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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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人は見かけによらぬもの



 主様(マスター)の第一の下僕ことアルレシャです。主様に召喚されて以来主様の下僕として忠実にその役目を果たしてまいりました。


 そんなわたしですが今わたしはとんでもない窮地に陥っていました。


 「はじめましてー!試験官のフィーリスよー。あなたも人魚族なのねー?よろしくー」

 わたしの前にいるのはピンク色の髪をした綺麗な人魚族のおねえさんです。おっとりした感じの方ですがここに案内してくださったギルド職員の方によると彼女は元A級冒険者だといいます。


 「アルレシャです。よろしくお願いします」

 わたしが自己紹介をするとフィーリスさんはにこやかに笑って試験の説明を始めました。試験は『潜水士(ダイバー)』としての実力を見るためのもので別に勝負に勝つ必要はないとそうです。しかし主様の第一の下僕としてここは勝利をしないといけないでしょう。



 そんなことを考えているうちにフィーリスさんの話が終わって訓練場の魔法陣が光り始めました。見る見るうちに周りが水で満たされていきます。わたしは水中での活動が可能となる『水適応アダプテーション・ウォーター』の魔法を自分に掛けます。魔法を発動すると薄い水色の膜がわたしを覆い、水中での呼吸が出来るようになりました。



 いつの間にか足を魚のようなひれに変えたフィーリスさんが優雅な動きで水に浮かんでいます。わたしも地面を蹴ってフィーリスさんと同じ高さまで浮かび上がりました。フィーリスさんは先程のおっとりした様子とは別人のように鋭い眼光で手に持った銛のような武器を構えています。


 相手は元A級冒険者。しかも水の中では無類の機動力を誇る人魚族です。

 しかし体力や魔法などの能力で言えばこちらの方が上。わたしはどうやら主様の能力に比例して強くなれるようだからです。




 しかし、しかしです。大きな問題がありました。

 それがわたしを窮地に至らしめている原因でもあるのです。





 正直に言いましょう。わたしは泳げません。

 双魚宮を司るものとして何を言っているのかと思われる方もおられるでしょう。

しかし、しかしです。実際にわたしは水の中に入ったのなどクリムワース号から川へと飛び込んだ一回と今日試験のために入っただけの合計二回しかないのですから。あれは遡ってわたしたちがクリムワース号に乗り込んで数日たったある日――。






 「――アルレシャには『潜水士』資格を取ってもらう」

 「『潜水士』資格ですか?」

 わたしの部屋を突然訪れた主様がわたしに向かってそう言いました。主様によるとこれから向かうアルカヴィルシオには水中迷宮が存在し、そこではパーティー内に『潜水士』が一人はいないといけないのだそうです。



 「ルトナは火系統の魔法しか使えないし、マッキーは風系統だ。アルレシャは水系統の魔法が得意だろ?それに応用力もある。お願いできるか?」

 「もちろんです!」

 わたしはすぐにそれを了承しました。主様の命令に否などもちろんありません。なにより主様がわたしを頼ってくれているというのがたまらなくうれしかったのです。




 「はぁ……」

 クリムワース号の甲板の手摺にもたれながらわたしは溜息をつきました。

 わたしは主様に『潜水士』になるように命じられ早速訓練を開始しました。しかしそこで問題が発生しました。上手くイメージができないのです。魔法とは魔力をエネルギーにして現象を引き起こすことです。引き起こす現象は人それぞれのイメージによって具現化されるのですが、そのイメージが曖昧であったり、使う魔力の量にそぐわなければ魔法は発動しません。

 『潜水士』は水中での探索に特化した存在だと言います。しかしわたしは生まれてこのかた体を清めること以外で水の中に入ったことなどなかったのです。その為イメージがわかず、わたしは魔法を習得できずにいました。



 魚なのにとか人魚族のなりをしてなどと思う方が大勢おられるでしょう。しかしわたしは双魚宮を司り、こんななりをしているといっても大前提として星獣であるのです。

 わたしたち星獣はそびえる山々の上空、鳥たちの飛ぶ領域のもっともっと上、竜すらも届かぬ遥か彼方のある『星海』という場所で生まれました。星海はこちらの海とは違い、水で満たされた存在ではありません。空気も水もなくただただ星々が煌めく空間であるのです。星獣たちはみなこの星海で暮らし、循環するマナと呼ばれる魔力を構成する要素を体に吸収して生きています。


 星獣たちの末っ子たるわたしは随分と過保護に育てられ地上に降りたこともなく、きょうだいたちの話から知識だけはあったものの実際に目にしたことすらなかったのです。

 水魔法に適性があったのもただの偶然でしかありませんでした。ましてや水の中を泳いだこともないのに水に適応する魔法などイメージできるはずもありません。




 「こうなれば……とうっ!」

 わたしは手摺に跳び乗ると勢いのままに船から飛び出しました。後で船員の方が騒いでいますが気にしません。これは特訓なのですから!




 青い水面が迫り、大きな音を立てて着水します。これで泳ぐ感覚さえ掴めれば魔法の習得も容易なはず!主様を想うアルレシャに不可能はないのです!




