表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
43/90

水上都市アルカヴィルシオ

 朝霧がうっすらと湖面に立ち込める。朝日が霧を照らし、少しずつ漂う霧を溶かしていた。未だ肌寒い初夏の風がクロノ達の間を吹き抜けていく。


 クロノ達はいまクリムワース号の甲板にいた。そろそろアルカスの首都アルカヴィルシオに着くということでその姿を一目見ようと皆で甲板に上がっていたのだ。周りには同じ目的で集まって来たのであろう乗客達が何人もいた。


 「もうそろそろでしょうか?」

 クロノの横に控えたアルレシャが問う。周りは霧に囲まれていてよく見えない。



 「そろそろなのだよ。ほらあちらに灯台の灯りが見える。すぐそこなのだよ」

 マッキーの言葉に従い、船の進む先を見てみると確かに赤い光がちかちかとこちらに向かって光っていた。

 灯台の光が近くなる。船はゆっくりと進んでいく。

 クロノ達がぼうっと灯台の光を見つめていた。



 ――と次の瞬間、急速に周りを覆っていた朝霧が晴れていき、周りの風景が露わになる。


 「ふわぁ!」

 「おぉ……!」

 「これはすごいわね」

 各々が驚嘆を口にする。周りの乗客から感嘆の声が上がった。

 そこにあったのは白亜の城壁に囲まれた巨大な建造物だった。城壁は都市全体を円形に包んでいるらしくその長大な壁の威容は凄まじい。船の正面には巨大な水門があり、ゆっくりとそれが左右に開かれていく。

 灯台があったのはその水門の真上で、そそり立つ姿はまるで西洋の城の尖塔のようだ。そしてその巨大な尖塔の上部、普通なら時計や鐘が取り付けられているであろう位置にぽっかりと穴が開いており、そこに虹色に輝く巨大な水晶が浮かんでいた。

 生まれたての日の光に虹水晶が照らされて荘厳な雰囲気を醸し出している。



 「『白亜の冠』。それがアルカヴィルシオの別称さ。どうだ?驚いたかい?」

 船員が誇らしそうにクロノ達に話しかけてくる。

 クロノは『ワールドクロニクル』の時に見たことがあったが何度見てもやはりすごいと思う。アルレシャなどは船員の言葉にしきりに頷き、目をきらきらさせてそれを見ている。ルトナもその威容を目に焼き付けるかのようにじっと城壁を眺めていた。あのマッキーでさえ静かにしているくらいだ。


 「驚くのはまだまだだ、ほら」

 船員がそう言って指をさす。船は丁度水門に入るところだ。穏やかな朝日が遮られて周りが暗くなる。



 「ふわぁぁぁ!」

 アルレシャが間抜けな声を出す。それもそのはず水門の中はまるで星の世界のように数え切れない彩りの光に埋め尽くされ煌めいていたからだ。海底洞窟のような水門の中は青く光っており、そこに水中、天井問わず小さな光が散りばめられている。まるで宇宙を渡る星の舟である。


 『炯石蛍フルオライト・ランピリス』。それがこの光の正体だ。簡単に言ってしまえば七色に輝くホタルである。

 このホタルが普通のホタルと違うのはその生態にある。『炯石蛍フルオライト・ランピリス』は他のホタル同様、幼虫の頃を水の中で過ごし、成虫になると水上へと出る。それが天井を埋め尽くす星空のような光だ。違うのは『炯石蛍フルオライト・ランピリス』がそこで交配を終えた後水の中に戻り、結晶化することである。結晶化した『炯石蛍フルオライト・ランピリス』はその後も発光し続ける。これは卵が孵化させるための魔力を周りから取り込むためのと同時に外敵の魔力を乱し卵を守る効果があるらしい。これが水中の光である。

 ちなみに生息する地域から一定以上離れると輝きがなくなってしまうため、装飾品には向かないらしい。まあそのおかげでこの貪欲な商人の国でも絶滅の憂き目にあわずに済んだのだろうが。



 「でもまだこれだけじゃねぇんだぜ?」

 「何があるんですかっ!?」

 船員がニヤリと笑った。アルレシャがワクワクと擬音が飛び出しそうなほど目を輝かせて船員に詰め寄る。クロノ達の反応に気を良くしたのかノリノリである。


 「それはいえねぇなぁ。ほれ、自分の目で確かめてみな」

 船員が意地悪そうに笑って去っていく。遠く見えていた出口の光が近づきだんだん大きくなる。船が星屑の道を抜ける。

 眩い光にクロノは目を瞑った。そして目を開いたときに眼下に広がっていたのは水路の張り巡らされた美しい白亜の街並み。アルカスの首都アルカヴィルシオの姿であった。隣でルトナが息を飲むのが分かる。

