お嬢様とメイド
御読み頂き有難う御座います。
第二章幕間更新しました。登場人物は徐々に編集していく予定です。
「私までごちそうになってしまって……どうもありがとうございます」
「いいんですよ。臨時収入もありましたし」
案内人であるゴンドラの漕ぎ手、フランカさんが豪華そうな食事を前にして申し訳なさそうにお礼を言う。
潜水士試験の後、クロノ達はアルカヴィルシオの観光名所でもある噴水広場からほど近いところにあるレストランで昼食を取っていた。
冒険者ギルドを出たクロノ達はフランカさんのゴンドラに乗り、宿屋を目指す予定であったのだが予定よりも早く用事が済んだことと潜水士試験の水中戦で賭けを行っていた『水拳』のグルースから回収した臨時収入があったことから予定を変更してアルカヴィルシオの街を観光することにしたのだ。
元A級冒険者、フィーリスとアルレシャの水中戦の後、冒険者ギルドは大騒ぎだった。無名の新人が熟練の冒険者に勝利したのだから当然だろう。
おかげでアルレシャを勧誘しようとする冒険者達が沸きに沸いて大変だった。ついにはギルド職員が出てきて制止を行う羽目になったのだからその混乱ぶりが想像できよう。にこやかに対応していた受付嬢のお姉さんの一喝は非常に恐かったとだけ言っておこう。
アルレシャはフィーリスと戦った時のその様子からまだダンジョンに潜ってもいないのに『魚雷少女』という二つ名を貰っていた。この二つ名のもととなった火星精を使った独特の泳法であるが後から聞くと水中での移動に関する魔法を知らなかったというのが実のところであるらしい。アルレシャが泳げないことにはクロノも驚いたがそういえばミスタンでも星獣は魚とは違う種だと言っていた気がする。
アルレシャに目を向けるとおいしそうに淡水魚のムニエルのようなものを頬張ってパクパクと食べているところだった。急いで食べ過ぎて口にソースがついている。アルレシャはクロノが見ているのに気付くと不思議そうな表情で首を傾げた。そんなアルレシャを見てルトナがハンカチを取り出し、口についたソース拭く。何とも平和な光景である。
マッキーはというと珍しくクロノの肩の上である。食事をとることの出来ないマッキーはみんなが食事をしているときはクロノのところまで来て魔力の補充に勤しんでいるのであった。
クロノはそんな様子を見ながら自分も料理を食べ始める。見たところフランス料理によく似ていて食材も新鮮、彩りも鮮やかだ。元の世界のちょっとオシャレなレストランの料理といえばわかりやすいだろうか。そう。OLや主婦の方々が昼下がりに談笑をしながら食べているあんな感じの料理だ。
異世界故にクロノの知らない材料も中にはあったが料理としては現代社会と遜色ない。
この世界は意外と技術が発達している。意外とというのもおかしいが中世ファンタジーのような街並みでありながらその実衣食住に関しては現代社会にも劣らない。
これは魔法が普及しているからで『ワールドクロニクル』の時代には魔法具は一定の施設しか使われていなかったのだが五百年の時を経てそれが一般家庭まで浸透したらしい。そのため中世のような建築様式でも中に入ってみれば冷暖房完備、風呂付、家事も魔法具を使って楽々、といったパターンが多い。衣については言わずもがなである。もともと魔物の素材というファンタジー素材があるせいでむしろこちらの方が頑丈で多様な服飾品を手に入れることが出来る。
クロノは街並みや文化が中世のままなのもなまじ魔法という便利なものがある為に現代社会と違い、機械化による産業革命が起らなかったからだと考えている。なぜなら魔法により建物の強度を上げられるし、魔法による生産ができるため大規模な工場の必要性もないし、魔物素材は自然素材でありながら元の世界の合成素材よりも優秀なものも多い。
またこの世界の人には例外なく魔力という不思議パワーが備わっているために多少勉強をすれば大なり小なり魔法が使える。その為物質面の効率化より魔法を使った方が手間も掛からず一般にも普及しやすいのだ。
