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黒いのがしつこいです。(後)

『……後悔するなよ、クソ猫ぉぉお……!!こんな恥辱は、生まれて初めてだぜぇぇええ!!』


『悪魔さん』がビリビリと空気を震わす魔力を放つ。それに比例して、剣を構えるミスダさんの膝もガクガクと震えている。


((んー?どうしたのかなー?口数が多いようだねー?もしかして、ビビっているって奴なのかな~~~?))


 でも、僕はおちょくる。


 そこまでが我慢の限界だったようで、『悪魔さん』の魔力が爆発するように強まって、跳ぶ。


 まさか、天使のカリィノ(僕)が本気でミスダさんを殺すことを幇助した訳はなく。


「……え?」『ぐ……はぁ!?』


 ミスダさんの気の緩んだ声と『悪魔さん』が苦悶する声が重なった。


 常人なら、おそらく、目に追えない速度でミスダさんの首を爪で刈り取ろうとした『悪魔さん』だったけど。

 その上を往く速度で横にずれたミスダさんのレイピアが、深々と『悪魔さん』の脇腹に刺さったというだけの話。


「え?なに?なにが……どういう?」

『ぐぅ……クソ猫ぉ!何をしやがったぁ!!』


 ミスダさんは誰に対してでもない疑問を漏らし、『悪魔さん』は僕に対して疑問を叩きつける。

 僕が答えるのは『悪魔さん』にだけ。


((なーに、これも僕の魔法さ。《大根代役者》っていうね。本当はそうではないけど、他人を操る魔法だと思ってくれればいいよ))

『はぁ!?猫が操っただけでこんなに動ける訳ねーだろ!?』


 怒りを放出するように、ミスダさんが居る方に腕を払う『悪魔さん』。

 腕の風圧は草原の草花を無慈悲に千切り飛ばすが、後ろへ回り込んでいたミスダさんは僅かに髪が揺れるばかり。

 ミスダさん本人が動いているというのに、顔は疑問と恐怖で満ちている。


「ど……いう、こと……!?」


 ごめんね、ミスダさん。今は頑張ってね。


 僕は仕方なく『悪魔さん』に仕組みを少し教えてあげる。


((だから、厳密には違うって言ったでしょ?まず被術者の肉体能力を限界まで引き伸ばしてー……付加魔法で肉体とか装備を耐えられるようにしてー……僕が指示する行動を最適化させてー……))

『あああ!!まどろっこしい!!つまりぃ!テメェを直接殺せばいいんだろッ……ク、ソ、猫ぉぉぉおお!!』


 ひょいひょいと攻撃を避けられ、あまつさえ反撃もされていた『悪魔さん』は翼を広げ、空へと舞い上がり、加速して来た。


((あー……話聞いてた?それと、瞬殺、出来なかったね?))

『うるせぇぇぇえええ!!』


『悪魔さん』は闇属性の魔法を付加(エンチャント)した黒い炎が揺らめく拳で、僕の居る馬車に拳槌打ちを仕掛けてきている。


 いやさぁ……前回コロッと負けたんだから、もっと工夫して攻めてきなよ。


((付加(エンチャント)、重力))

『…………あ…………?』

((空の果てまで、行ってらっしゃい))


 僕が『悪魔さん』に掛けた強力な付加は、重力。それも上方向に、通常の約五百倍の。

 どうすることも出来ないまま、上へ落ちていく『悪魔さん』に最後の念話(テレパシー)を送る。


((おまけとしてだけど、付加は半永久的に持続するから。せいぜい苦しむんだね))


 僕はね、身内に怖い思いをさせた奴は許せない(たち)なんだ。


 断末魔さえ残すことを許さないように、摂理を外れた重力が『悪魔さん』を暗い空へ引き摺りこんでいった。



 #######



「あ……はぁ?」


 散々ミスダさんに逃げろと言われたにも関わらず動けなかったモオゴさんが出した言葉は、何も理解してない声だった。

 おいおい……僕が居なかったら、どうしてたんだよ、って思ったけど原因は僕だったごめん。


「モオゴおじさん……無事ですか……」

「ああ……無事だ……今のは……『タナトス』……だよな……」

「ええ……なんか私……さっき、超強かった……あの動きなら、団長にも勝てそう……」

「え……と、ミスダ……が……撃退した……のか」

「いや……最後……その……馬車に飛び掛ったら……上に飛んでいって……」

「……どういうこと、だ?」

「……さぁ……」


 二人とも困惑しまくりである。とても静かに、魂が抜けたみたいな喋り方をしてる。


 どうやら『悪魔さん』は『タナトス』という名の魔物らしいね。そして、出会っちゃったら死を覚悟しなくちゃいけないほど強い魔物。


 同族の『タナトス』が魔法チートの僕の《隠居生活》を見破るくらいだから、弱くはないとは思ってたけど……そんなにかぁ。


「はぁ……なんなの……訳わかんない……モオゴおじさん、荷物は無事?」

「あ、ああ。大丈夫だ。なんとも無いよ」


 僕はというと、なんとも無かったかのように、体を縮こませて眠るメリエの腕の中に居る。


「……ねぇ、信じられる?私たちの前に現れたのが、国を一つ二つ簡単に滅ぼせる魔族だって」

「信じられるわけないだろ。確かに、昔に絵で見たのと全く同じだったが……」

「おじさんは分からなかったかもしれないけど。あの魔力、化け物よ。今、こうして呼吸してるのが不思議なくらい」

「でもミスダは、『タナトス』を圧してたじゃないか?」

「私が動いたんじゃないの、誰かに動かされた……もしそれが訓練の賜物だよって言いたいんだったら、今頃私は聖騎士団の団長を超えて、名誉騎士団長にでもなってるかもね」

「じゃあ……誰が?俺でもなくて、ミスダでもメリエでもない……」


「「………」」


 あのー、二人でか弱い僕を見つめないで下さい。

 ほら、ミスダさんもモオゴさんも笑顔笑顔!

 と、言い出すことは無理なので、僕は狸寝入りと洒落込もう。猫だけど。


補足ですが。主人公が『タナトス』に掛けたエンチャントは何重にも組み込まれており、解くのはかなり難しいです。

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