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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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人魚vs人魚?


 クロノ達は観客席に座り、アルレシャが訓練場に入場してくるのを待っていた。


 訓練場の上空にはいつの間にか水鏡を利用した大きなスクリーンが浮かび上がっている。スクリーンにはアルレシャと人魚族の試験官の様子が映し出され、実況中継のように様々なカットから二人の姿を見ることが出来る。


 潜水士試験はイベントとして見られているのか次々とギルドにいた冒険者が集まって来ていた。どこから聞いたのか近所の一般人らしき人までいる有様だ。新人が何分持つか賭けまで始まっている始末である。

クロノは立ち上がり、集まって賭けをしている冒険者達の前まで進む。



 「一口いくら?」

 「おお、あのイカス踊り子の嬢ちゃんのツレかい?一口銀貨一枚だ。どこに賭ける?」

賭けをまとめていた男は手書きの簡易な倍率表を見せながらクロノに問う。三分、五分、十分……アルレシャが何分間耐えられるかで賭けているようだ。人気が高いのは十五分。次が十分といったところか。大穴で四半刻なんてのもある。


 「今回の嬢ちゃんは人魚族ってことでいつもより時間が長い方が人気だな。でも今回は試験官が悪いからとんとんって奴もいる。なんせフィーリスちゃんは元A級冒険者だからな」

 「強いのか?」

 「こと水中戦での速さでは右に出る物無しって言われてたからな。まあ元々治癒術の功績が認められてA級になったんだが魔法もB級の上位くらいの実力はある。強いか強くないかでいうとそら強いわな」

 クロノの問いに賭けを主催した冒険者の男は肩を竦めてそう答える。フィーリスという試験官は戦闘系のA級ではないようだが実力は折り紙付きということか。



 「……試験官が負ける方に銀貨十枚」

 「おいおい!あんた人の話聞いてたか?そんなの誰も賭けてねえぞ。それとも金をドブに捨てるほどの金持ちか?」

 クロノがそういいながら銀貨を渡すと男は呆れた様子で言う。周りの冒険者達も嘲笑をしている。世間知らずの坊ちゃんだと思っているのだろう。



 「試してみないと分からないだろ?」

 「試さなくても分かるってんだよ。まあいい、いい稼ぎだからな。ま、もしフィーリスちゃんが負けるようなことになったら掛け金総取りの他に俺がお前の出した銀貨を百倍にして返してやってもいいくらいだ」

 「その言葉忘れるなよ?」

 「男に二言はねえ。B級冒険者『水拳』のグルースの名に誓って約束してやらあ」

 クロノはニヤリと悪そうに笑う。自分から賭け金を増やしてくれるとは有り難い。実はアルレシャが勝つというのにも根拠があるのだ。先程から訓練場に立つピンクの髪の女性。人魚族のフィーリスの手に着けているものを見て貰えば分かる。そう、腕輪だ。クロノやアルレシャが手につけているものと同様の。つまりは『決闘の腕輪(デュエル・リング)』である。



 フィーリスはこれが試験だからということでレベルを相手に合わせるためにこれを着けているのだろう。しかしそれはアルレシャを侮っていることに他ならない。元A級冒険者といえど『決闘の腕輪』で弱体化した状態、さらに言えばアルレシャの方が圧倒的にステータスで上。これで負けることなどあろうか、いやない!


 そんな訳でクロノはこの勝負で一儲けしようとしていたのだった――。





 ――そしてアルレシャが入場し、試験が始まった。

 先手を取ったのはフィーリスの方だった。竜巻のような水流が幾筋もアルレシャへと殺到する。アルレシャは『障壁強化(バリアブースト)』を重ね掛けした『高位水壁ハイウォーターウォール』でその場に留まったまま攻撃を受けた。水壁に竜巻がぶつかりうねる。しかし強化した水壁は破られず、向かい合った二人が再び映し出された。人魚族の試験官、フィーリスがニヤリと好戦的な笑みを浮かべたのがスクリーンに映る。



 フィーリスは人魚族特有の下半身を波打たせ、縦横無尽に水の中を泳ぎ回る。その優雅な泳ぎは時にその姿が霞んで見えるほどに速い。対して不動の構えを取っているのがアルレシャだ。まるで巌のようにしんとしてその場を動かない。フィーリスが全方向から撃ってくる魔法を障壁で防ぎながらフィーリスの気配を追っているようだ。アルレシャは気配を探りながら時折、魔法を放っているが相手もさるものでそれを余裕をもって回避しているように見える。



