絶対法剣
「――んーんん!」
クロノは朝日を浴びて伸びをする。何だか天気がいいと気分も軽くなる。澄み渡った五月晴れのような青空に朝の冷たい空気が心地良い。
クロノ達は新エルクニア連邦にある商業都市アルカスを目指してアルレシャとルトナと共に街道を進んでいた。
「ではルトナさんも主様の僕になったのですね!」
「僕というか騎士ね。それとアルレシャ、私も正式な仲間になったんだからルトナでいいわ。ほら、髪が乱れてるわよ」
「はいっ!ルトナ!」
そう言いながらルトナがアルレシャの髪を梳かす。アルレシャは目を細めてされるがままになっている。ルトナは面倒見がいい性格のようでアルレシャといると姉妹のようで微笑ましい。
「そういえばルトナはなんでガイゼルとカリバーンで戦わなかったんだ?」
クロノが思い出したように言う。ルトナは少し言いにくそうに口籠った。
「ええっと実はカリバーンは教訓を示したものらしくて実際にはあまり戦闘向きじゃないの……。」
「教訓?典礼剣みたいなものか?」
クロノが疑問を示すとルトナがカリバーンをクロノに差し出してきた。
綺麗な刃に魔法陣が刻まれたまさに業物というべき逸品だ。
「その反対側を見てくれるかしらそれが訓戒らしいのだけど、鍛冶神様は己を貫き、理想を曲げる事無いようにとおっしゃってこれを下さったそうよ」
クロノは刀身を反してみる。そこには神語で文字が刻まれていた。ルトナが自信がなさそうなのは読める人がいなかったからだろう。しかしクロノは『ワールドクロニクル』で見知っているためそれを読むことが出来た。
『此の剣に貫けぬ物無し、此の剣が齎す法を曲げる事能わず』
「なんかすごいことが書いてあるけど……。この剣に貫けぬ物無しとか齎す法を曲げる事能わずとか……」
「読めるの!?」
ルトナがクロノに詰め寄る。顔が近い。よほど気になるのか猫耳までぴーんとなっている。
「少しだけね。ルトナ近い。近いから!」
「あっ!ごめん……。つい興奮して。このカリバーンはその訓戒を示す能力が備わっているの」
頬を朱に染めてクロノから離れたルトナは説明を続ける。
「それ結構強いんじゃないか?どんな能力なんだ?」
「【絶対貫通】と【必殺】よ。」
「なんだそれ!?最強じゃないか!!」
クロノは驚く。防御をしても貫通され、その上必殺というならこれ以上の武器はない。エクスカリバーの能力も超える最強武器だ。
しかしルトナは首を横に振った。
「【必殺】の能力の発動には条件があるの。それがカリバーンが戦闘向きでない理由よ」
「どんな条件なんだ?」
確かに条件付きの武器は存在する。【必殺】という強力な能力ならその条件も厳しいのかもしれない。
「一撃千殺と呼ばれたエクスカリバーに対してこのカリバーンは千撃一殺。つまり相手に千回攻撃をして初めて一人を殺すの。途中で攻撃されてもだめ。何か邪魔が入ってもだめ。間で仲間が攻撃してもだめ。単独で千連撃を行わないとだめなのよ。しかも千連撃しない限りこの剣の攻撃で相手を傷つけることは出来ないわ」
つまりは千コンボ決めなければ発動しないということだろうか。雑魚なら千回攻撃するより普通に剣で斬った方がいいし、ボス級なら確実に途中で邪魔が入る。コンボを繋ぐというなら外すのもだめな気がする。そもそも大人しく千連撃貰ってくれるボスなんていない。
うん。使い道がない。これはあれだ。迷鍛冶神のハズレ武器だ。
「確かにそれは戦闘向きじゃないな……」
「そうなの。でもそれより私が気になってるのは【必殺】能力が発動した時に刻まれた訓戒の文字が変化するという話についてよ。神語を読める人なんてそうそういないでしょう?だから、その……クロノお願いできないかしら。」
納得したクロノにルトナがカリバーンを差し出しながら言う。
それは今から魔物にでも千連撃をかまして確かめてくれということだろうか。そんな上目遣いをされても、いやそんな不安そうに猫耳をぴこぴこされても……。
――サク!サク!サク!サク!
ミスタンの北、新エルクニア連合へと続く街道の途中、一人無言でスライムを指し続ける男がいた。
誰かが見れば狂人だと思っただろう。
スライムは【拘束】により動きを封じられ、プルプルと震えている。
男の目は虚ろで何処か遠くを見ていた。
そう、クロノだ。
目は虚ろだが手だけは高速で動いていた。
【拘束】の効果が切れる前に千連撃を入れることが出来ずもう五回目の挑戦になる。
「ク、クロノ?無理しなくてもいいのよ?」
「大丈夫だ。問題ない。」
クロノの目を見てルトナが焦りながら言ってきたがクロノは手を止めない。
【拘束】の効果は三分だ。一秒に六発。地味に辛い。
クロノは【流星速】を持ち出し、何とかその速度を維持していた。
「わ、私がもっと【拘束】の時間を長く出来れば……」
アルレシャはそんなことを言っているが『ワールドクロニクル』なら【拘束】は通常相手の動きを数秒止める程度だった。長くても一分も続かない。アルレシャは頑張っている。問題ない。
そんな時クロノの手にしていたカリバーンの刀身が黒く光り始めた。
「おっ!」
「あ!」
「ほわっ!」
目に光を取り戻したクロノが声を上げるとそれを見ていたルトナと新しい魔法理論を考えていたアルレシャが間の抜けた声を出した。
スライムが立っている地面に魔法陣が浮かび上がり、黒い闇が渦巻くと闇がスライムを分解していく。
そして完全にスライムを消し去ると魔法陣も共に消えていった。
「おおー!!」
「やった!やったわ!クロノ!!」
「主様さすがです!!」
抱き合って喜ぶクロノ達。何とも言えない達成感があった。
「そうだ!クロノカリバーンの文字は?」
ルトナの問いにクロノはカリバーンの刀身に目を遣る。確かに書いてある文字が変わっていた。
早速解読するクロノ。
『え?マジで千回やったの?ワロスwww』
クロノは無言で地面にカリバーンを叩きつけたという。