吟遊詩人の詩にも出て来る白き都アルカヴィルシオ。その景観はまさに絶景といっていい。


 中心の巨大な塔を囲むように円形に都市が形成されており、入り組んだ水路は巨大な魔法陣を彷彿させる。その周りを堀のように水が取り巻いている。



 ――水上都市。まさにその言葉がぴったりだろう。



 どうどうと水の大瀑布が城壁の内側から都市の周りを囲った水の中へ注がれていく。湖の水を取り込んでいるのである。

 壁に囲まれたアルカヴィルシオの街並みは湖の水面よりもかなり低い位置にあった。クロノ達がクリムワース号に乗って出たのは都市の遥か上、城壁に沿って螺旋状に港まで降りていく水路の上だったのだ。その螺子穴のような水路をクロノ達はアルカヴィルシオの全体を眺めるようにしてゆっくりと下っている。


 「あれは何です?」

 街並みに目を凝らしていたアルレシャが何かに気付き、指さした。その指の先は都市を囲む水面へと向けられている。ルトナとマッキーもそれを聞いて船の手摺から乗り出すように水面を覗いた。


 「建造物の残骸……かしら?」

 ルトナが顎に手を当て思案しながら言う。確かに澄み渡った水面深く、船の船底よりもまだ深いところに建物のようなものが見える。


 「あれは迷宮だよ」

 クロノは首を傾げるアルレシャとルトナに向かって答えた。


 「そんな!……まさかアルカヴィルシオの『水中迷宮』!?」

 ご名答、とクロノは首肯した。アルカヴィルシオの街の下には迷宮がある。『水中迷宮』――『ワールドクロニクル』のダンジョン名で言うならば『いと深き奈落の塔』である。五十階層からなるこのダンジョンは水棲の魔物が多く出現するダンジョンである。メインクエストを進めることで二十五階層までしか到達できなかったダンジョンが五十階層までエクストラダンジョンとして開放される。

 このダンジョンはアルカヴィルシオの真下に存在し、街を囲う円形水路や街に張り巡らされた水路から見ることが出来るのだ。その姿は水中にもう一つ都市があるかの如くである。


 何故このようなダンジョンが都市の下に存在しているのかそれは神話の時代まで遡る必要がある。

 神話の時代アルカヴィルシオには巨大な塔があったとされる。その塔は高く聳え立ち、雲を貫き、天をに届かんばかりであったという。

 ここで思い出すのがバベルの塔である。バベルの塔は人間が神に挑もうとして建てたものらしいがアルカヴィルシオの塔はそれとはまた違う。

 なんと塔を巨大な魔法具として神の一柱を現界させようとしたのである。神を召喚しようとしたのだ。なまじ魔法が存在している世界だけに質が悪い。

 しかしその思惑は他の神々によって阻止され、塔は地中深くに沈められることとなり、その塔を封じる蓋の役目としてアルカヴィルシオが作られたというのが神話の結末である。



 その後、地中深くに沈んだ塔が迷宮化したのがこのダンジョンである。水上に出ているのは塔の頂上にあった四つの尖塔のみだ。東西南北の四つの尖塔は現在ダンジョンの入り口として使われ、管理されている。



 都市の下にダンジョンがあって危険ではないかという点については大丈夫らしい。特殊な封印が施されており、迷宮内の魔物は外に出てこられないという。

 『ワールドクロニクル』の時は気にもしていなかったが、現実として考えればそのような処理を施されていなければそこかしこに迷宮があるのだ安心して暮らすことも出来ないだろう。

  



 ちなみに水門の尖塔に浮かぶ虹水晶も神代のものだ。採光のための魔道具である。光を吸収し、それによって城壁の中の都市を照らしているのだ。アルカヴィルシオが出来た時に神から齎されたという逸話を持つ品である。


 そんなことを説明していると船が港へと到着した。説明している時にルトナにあなたって妙なところで博識ね、と言われた。クロノも確かに一般常識も知らない田舎者という設定のクロノにしては詳しすぎると納得してしまった。ルトナにはまだクロノ達の事情を説明していない。正式に仲間になったことだし伝えてもいいとも思う。しかし信じて貰えるかは微妙なところだ。

 

 まあ折を見て話してみよう。そんなことを考えながらクロノは港へと降りる用意を始めたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