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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第一章 獅子は騎士の夢をみる
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狂人の罪

 クロノが運び込まれたのは薄暗い部屋の中だった。

 クロノを包んだ麻袋が剥ぎ取られる。クロノは噛まされていた猿轡を外され、縄でぐるぐる巻きにされたまま床に転がされた。運び込まれる前に付けられたのか首輪がつけられており、首が何とも窮屈な感じだ。 冷たい床にクロノはぶるりと体を震わせる。


 クロノを連れてきた男達は大人しくしていろよと言ってそのまま部屋に鍵をかけ出て行ってしまった。


 クロノは部屋の中を見渡す。

 大きさは宿の一室ほどで小さな机と椅子があるだけの簡素な作りだった。机の置いてある壁に【発光】の魔道具が吊るされている。窓は机の上にある小さな正方形の窓だけだ。それも天井近くにあり、机の上に立ってようやく手が届くくらいだろう。

 窓から月の光が漏れている。まだ夜が明けていないのだろう。


 クロノはとりあえずすることがないので眠ることにした。

少し寒いが仕方ない。

 まだニンニク臭い気がする。解放されたらドドリアスを一発ぶん殴ろうとクロノは決心する。






 クロノが眠っているとどたどたとこちらへと近づく足音が聞こえた。

 足音からして三人。何か話しながらこちらに歩いてくる。

 床に転がっているので足音がよく分かる。眠りを妨げられてクロノの気分は最悪だ。



 足音が部屋の前で止まると鍵が開けられ扉が開かれた。鍵を開け最初に入って来たのはドドリアスの部下の男、その後ろからもみ手をして愛想笑いを浮かべているドドリアスと貴公子の様な優男が続いて部屋へと入ってくる。



 「旦那ぁ!こいつが例の獲物でさぁ!この!このドドリアスが捕まえやした!残念ながら女二人には逃げられやしたがこいつを人質にすればすぐ捕まえられやす!」

 ドドリアスは嬉しそうに貴公子然とした男に報告をしている。おそらくこいつがルトナを苦しめていた元凶、ロイド・カーセルなのだろう。

 クロノはもっと豚のように肥え太った放蕩息子をイメージしていたので身形の整ったイケメンであると知って意外に思った。



 「ちょっと外してくれるかな?ドドリアス。少し彼と話がしたい」

 興味なさそうに報告をしていたロイドだったがクロノと話がしたいらしくドドリアスに席を外すようにいう。ドドリアスは一瞬怪訝な顔をしたがすぐに愛想笑いを取り戻し、捕まえたのは自分だと何度もアピールして部屋を出ていった。



 「まったく汚物の様な臭いを垂れ流して本当に迷惑だよね」

ロイドは隅に置いてあった椅子をクロノの前まで持って来てそれに座りながら言った。

 クロノは床に転がされた体勢のまま見上げるようにロイドを見る。



 「吸血鬼か。初めて見たよ。アルカスの奴隷市に出したら高く売れそうだな」

 吟味するようにロイドは目を細め、クロノを見てきた。『ワールドクロニクル』の時代には奴隷というものは存在していなかったはずだがこの五百年で世界も変わったのだろう。ただしクロノは奴隷になるのは御免だ。何をされるか分かったものではない。



 「まあそんなことはしないけどね。さて、自己紹介がまだだったね。僕の名前はロイド・カーセル。しがない商家の三男だよ。はじめまして」

 足を組み直してクロノの考えを見透かしたようにロイドは言う。柔らかく微笑むその姿が今はとても不気味だった。



 「何の用だ」

 クロノはロイドを睨みつけながら問いかける。実際クロノはロイドが何をしに来たのか分からなかった。



 「話をしに来ただけだよ。吸血鬼君は彼女とどういう関係なのかな?」

 ロイドはクロノに問いかけてくる。ルトナの話だとロイドはルトナに求婚を申し込んだということだった。あれだけの嫌がらせをしておいてまだ未練があるということだろうか?それでルトナに近付く男のクロノに関係を聞きに来たと。



