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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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道外れし者


 「しかしこれは酷いな。」

 村の様子を見て回っていたクロノが呟く。村はクロノが口に出してしまうほど酷い状況だった。もともとあった建物は上空から破壊されたのだろう。屋根が吹っ飛んでいたり、中には基礎の部分しか残っていないものもある。村の周りに村全体を覆うように幾重にも円形の焼け跡が残っており恐らくは意図的に村人たちを逃げられなくしたのだろう。執念すら感じさせるほど徹底的な殲滅だったことが見て取れる。村の中心の焼け跡は特に苛烈で地面には溶けた跡もある。消し炭のような人型の影が地面についていた。

 まさに地獄絵図のようだった。



 「……これをダリアが?」

 ダリアがこんな徹底的な破壊を行うようにはクロノには思えなかった。



 「ますた。こわいです」

 「このようすではだれもいきのこりはいないです。」

 ひーちゃんは珍しく怯えた様子で辺りをきょろきょろと見回している。そんな中クロノはさっちゃんの言葉に何か引っ掛かりを覚えた。



 「でも噂になってるってことは生き残りがいたのだろう?私には信じがたいのだよ」

 静かに腕を組んで黙っていたマッキーが口を開ける。

 マッキーの言う通りだ。商人はここから逃げ出している。

 これだけ徹底的に殲滅を行っておいてただの商人が生き残れるとは思えない。なにかしら意図があるのか?わざと逃がした?それをする意味は何だ?

 それともそもそも噂自体が間違っていたのか?




 クロノの中でぐるぐると様々な憶測が渦巻く。しかしいくらたっても結論は出なかった。




 「……もう少し調べてから帰ろう」

 クロノはマッキーとぷれあです達にそう声を掛け、再び手掛かりを探すべく村を調べるのだった――。






 ――端的に言うと手掛かりになるようなものは何もなかった。建物が徹底的に破壊されており、中のものも無事なものはほとんどなく、あってもこれといって特別なものはない。イベントなどでよくあるような地下室なども探したが当てが外れ、そのようなものは見つけることが出来なかった。

マッキーとぷれあです達もこんなところでははしゃぐ気に慣れなかったのか大人しく探索を手伝ってくれている。




 「……無駄足か」

 クロノが崩れかかった建物から出て溜息を吐く。今回の収穫は来る途中で拾ったくま一匹である。こうなると旅の予定を遅らせてまで待って貰っているアルレシャやルトナに申し訳ない。



 「ますた!【索敵(さーち)】にはんのうです!」

 そんなことを考えていると突然みっちゃんが声を上げる。



 「魔物か?」

 「いいえ!とつぜんでてきたです!まるでてんいしてきたみたいです!」

 この世界の魔物は動物などが濃密な魔力を得て魔物化するか繁殖によって増えるという説が一般的だ。そのため突然現れるということはないらしい。みっちゃんの言うように突然反応が現れたというなら転移というのが妥当だ。しかし転移を使えるものはこの世界にほとんどいない。転移の魔道具もあるらしいが人・魔道具のどちらも国による厳重な管理がなされている。そう軽々と使えるものではないのだ。



 そうしているうちに遠くから地響きが聞こえてくる。巨大な何かが歩いているようだ。何か重いものを引きずるような音も聞こえる。



 「こちらにせっきんしてくるです!かずはふたつ。」

 みっちゃんが状況を説明してくれるがその頃には既にクロノの目でもそれを確認することが出来た。



 森から出る巨大な男の上半身。肩には鳥のような羽根を背中から生やした女性が座っている。

 男の方は巨人族であろう。確か北の魔族領との境にある山岳地帯に生息している種族だったはずだ。それにしても大きい。五メートル近くあるのではないだろうか。太い腕を振るい、木々を掻き分けて進むその姿は圧巻だ。

 そして肩に乗る女性。これはたぶん鳥の獣人、俗にいう翼人族ではない。天使族だ。天使族といっても『ワールドクロニクル』においては神の使いなどではなく一種族として扱われていた。翼人族と天使族の違いは翼人族が獣を祖とし、魔法適正が低いのに対して、天使族は妖精を祖とし、魔法適正が高いというところだ。天使族は魔王を倒した後に行くことの出来る天空大陸に存在し、そこでのイベントのクリアによって転生することが出来るようになる。クロノの記憶では天使族は天空大陸のみに住んでいて地上に降りて来ることはなかったはずだ。どうしてこの場に現れたのか分からない。

 巨人族と天使族という組み合わせも奇妙だ。

 



 クロノはとりあえず建物の影に隠れ、様子を窺うことにした。




 バキバキと木を押し倒して巨人族の男が姿を現す。足は短足でその代わりに腕は地に着くほど長い。体全体が筋肉で出来ているかのように盛り上がっており、腕だけでも大樹の幹程もありそうだ。振り乱したぼさぼさの髪から赤い眼光がぎらぎらと光っている。体全体が土色でぼろの布を腰に巻くその姿はまるでゴブリンをそのまま大きくしたようだった。

