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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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クロノの責任



「でもさー兄ちゃんオレがこの金持って逃げるとか考えねーの?」

「大丈夫だ。さっき期日内に解呪しないと○ン○ンが燃え上がって再起不能になる呪いをお前に掛けた」

「なにぃぃぃぃ!!」

橙色の髪の少年――ロロ――はクロノの言葉に驚愕する。


「いつの間にそんな呪いを!?ち、ちなみに女だとどうなるんだ?」

「……生えます」

ロロの質問にクロノはそっと目を閉じ、カッと見開いて言った。


「……生えるのか」

「生えます」

「……チ○○ンがか!?」

「はい。そして燃えます」

「――ッ!?生える上に燃えるのか!?」

クロノは口を閉ざし、小さく頷くことで肯定する。その様子にロロはごくりと唾を飲み込む。



「いい加減その下世話な会話を止めるのだよ!」

クロノとロロの会話にマッキー割り込む。マッキーの酷く残念なものを見るような視線がとても痛かった。





そんなこんなで脅しをかけられたロロは股間を抑えながら部屋を去っていった。





 「……あんな出会ったばかりの子に金貨を恵んでやるなんて君は馬鹿なのかい?」

 ロロが部屋を出ていった後、マッキーは溜息を吐きながらそう言った。金貨一枚といえば一般的な家庭なら半年近く暮らしていける額だ。スラムの子供ならば一年以上は暮らすことができるだろう。


 「……ただの依頼料だよ」

 「やっぱり君は甘いよ」

 そう答えるクロノにマッキーは嘆息しながらやれやれと肩を竦めるのだった――。








 「――クロノ。私は一旦君達と別れて行動しようと思うのだよ」

 マッキーがそう切り出したのはその日の夜の事だった。疾風の鱗にあるレストランで食事をしていたクロノは顔を上げてテーブルに座るマッキーを見る。


 「突然だな。どうしたんだ?」

 手にしていたナイフとフォークを置いてクロノは問い返す。向かい合っていたアルレシャとルトナも同様にマッキーに視線を向けた。


 「探し人が見つかったのだよ。私は彼女をどうしても探し出さなくてはいけない」

 マッキーはいつもと違った厳粛な態度でクロノ達に告げる。


 「探し人ですか?」

 「ああ、長い間探し続けていたのだよ」

 アルレシャは口をもぐもぐとさせながらマッキーに問う。マッキーの声は真剣そのものであった。



 「その様子だと大切な人なんだろ?それなら俺達に反対する理由はないさ」

 「そうね。マッキーだってもともとその人を探すために私達についてきたわけだし。どうせなら私達も探すのを手伝うわよ?」

 クロノの言葉にルトナが賛同する。それを見てマッキーはほっとしたような様子だ。



 「ありがとうなのだよ。でも大丈夫。まあ彼女を見つけてすぐに帰ってくるのだよ。魔力の補填はクロノに頼むしかないからね」

 マッキーはお礼を言うといつものおどけた様子に戻っていた。マッキーにもいろいろあるのだろう。クロノ達が聞いただけでも貴族に捕らわれたり、泥棒に盗まれたり、商人に売られたりと波瀾万丈だ。そんなことがありながらも旅を続けて来られたのはきっとその探し人が大切な人だったからだ。それならばクロノ達に口出しできることなどないだろう。



 「……早く見つかるといいな」

 「……ああ、そうだね。見つかったらクロノ達にも紹介をするのだよ」

 クロノの呟いた言葉に表情の変わらないマッキーの顔が少しだけ綻んだように見えたのはきっとクロノの気のせいであろう。





 かくしてマッキーはその夜の内にクロノ達と別れ、探し人を見つけるために街へと飛び出して行った。クロノはその姿を静かに見送る。城壁の上に立つ尖塔の水晶が華やかなアルカヴィルシオの夜景の上でちかりちかりと昼の間に集めた日の光を吐き出し、暗闇を切り裂くように揺れていた――。








 ――次の日、クロノ達は冒険者ギルドの近く、武器屋や防具屋などが立ち並ぶ一画にいた。流石は大陸西部の流通の拠点だけあって品揃えは良い。金さえあれば強力な付与魔法の付いた武器から珍しい素材を使ったアイテムまでほとんどなんでも手に入る程であった。


