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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第一章 獅子は騎士の夢をみる
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内なる獅子


 ルトナは暗闇の中にいた。

 漂うようにして、歩くようにして或いは落ちるようにしてルトナはそこにいた。足早にルトナの横を通り抜けていくのは過去の思い出だった。触れられるようで触れられず、手を伸ばしてもただそこには昏い闇が残るだけだ。



 ここに来てどのくらいの時間が経ったのか。それはルトナにも分からない。戻ろうと進んでもそのか感覚さえ曖昧だった。もしかしたら前にすら進めていないのかもしれない。



 そうする内に一つの光が遥か遠くに浮かんでいるのが見えた。あたたかい光だ。



 これ幸いにとルトナは光に向かって駆け出した。ルトナの体に絡まっていた闇が解け、感覚が自由になっていくような気がした。





 そこにいたのは陽炎を立ち上らせ赤光を放つ一匹の獣だった。




 ――獅子だ。

 その姿は気高く、深紅のたてがみは王の威厳を放っていた。

 しかし何故だろうかルトナはその姿から懐かしさも同時に感じる。




 獅子がルトナの前までゆっくりと歩いてくる。

 近くまで来るとその大きさがよくわかった。家一軒ほどもありそうな巨大な獅子。





 『我が血の正統なる後継者よ。汝は何を望む』

 獅子がその口を開く。それは獣の唸り声であったがルトナにはその意味が理解できた。

 この獣が何者なのかは分からない。しかしその問いに答えなければここから出ることは出来ないのだとルトナは感じた。




「……私は力を望みます」

 ルトナは獅子を見つめながら答える。

 獅子の金色の瞳が見据えるように細くなった。





 『汝は何故に力を欲す』

 獅子は再びルトナの答えに問いで返す。




 「大切な人を守りたいからです」

 ルトナが力を求める理由は簡単だ。それ以外にルトナが求めることなどない。

 ここは自分の意識の中なのだろう。ただの夢かもしれない。

 目が覚めればどうしようもない現実が待っているだけかもしれない。

 けれどルトナはこのことに意味がある様に思えるのだ。





 『それだけか?ならば我は汝に力を貸すことはすまい』

 「それだけって!」

 ルトナは怒りを覚えた。

 ルトナにとって大切な人を守ることが何よりも大切だった。獅子のこの物言いはルトナのその在り方を否定しているように思えたのだ。

 そんなルトナを見て獅子は息を吐きルトナに言った。




 『汝は守ることの意味を正しく理解しておらぬ。故に汝の正義は軽い。』

 それはルトナが大切な人など守れないというのと同義だった。

 しかし言い返すことは出来ない。実際ルトナはガイゼルに勝てなかった。自分の全力を持ってしても届かなかった。クロノ達を守ることが出来なかったのだ。

 厳しい獅子の言葉にルトナは俯く。




 『されど汝はその答えを既に持っている。自分を見つめよ。理解とは己の内なるものから為る。』

 そう言って獅子が示したのは通り過ぎていく過去の思い出の一つだった。






 祖父との記憶だ。


 「おじいちゃん!わたしきしになりたい!きしになっておうさまやおじいちゃんみたいにたくさんのひとをまもるの!」

 あれはいつだっただろうか。

 幼い頃ルトナは騎士に憧れていた。『騎士王』の物語を聞き、祖父が騎士として多くの人を救った話も聞いていた。そのことを考えるとルトナが騎士に憧れたのも当然の事だったのかもしれない。


 「そうか。ルトナは騎士になりたいのか。それじゃあ一つ教えておいてあげようかの。ルトナ、騎士にとって大切なことは何だと思う?」

 祖父はルトナを優しく膝に抱いてそう問いかけた。



 「んー……ちからがつよいこと!」

 「ははは。そうだ。確かに力が強くなくては怖い魔物や悪い人からみんなを守れないからの。しかしそれが一番ではない。」

 祖父はそういって首を横に振る。




 「……じゃあゆうきがあること!」

 「ああ、確かに勇敢でなければ何かに挑むことは出来ないの。しかしそれも違う。」

 「ううー」

 祖父の言葉にルトナは呻った。そんなルトナに祖父は優しく微笑み頭を撫でた。

 ルトナはくすぐったそうに目を細める。




 「いいかいルトナ。騎士にとって大切なのは人を守ることだけではない。確かにそれが騎士の本分であることには違いないが本質はそこにないのじゃ。騎士の本質とは共にあること。守るだけではない。大切な者と、守りたい者と未来を共に見据えて互いに手を取り、共に歩いて行くことそれが騎士にとって本当に大切なことだとわしは思う。」

 祖父は何か思い出すように遠くを見ていた。




 「うーん。なかよしなってずっといっしょにいればいいのかな?」

 「ワハハハ。そうじゃな。なかよしかそれもよかろう。」

 祖父は豪快に笑いながらくしゃくしゃとルトナの髪を撫でる。




 どうしてこの記憶を忘れていたのだろう。





 ルトナは大切な人を守りたいが為自らそれを遠ざけてきた。

 しかし違うのだ。


 守るということは自分が犠牲になるということではない。

 守るということの先、その後の大切な人達と作り出していく未来にこそ意味がある。


 ルトナは守ったその先のことなど今まで考えたことなどなかった。

 しかしきっとそこにこそ本当の価値があるのだ。




 守るだけではだめなのだ。

 築いていかなければ、進んでいかなければ。

 これで終わりではないのだ。ここから始まりなんだ。




 ルトナは右手を胸の前で固く握る。





 始めよう。『騎士』としての私はここから始まる。

 私の、いや私達の物語をここから紡ごう。



 『騎士王』のように強く、気高く。

 その身は大切な人達と歩んでいくために。



 ルトナは顔を上げて獅子の瞳を見る。自分と同じ獅子の金色の瞳はどこか嬉しそうであった。



 『覚悟が出来たようだな。さらば与えん我が血を受け継ぐ者よ。その覚悟を以って正義と為せ。』

 獅子が赤い光となってルトナの右手に吸い込まれていく。



 『我が名は獅子王アルギエバ。威を以って正義を為す者。さあ受け継ぐがよい。我が正義の炎を。』

 そう言うと光は見慣れた深紅の籠手に形を変え、その甲に魔法陣が浮かび上がる。

 それと同時に周りを覆っていた暗闇が光に飲み込まれルトナは急速に体が浮上していく感覚を覚えた。




 眩しさにルトナは目を瞑る。

 そうしてルトナは膨大な光の奔流の中に吸い込まれていった。





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