 「フィーリスちゃんは流石の速さだな。手加減してるとはいえあの速さ。人魚族はやっぱり違うな」

 「踊り子の嬢ちゃんもなかなかだぞ。いろんな方向からくる魔法を上手く弾いてやがる」

 「今回の新人はなかなか期待できるな」

 冒険者達が口々に感想を漏らす。賭けで短い方に賭けていた冒険者達は項垂れながら戦況を見ていた。



 一方、戦況はというと泳ぎ回り魔法を放つフィーリスとそれを障壁で見事に防ぐアルレシャ。

 動と静。どちらもまだ小手調べの状態だ。魔法を撃ち合いながら牽制しあい、相手が次にどのような攻撃に出るのか図り合っているのだろう。

 真剣な表情をした二人の様子がスクリーンに映し出される――。




 「――あなたなかなかやるわねー。でも魔法を防いでいるだけじゃ合格はあげれないわよー」

 間延びした声とは対照的に高速で移動しながらフィーリスはアルレシャに声を掛ける。水を媒介にし、振動を利用してアルレシャに声を届けているのだ。それだけもフィーリスの魔法の熟練度が分かる。



 「まだまだこれからですよ」

 アルレシャは即席でフィーリスの真似をし、同じように水中に声を響かせる。このように即席で相手の魔法を真似てしまえる辺りがクロノがアルレシャを天才と称する由縁であった。



 しかしながらアルレシャにこの時余裕があったかというとそうではない。アルレシャは考えていた。

 アルレシャはライヤーから『水中駆動(スイミング)』を習っていなかったために第二の試験であった水中機動試験を力技で乗り切っていた。常人ではやらない手段であってもアルレシャはその魔力よってそれを乗り越えたのだ。だが水中戦においてその方法を利用するのは困難だった。フィーリスが速すぎるのである。縦横無尽なフィーリスの駆動にアルレシャがついて行けるかというとそれは不可能と言わざるを得ない。なんといっても水の中はフィーリスの独壇場なのだから。



 だからアルレシャは待つ。最大のチャンスを。フィーリスの動きを見極めることに集中する。

 アルレシャは目を閉じ、探知機のように魔力を水中に放つ。

 先程からフィーリスは攻撃に水魔法だけでなく雷魔法も含めてきている。雷魔法は障壁で弾いても拡散するから厄介だ。



 ――上から雷撃、回り込んで左後ろから水流、下から雷撃、眼前から目晦ましの水流、そのまま真後ろに銛による近接!ここです!



 アルレシャは銛を構え、後ろに回りゆくフィーリスを感知すると振り向きざまに魔法を発動させる。




 「【召喚(サモン)】【火星精(マーズ)】!」

 淡い光が輝き、アルレシャの足元に星精が召喚される。天使のような羽根を持ったその星精はクロノが依然ミスタン近郊の遺跡で使ったものを改良したものだ。通常の星精と違いこの火星精は火属性も併せ持つ、さらに物質化を果たし、属性を表す赤い体をしていた。頭の上には天使の輪のようなリングが回っている。



 「【高位障壁(ハイバリア)】【障壁強化(バリアブースト)】!【爆発(エクスプロージョン)】!!」

 火星精に乗っていたアルレシャの足元が爆ぜる。火星精達が後ろに弾け飛ぶのと同時に一気に加速されたアルレシャが障壁を纏いながらフィーリスへと突撃する。うねりを上げながら水を押しのけ、アルレシャはぐんっとフィーリスへと迫った。



 「ほわぁーっ!?」

 フィーリスはこれまた間の抜けた声とは裏腹に素早い動作でアルレシャの弾丸のような軌道を紙一重で躱す。しかしアルレシャの突撃の勢いにフィーリス体勢を崩し、吹き飛ばされる。