 クロノ達はロロが闇オークションの主催者側に渡りをつけているこの一週間のうちに水中迷宮の攻略に乗り出す予定であった。闇オークションの取引の相場が分からないため少しでもお金を貯めておこうという考えである。クロノのワールドクロニクル時代の遺産で足りないというのは正直考えたくもなかったが念には念を入れて、だ。ワールドクロニクル時代の知識から稼ぎどころは分かっている。



 またそれだけでなく先日の『矛盾の黄昏(パラドクス)』の襲撃を受けてパーティーの実力を上げ、連携を図れるようになる必要があると考えたのもひとつにある。クロノやアルレシャは絶対的なステータス優位から力押しの傾向が多々ある。しかし西の村で出会ったハナエルやハマリエルなどの異常な存在を前にしたときそれが通じるかどうかは分からないのだ。実際ハナエルやハマリエルはワールドクロニクルで存在しなかった魔法を使っていた。個人の力が通用しないことがあり得る以上パーティーでの連携は不可欠である。


 ゲームと違ってコンティニューなどないのなら慎重を期すべきというのが今のクロノの考えであった。



 という訳で迷宮に潜る準備を整えるためにクロノ達はこの場所を訪れていたのだ。

 この通りは『冒険者通り』と呼ばれ、迷宮に潜る多くの冒険者が利用する。その為、周りは鎧で身を包んだ戦士職の者達や杖を持った魔法使い、人族、獣人族、水棲種族まで様々な冒険者達でごったがえしていた。



 「どこを見ても冒険者ばっかりですね」

 「水中迷宮は稼ぎが良いからな。いろんなところから冒険者が集まって来てるみたいだな」

 辺りを見回しながら感心したように言うアルレシャにクロノは言葉を返す。ここまで大きい市場はミスタン以来だからかアルレシャも興味津々だ。最もアルレシャの興味の多くは立ち並ぶ食べ物屋台に向けられているが。




 「回復薬にマナポーション、光魔石も必要ね。回復薬はあっちの方が安かったからそこで買いましょう」

 一方、ルトナの方はアルレシャと違って買い物リストを見ながら値段のチェックにも余念がない。もともと一人で冒険者をしていたこともあってルトナはこういうものはお手の物といった様子である。



 アルレシャに【水中駆動(スイミング)】を覚えて貰ったり、パーティーが水中での戦闘に慣れるのに数日は掛かるだろう。本格的な攻略はその後だ。十階層辺りまで探索を行ってその日の内に帰ってくればそれなりの訓練になるはずだ。その後、目的の階層を目指して探索を行うのが効率は良いだろう。クロノが考えている階層はショートカットを重ねれば三日程度で帰ってこられるはずである。





 そんな事を考えながら歩くクロノは後ろに一つの影。背後から近づくその影にクロノは全く気付いていなかった。




 ぺたぺたと音を立てて走り寄るその影はクロノを前にして力強く大地を蹴り、体のバネを活かしてふわりと飛び上がる。クロノがその気配に気が付いて振り返ろうとしたが既に手遅れだった。



 大地を蹴り、飛び上がった影の足が綺麗に揃い、力を溜めるように膝が曲げられる。

 そして引き絞られた弓を解き放つようにして突き出された足は無防備なクロノの頬に見事に突き刺さった。アルレシャは唖然として目を見開き、ルトナは驚きに猫耳としっぽをピンと立てた。




 弾かれるようにして地面を転がり、通りにべちゃりと倒れ込むクロノ。周りの人々は流石冒険者というべきか転がって来たクロノを器用に避け、何事かとクロノと今し方クロノに完璧なドロップキックを見舞った人物とを交互に見ている。




 「……っ痛ぅ、な、んだ?」

 目を白黒させながら顔を上げたクロノは突然の蹴りかかって来た襲撃者を見遣る。それは少女であった。

 アルレシャよりも見た目少し幼いくらいだろうか、白雪のような透明感のある肌に貫頭衣のような薄い布を巻いている。見るものを惑わすような金色の瞳は確かにクロノを見据えていた。

 クリーム色の長髪が風に靡く。その間から覗いた尖った耳は少女の種族を如実に示していた。



 ――森人族(エルフ)

 クロノはそのファンタジーの代名詞ともいえるその姿をただ呆然と見つめる。



 すたんと地面に着地した機械的なほど整った美貌の少女は仁王立ちになり片方の手を腰に当て、もう片方の手で言葉を失ったクロノを指さす。最早クロノの頭の上には疑問符しか浮かばない。




 「私を弄んだ責任取ってください」

 「……せ、せきにん?」

 威風堂々とそういう少女にクロノはそんな言葉を口から絞り出すのが精一杯であった。






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