 さらに目を引くのはその手足に鎖で繋がれた鉄球だ。馬車程もあろうかという鉄球を軽々と引き摺っている。手には何かを持っているようでそれを弄って愉しそうに歯並びの悪い口を歪めている。



 「アハハハハハハ!!アドナキエルの奴本当に死んでんじゃないの!ざまぁないわね!アハハハハハハ!前から嫌いだったのよね。堅実でつまぁんないんだもの。ねぇ?あなたもそう思わなぁい?」

天使族の女が哄笑を上げながら巨人族の男に問う。天使族の女はウェーブの掛かった金髪に陶磁のように白い肌、天使族特有の整った容姿は妖艶さを感じさせる。豊満な肉体を体にぴったりと張り付くような露出度の高い純白のドレスで着飾り、その姿は舞台女優のように華やかだ。



 「グフ。ギャバババババ!ダノジイ!コワズノダノジイィィィィィィィ!」

 巨人族の男は口元を更に大きく歪ませて地の底から響くような声を上げる。


 「あぁ、こいつに言ってもダメだったわ。」

 天使族の女はつまらなそうにくるくると髪を弄って呟く。巨人族の男はそんな女の様子など気にした風もなく手の中のものを弄んでいる。


 「あ!でもぉ、そぉの手に握っているのはなかなか素敵ね。アハハハハハハ!悲劇よねぇいいわぁ!とても悲劇的で喜劇的だわぁ!あぁ濡れちゃう!」

 天使族の女は恍惚とした表情で巨人族の男の手の中を見つめる。ぺろりと口元を舐めた鮮やかな赤い舌が白磁の肌を一層際立て、肌が粟立つような感覚をクロノは覚えた。

 そして巨人と天使が見つめるその先へとクロノは目を向ける。




 何だ?何か赤い……?




 クロノはそれに気が付いた瞬間戦慄した。

 

 ――人間だ。血塗れの男が巨人の男のその手に握られている。

 

 気を失っているのだろうだらりと体は垂れ、腕などは在らぬ方向へと曲がり、死んでいるようにも見える。



 「ゲヒャ!ゴワズ!ナンドデモ!【邪光活性(ケイオスヒール)】」

 「アァァァァ!ウグゥゥアアア!」

 巨人が死にかけの男を握っていた手からどす黒い光が溢れる。死にかけていた男の傷が見る見る塞がり、あり得ない方向に曲がっていた腕も元の形を取り戻していく。しかし癒えていく傷とは対照的に男は白目を剥き、目を血走らせながら痛みに絶叫を上げる。


 傷が癒え、ぐったりとした男を巨人が逆さに吊り上げる。片足を持ち上げられ、身動きが取れなくなった男は怯えるように声を上げる。その男の腕を巨人が指で嬉しそうに笑いながら摘まむ。次の瞬間には男の腕は再び在らぬ方向へと曲がっていた。また男の絶叫が響く。



 男がどんなに喚こうと巨人はその手を止めない。

 巨人が男の体を弾く、男は血を吐き出し、動きを止めた。


 


 「……何だ、あれは……狂ってる」

 クロノは怒りよりも訳の解からないものに対する恐怖が勝っていた。マッキーとぷれあです達も唖然として言葉も出ない様子だ。目の前の光景を信じられないというより信じたくないといった方が正しい。

 クロノはあまりの状況に動くことが出来なかった。しかしクロノはこの時動くべきだったのだ。



「【邪光活性(ケイオスヒール)】」

 また巨人が呪いの言葉を口にする。男の傷が治っていく。しかし今度はそれは傷を癒すだけに止まらなかった。男の体を這うのようにして黒斑が伸びていき、ぐずぐずと膿みだしたかと思うと肉が腐り、ぼたりと腐った体が溶け落ち始めたのだ。もはや男は声を上げる器官すら失って絶叫すらも出来ない。



 そして最後に巨人はその人間だったモノを握り潰した。

 べとりとした赤黒い液体が地面に流れ落ちる。



 「……ッ!うぅッ!!」

 クロノはその光景を見て口を覆った。魔物を殺して少しは慣れたと思っていたが甘かった。

 目の前で見せられる凄惨な状況にクロノの胃は中に詰まっているものを押し戻そうとしてくる。



 「あらぁ。何事もやり過ぎはよくないって言ってるのに。」

 天使の女はそれに動じていないどころかむしろ楽しくて堪らないという様子だ。

 こちらの女の方もやはり狂っている。



 「でもぉよかったじゃない。近くに新しい玩具がいて。アハハハハハハ!」

  そう言った天使の女の顔がこちらに傾ぐ。その顔は相変わらず妖艶でクロノの背筋を凍りつかせた。




 「――さぁ、いらっしゃいな。子ネズミちゃん」

 まるで影に縫い付けられたかのようにクロノはその場から動くことが出来なかった。






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