 「驚いたー!でもっ!これで隙が出来たでしょー!後ろはがら空きだよねー?」

 尾鰭を打ち、体勢を立て直したフィーリスは銛に最大級の雷を纏わせながらアルレシャへと電撃を放つ。そこにあるのはフィーリスの言った通りの無防備なアルレシャの背中だ。



 「ちぇすとぉー!!」

 銛から飛び出した電撃は勢いを増してアルレシャへと迫る。この一撃を無防備なアルレシャが受ければただでは済まない。下手をすれば麻痺で戦闘不能に陥ってしまうだろう。

 戦いを見ていた観客も誰もがこの一撃で決まったと思った。



 「まだまだ負けるわけにはいきませんっ!!」

 アルレシャはそう叫ぶと突撃の勢いのまま体をくるりと前転をするように入れ替える。



 「【召喚(サモン)】【火星精(マーズ)】!」

 水泳のターンのように向きを変えたアルレシャの足元にあったのは再び召喚された火星精だった。ぐっとアルレシャが膝を曲げ、溜めを作る。


 「【紡錘障壁(スピンドル)】!【爆発(エクスプロージョン)】!!」

 アルレシャの正面に障壁が多重展開され一つの槍のようになり、それと同時に爆発が起こった。再び勢いを得たアルレシャは襲い来る電撃を斬り裂くようにしてフィーリスへと突き進む。



 「嘘でしょー!?」

 フィーリスが悲鳴を上げながら魔法を解除し、回避行動へと移る。しかし今度は避けきれずに体に赤い線が走った。フィーリスは距離を取ろうと泳ぐがアルレシャは先程同様急激な反転を行い、それを追う。



 そこからは追いかけっこのようだった。蛇行しながら回避を繰り返すフィーリスに火星精を召喚しながら立て続けに爆発させ強引な軌道でそれを追うアルレシャ。

 それはいつまでも続くように思えた。




 しかし何物にも終わりは存在する。アルレシャが追うのを止め、水中に浮かんだまま停止したのだ。

 これはある意味当然と言えた。火星精の召喚、障壁の展開。アルレシャはフィーリスを追うごとに魔力を大きく消費していく。対してフィーリスは身体強化に魔力を使っているもののその消費はほとんどない。

いくら膨大な魔力を持つアルレシャとてその魔力には底があるのだ。




 フィーリスが勝者の余裕をもって優雅な動きでアルレシャの正面に立った。




 「驚いたわー。人魚化せずにこんな手段で私を追い詰めるなんてー。すごい魔力量ね。あ、もちろん試験は合格よー!久々の大型新人ねー」

 にこやかな笑みを浮かべフィーリスはアルレシャに言う。しかしアルレシャの口から出た言葉はフィーリスにとって意外な言葉だった。



 「……まだです。わたしが主様に捧げるのは勝利だと決めていますので」

 フィーリスの笑顔が強張る。そんな様子をよそにアルレシャは静かに手を掲げた。



 「わたしが無駄にあなたを追っていると思いましたか?」

 フィーリスは気付く。いくら魔力の量が多いからといって無為に通用しない攻撃を繰り返すだろうか?いやそんなことはしないはずだ。だとすればその行動には他に意味があったのだ。

 フィーリスははっとなって辺りを見渡す。



 「お気づきになられましたか?でももう遅いですよ」

 フィーリスの周りにあったのは赤い光の群れ。アルレシャがフィーリスを追うときに召喚した火星精がフィールドを埋め尽くすかの如く点々と光っている。



 「ま、まさか……フィールドごとっ――!!」

 「【起爆(エクスプロージョン)】」

 フィーリスの言葉はそこで遮られた。無数の赤い光が膨張し、膨大なエネルギーを撒き散らす。フィーリスとアルレシャはその衝撃に飲み込まれてすぐに見えなくなった。轟音と共に満たされていた水さえも吹き飛ばされて訓練場全体に雨のように降り注ぐ。

 濛々と水蒸気が立ち上り、視界を遮って何も見えない。




 「お、おい!アレを見ろ!」

 視界が回復するのを待っていると誰かが唐突にそう叫んだ。薄れていく蒸気の中フィールドに立つ一つの影。


 「あれは!!」

 だんだんと視界が鮮明になる中、男の指さした先にいたのは荒い呼吸を繰り返すアルレシャだった。足元には目を回して倒れているフィーリスの姿もある。



 「おおおおおおおおお!!」

 爆発するような大きな歓声が客席から上がる。アルレシャはその歓声に驚きながらも客席にいるクロノを見つけて笑顔で手を振るのだった。





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