 「ふぁっ……うぷっ……あっぷ……」

 しかし現実とは非情なものでした。いくら手足を動かしても体が上手く動かないのです。それどころかどんどん体が沈んでいる気がします。これが水、恐るべし水!

 あぁ、そんなことを考えている間にもどんどんと体が水中に引き摺りこまれていきます。こぽりと口から空気の泡が漏れ出し、水を飲んでしまいました。これはまずいです。

 まさかこんな事態になるとは……。魔法も集中力が途切れて上手く発動しません。あれが主様との最後の会話になるなんて……。先立つアルレシャをお許しください。





 ああ体から力が抜けて……。





 意識が薄れゆく瞬間、私のローブに何かが引っ掛かりました。引っ掛かったそれはぐいぐいとわたしの体を引っ張り水底に沈みゆく体を浮上させていきます。





 「――でかい!これはでかいでぇ!これで今晩の飯は安泰や!」

 「せっかくこんな豪華な客船に乗ってるのに食堂で食べれないなんて……」

 「まあまあそう言いなや、リューちゃん。金が無いんや。ほら大物が!……て、人魚?」

 わたしが水中から飛び出した時目の前にはわたしを釣り上げた人たちがいました。金髪でローブを深く被ったうさん臭そうな男の人と可愛いけどどこかつんつんしている緑髪の妖精さんです。



 「……ぷはっ!……けほっ、けほっ」

 わたしは飲み込んでしまった水を吐き出し、新鮮な空気を肺に送り込みながら甲板に膝をつきました。

うさん臭そうな人と妖精さんは心配そうにわたしのことを覗き込んできます。まさか水中で活動することがこんなにも困難だったとは……。




 「助けて頂きありがとうございました」

 「いやいやええんや。まさかこないなことになるなんて思うてなかったし」

 わたしはうさん臭そうな人と妖精さんにお礼を言います。もしこの方たちが釣り上げてくれなかったらわたしはすでに星海よりも遥か果て、神様が魂を管理する『楽園(エデン)』まで召されていたでしょう。まさに命の恩人です。




 「何かお礼を……」

 「ええ、ええ。ワイらはただ間違って釣り上げてもうただけやしな。時に嬢ちゃん。もしかして人魚族なのに泳げんで困っとるんとちゃうか?そんで泳げるようになろうと船から飛び込んで溺れたと」

 おお、何故それを!今まさにそれが大問題なのです。驚いた表情でうさん臭そうな人を見つめるとワイは占い師やからな!と答えてくれました。占いでここまで見抜くとは侮り難しです。




 「もしよかったらワイが水中で活動出来るようになる魔法をレクチャーしたってもええで」

 「なんと!それは本当ですか!?」

 うさん臭そうな人は大きく頷きます。なんという幸運でしょうか。


 「……その代わりといってはなんやが船の食堂で飯を奢ってくれへんか?」

 「もちろんです!」

 水中で活動できる魔法を教えてもらえるならごはんくらい安いものです。これで主様の命令を達成することができるのですから。



 「やったでー!リューちゃん!これでまずい携帯食はおさらばや!」

 「……たかり」

 「失礼なこと言いなや。ちゃんとした仕事や!あくまでギブアンドテイクや!ほな、まずこれで練習からやな――」

 うさん臭い人は甲板にチョークで魔法陣を書き始めます。魔力が込められると人が一人入れるような水の塊が出現しました。うさん臭い人は水中で活動できる魔法、『水適応』の理論を説明していきます。思っていた以上にうさん臭い人の教え方は上手く、説明も分かりやすいものでした。



 こうして半日近くの試行の後、わたしは水中呼吸や撥水効果、それをパーティー全体に効果を与える全体化などを覚えることができたのです。あとはこれを研鑽し、実用レベルまで到達させることができれば主様も満足してくださるでしょう。

 わたしはうさん臭い人と妖精さんに食堂でご飯をめいっぱい奢ったあと、精度を高めるべくむふー、と鼻息も荒く自分の部屋に閉じこもったのでした。





 この時のわたしは気付いていなかったのです。

 『水適応』という魔法が万能ではないことに。

 そう、この後アルカヴィルシオの冒険者ギルドである問題にぶち当たるまでは――。






 ――ライヤーがアルレシャに魔法を教えて数日の後。


 「そういえば人魚の子……アルレシャちゃんだったっけ?『水適応』を教えてたのはいいけどもしアルカヴィルシオの水中迷宮に行くならあれだけじゃ無理よね?」

 「アカン、『水中駆動(スイミング)』の魔法教えてなかったわ……。あれじゃ突っ立っとるだけで水の抵抗で泳げへんぞ」

 「……どうすんのよ。私達もう船から降りちゃってるから戻れないわよ」

 「もし『潜水士』資格取るんなら水中駆動試験は力技でどうにかなるけど水中戦は……どないしよ」



 途方に暮れる金髪の占い師と妖精の姿がそこにはあった。






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