 都合のいい話だが確かにそれならまだ納得がいく。



 「……ルトナとはただの仲間だ。」

 ここで煽るのも面白いかもしれないがそれで激昂されても厄介だ。クロノは正直に話すことにした。


 「仲間かぁ。それだとインパクトが足りないなぁ。恋人とかだと面白かったんだけど。」

 「はあ?何を言ってるんだ?」

 クロノの返答にロイドは残念そうに肩を落とす。



 ――どういうことだ?これが未練のある奴の態度か?全く意味が分からない。



 クロノの戸惑った様子にロイドが話し始める。


 「だってそうだろう?彼女の前で君を殺すなら関係の深い方が盛り上がるじゃないか。計画としてはとりあえず彼女をボコボコにして動けなくさせた後に君を少しずつ切り刻んでいくって感じかな?ああ、そうだもう一人女の子がいるらしいから交互にやろう。目の前で仲間が切り刻まれるのを見る彼女はどんな顔をするだろうね?考えただけでゾクゾクしちゃうよ。」

 恍惚とした表情で饒舌に語りだしたロイドにクロノは驚く。



 「おい!待て!お前もともとルトナのことが好きだったんじゃないのか!?なんでそこまで出来る!?」

 愛しさ余って憎さ百倍というのは聞いたことがあるがこれは明らかに常軌を逸している。



 「ルトナ?ああ彼女の名前か。でもアハハハ!僕が彼女を好き?そんなわけないじゃないか。全部演技だよ。演技。偶然気の強そうな女冒険者がいたからその絶望した顔が見たくなっただけさ。求婚したのは痴情の縺れの方が何かと処理しやすいだろ?でもね、だんだん飽きてきちゃったんだよね。そろそろ終わらせようかと思ってね。今回は傭兵団まで雇っちゃったよ。演出は大切だろ?そもそも僕があんな獣臭そうな女を好きになるわけないじゃないか。アハハハ!ほんとにおもしろいね、君」

 驚愕しているクロノをよそに愉快そうにロイドは笑っている。



 「じゃあお前がルトナに嫌がらせをしていたのは……」

 「そうそう。ただの偶然だし、ちょっとした遊びだね。人を騙して破産させたり、借金を理由に女を犯したりもしたけどなんて言うのかな?新しい刺激が欲しかったんだよね。何かないかなーって考えてたら彼女が現れたわけ。こんなに長く大掛かりなのをしたのは久しぶりだったからなかなかおもしろかったよ。人の人生を左右するってやつ?」

 ロイドは笑いながら話し続ける。




 「冒険者仲間を再起不能にしたときの表情はよかったなあ。罪悪心でも感じちゃったのかすごく絶望した顔をしてたよ。思い出しただけでも笑えるね。街を出ちゃったから止めにしようかと思ったけどその表情を思い出してついついその後も続けちゃった。今回はそれ以上を期待してるんだけどね。」

 クロノは確信した。

 こいつは屑だ。狂っている。頭のネジが抜けているどころの話ではない。どこをどうすればこんなふうに捻じ曲がるのかは分からない。だがこいつの行いは完全に人の域を出ている。


 クロノはきつく歯を噛みしめロイドを睨む。

 いまにも殴りかかってロイドを爆散させてしまいたいがクロノは拳を握ってそれを耐えた。



 ――こいつに罰を与えるのはルトナだ。



 クロノが固く握った手からは血が滲んでいる。



 「おや、怖い怖い。みんな僕の話を聞くとそんな風に怒った顔をするんだよね。意味が分からないよ。まったく。」

 ロイドはそう言いながら扉の外に声を掛ける。

 そうするとドドリアスの部下が黒い輪っかの様なものを持って部屋に入って来た。



 ロイドが指示すると男はクロノの首に黒い輪っかを掛けた。


 「始めに付けてあったのが魔封じの効果がある首輪だよ。それのおかげで君は魔法が使えない。それと今つけたのが火の魔石を組み込んだ首輪だ。こちらが任意で爆発出来るようにしてあるから気を付けてね。爆発すると首だけじゃなく上半身ぐらいまでは簡単に吹っ飛んじゃうから。」

 口元を下品に歪ませながらロイドはクロノに忠告する。


 「じゃあ僕はこれで戻るから。夜を楽しみにしておいてね。」

 そう言うとロイドは踵を返し、部屋から出ていく。

 クロノはその背中に向けて怒気の混じる言葉を放った。


 「罪には必ず罰が与えられる」

 「そうか。楽しみにしておくよ」

 ロイドは背を向けたままひらひらと興味なさそうに手を振った。



 鍵が閉まり、部屋が閉ざされる。

 クロノは閉ざされた扉をじっと見つめるのだった。





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