機械化が進んでいないため飛行機や車などといったものはないがそれでも現代とは違った方向性で文化が発達しているためほとんど不便さを感じることもない。まあ機械が発達してもなにそれ魔法でやった方が楽じゃん、といった感想しか出てこない。明らかにコストに対してリターンが少ないのだ。兵器に関しても戦略級のものを除けば魔法使いで対応できるので機械化はこの後も容易には進まないだろう。
そんなことを考えていると女性陣達は食事を食べ終え、デザートに何を頼もうかとメニューを見ているところだった。クロノは先程貰った賭けでの戦利品をルトナに渡す。
「ちょっと用が出来たから出てくる。ゆっくりしてくれ。観光はしててもいいが大きな通りから外れないようにな。そのまま宿に行くから宿でまた落ち合おう」
ルトナはその言葉に首肯してデザート選びに戻った。
クロノはマッキーを肩に乗せたままレストランを出て少し大通りを歩いたところで路地へと入っていく。
幾つかの角を曲がり人気のない方向へと進んでいく。行き止まりまで来たところでクロノは【月駆】を使い屋根へと飛び上がる。飛び上がった屋根の上から行き止まりを確認しているとローブを纏った人物が通りの中に入って来た。その人物はきょろきょろと辺りを見回しクロノのことを探す。
「誰か探してるのか?」
クロノを追っていた人物に対してクロノは屋根の上から声を掛けた。クロノ達を尾行している者がいるのに気が付いたのはマッキーだった。マッキーは風の魔法で周囲を定期的に警戒していたのだ。そこに引っ掛かったのがこの人物である。この人物はクロノ達が街に入って来た辺りからずっとクロノ達を見張っていたらしい。この世界で恨みを買うようなことといえばロイド・カーセルの一件か『矛盾の黄昏』の件位である。どちらにしても危険であることに変わりはない。マッキーから尾行のことを聞いたクロノは急遽予定を変更し、このように相手をおびき出すことにしたのだ。
クロノの声に尾行していた人物が驚いて顔を上げる。
その容貌は驚くべきものだった。大きく見開かれた目に眉間に刻まれた深い皺、人間ではあり得ない程に捻じ曲がり頬の辺りについている。口の周りには無精髭が生え、独特な青い斑点の付いた被り物で頭を覆っている。
「……ひょっとこ?」
クロノの動きが止まる。相手も固まってこちらを見る。二人の間に沈黙が落ちた。
「見つかっては仕方ありませんわね」
「ひょっとこ縦ロールお嬢様だと!?」
尾行をしていた人物ががばっとローブを脱ぎ捨てる。そこに現れたのは漫画から出てきたかのような立派な縦ロールにフリルをあしらった優美なドレス、日傘を手に持った貴族令嬢のイメージそのままのお嬢様だった。まあひょっとこの仮面をしていなければの話だが……。
「オーホッホッ!甘いですわ!私が一人で貴方を尾行けていたと御思いですの?」
お嬢様はどこまでもお嬢様だった。現実には存在しえないと思われていた存在にクロノは驚愕する。ここまで忠実に再現を行うとは異世界侮り難し!と思っていたクロノの後ろに音もなく影が現れ、斬りかかった。
「……殺った」
「それも予想済みだよ!」
クロノは振り向きざまに腰から魔法剣を抜き払い、クロノに向かってくる短剣を薙いだ。剣と短剣の間で火花が散り、力では敵わないと悟った襲撃者が後ろ跳びで勢いを殺しながら逃れる。マッキーから尾行者は二人と聞いていたので一人しか姿を現さない時点でこのようなことは想像していた。
襲撃者はくるりと猫のように空中で身を翻すとふわりと屋根の上に着地した。
「――ッ!?」
クロノは驚きに目を瞬かせる。その動作にではない。その恰好にだ。
「ロリ巨乳バイキング般若メイドだとッ!?」
もうクロノは自分でも何を言っているのか分からなかったが事実なのでしょうがない。襲撃者はロリ巨乳であったし、頭には元の世界で見た厳つい北方のバイキングが被るような兜を被っており、顔にはひょっとことお揃いなのか般若の面をそしてその恰好は紛う事なきメイド姿であった。
……何だろう。要素要素は許容可能なのに一つに集まると何とも言えない思いに駆られる。一言で言えば濃ゆい。どうしてこんな方向性に走ってしまったのだろうか。
今からこの濃ゆいメンツと戦わなければならないのかと思うと憂鬱な気分を抑えられない。
クロノは暗澹とした気持ちで剣を構えるのだった。




