ポーン)』!」

 反論の言葉がなかった令嬢は浮かび上がるスカートを片手で押さえつけ、スカートの後ろが捲れ上がるのも気にせずもう片方の手でアイテム袋に手を突っ込む。令嬢がアイテム袋から取り出したのは茶色とクリーム色が立方体の組み合わさった、俗にいうルービックキューブのような物体だった。令嬢が首から下げていた鍵をその立方体に差し込むとバラバラになった小さな立方体の一つがマッキーの前に躍り出る。



 「そのくまを止めなさい!」

 その立方体が光り輝くとその中から純白の鎧が現れた。歩兵と呼ばれたその鎧は令嬢の言葉を受けてマッキーへと剣を振り翳す。


 「【風壁(ウィンドウォール)】!」

 突然の令嬢の攻勢にマッキーは驚きながらも魔法でその剣を弾き返し、間合いを取った。同時に他の魔法で反撃を試みる。



 「【風刃(ウィンドカッター)】!」

 今度は歩兵の方に無数の風の刃が迫る。歩兵は後ろにいる令嬢を庇いつつ前に飛び出しながら剣で撃ち落とし或いは鎧で防御してマッキーの攻撃を防ぎ切った。思った以上に歩兵の防御力は高いようだ。マッキーは鎧を一刀両断に先程の魔法より威力の高い攻撃で斬り裂いてしまおうかと考えているときに令嬢の後ろから声が掛かった。




 「……お嬢様、パンツ丸見え」

 令嬢の後ろから現れたのは般若の仮面を被ったメイドだ。メイドは呑気な様子で状況を確認する。マッキーは一瞬クロノがやられたのかと思ったがクロノの性能は既に見ていたのとメイドのボロボロになったその服装から逃げるのを許したのだという考えへと達した。



 「……うさぱん」

 「何を見ているんですの!?」

 メイドの言葉に令嬢は羞恥に顔を染めながら叫ぶ。令嬢のパンツはうさぱんであったらしい。




 「……もうちょっと、大人っぽいものを、といったのに」

 「う、うるさいですわね!それより早く助けなさい!」

 「……御意。……【風属性付与(エンチャントウィンド)】」

 令嬢の叫びにメイドは短剣を取り出し、それを振り下ろす。令嬢に纏わりついていた風の戒めが一閃に斬り裂かれる。付与した魔法のせいか風は吹き散らされ、令嬢のスカートもひらりと元に戻った。



 「あちらはどうなりましたの?」

 「……撤退、推奨」

 令嬢の問いかけにメイドは簡潔に答えると向かい合うマッキーに短剣を投擲する。マッキーは跳んでそれを避けたがメイドの目的はマッキーに当てる事ではなかったらしく、令嬢をお姫様だっこで抱え上げ、逃走に移ろうとする。マッキーと対峙していた鎧はいつの間にか小さな立方体に戻っており、令嬢の手の中へと戻っていた。




 「させないのだよ!」

 「……【鍛造(フォージ)】」

 させじと駆け出すマッキーだがメイドの言葉に反応した短剣が形状を変化させ、剣山のように無作為に銀色の棘を突き出す。その間にメイドはマッキーに背中を向けて走り出していた。



 「待つのだよ!」

 マッキーは魔法で宙へと舞い上がり、令嬢を抱えて走るメイドの後を追うのだった。






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