黒いのがしつこいです。(前)
長くなったので前半後半で分けました。
半日で着くとメリエちゃんのお父さん……モオガさんは言ったけど、ちょっと間に合わなかったらしく、城のちょっと手前で野宿の準備中である。
「お父さーん!今日中に着くんじゃなかったの!?」
「だーかーらー、さっきも言っただろうが。夜になるとテムノルンの門番は扉を絶対開けてくれないんだよ」
「むー……なら急げば良かったのにー……」
「荷物が別だったらそうしただろうが、万が一の事があっちゃいけないからな、しょうがない」
どうやら急げなかった理由は積荷にあるらしいね。まぁ猫の僕には関係ないし、知る必要もないけど。
僕たちが行くのがテムノルンって言う国の名前なのかな?そっちの方が気になるなぁ。
「でもさー……その……」
「あら、もしかしてメリエちゃんが心配してるのは怖~い魔物のことかな?」
「ち、違うもん!魔物なんて怖くないもん!」
「そうよ。怖くない!私が居るんだから……ね?」
「……うん」
確かに、女騎士のミスダさんならこの辺の魔物だったら直ぐに倒せそうだね。
「さて、モオガおじさんとメリエちゃんで食事の準備をお願い出来ますか?えー……私は、見張りをしていますから」
「はっはっは!ミスダさん、まだ料理が出来ないの痛ァ!」
「……今のはお父さんが十割悪い」
ミスダさんがレイピアの鞘の先で、モオガさんの頭を小突いていた、痛そう。
話を聞いている限り、モオガさんはミスダさんの叔父(伯父かも)に当たるようで、「おじさん」付けで呼んでいる。
でも親子の方は余所余所しく「~さん」と呼んでるってことはそこまで交流はなかったのかな。仲は良さそうだけど。
あとミスダさんは『聖騎士』という職業、らしい。中々に「私は強者です」感を出してる。
コポコポと焚き火に埋もれる鍋の中のスープが沸騰する。
モオガさんはスープをスプーンで掬い、ペロリと舐めて味見する。そして「うん」と頷くと、木の深い皿を手に取る。
「よーし、スープが出来たぞ!ほれ……チビも飲むか?」
「チビじゃない!クロ!それにご飯は私があげるの!お父さんはミスダさんを呼んできて!……よし、ほーら、クロ。ご飯だよー、お食べー♪」
あの、僕、猫だから。猫舌だから。熱いのは飲めない……こともないのかな……どうだろ熱ッちぃ!
ミスダさんも加わり、みんな簡易な椅子に座って鍋を囲む。僕はメリエちゃんの膝の上に座っている。ああ、居心地良いなあ。
「いやぁそれにしても助かったよミスダさん。一商人に聖騎士の護衛だなんて、贅沢が過ぎるってもんだ!」
「モオガおじさんったら、さん付けなんてしなくていいって言ってるのに」
「はは……うっかり街中で、親しそうに、呼び捨てなんてした日にはなぁ……」
「ミスダさん、国での自分の人気がどれほどかわかってないでしょ……」
「え?なに?」
ああ、そういうこと。
ミスダさんはどうやら鈍感系主人公らしい。
親子の言い分からすると、ミスダさんは熱狂な信者が居る偶像なのかな。
兜を取ったミスダさんは茹でたての海藻のような緑の髪(褒め言葉です!)で、兜の間からみた可愛い顔は、より可愛く見える。
これで強い騎士様なんだから、ファンが居るのは当然っちゃあ当然だね。
「護衛を引き受けたけど、運が良いのか全然魔物に襲われなかったから、気が抜けちゃった」
「商人にとって用心はするに越したことはない。安心しな、ちゃんと報酬は払うよ」
「ああいや……そう言うことじゃなくてー……体が鈍っちゃったなぁーって」
「ミスダさん、あれほど朝に運動して、まだ動き足りないんだ……怖いねー、クロー」
「にゃー(そうだねー)」
どこの世界でも体育会系の脳筋っぷりは変わらないのね。前世の僕はあのノリが苦手だったなぁ。
十分ほどで、のんびりとした食事もそろそろ終わるかな、とウトウトするメリエちゃんを見上げて思う。
するとそこで、唐突に違和感を感じる。水の中に墨汁が垂れてしまったような。そんな感じ。
(上……?北……いや、北西の方角から、「何か」来てる)
「……ッ!!なに、この魔力……!?モオガおじさん!メリエちゃん!馬車に戻って!急いで!!」
「え、な、ど、どうした……?」
「いいから早く!!」
流石は聖騎士、と言ったところかな?強い魔物が来るのがわかったみたい。
何が起きてるかわかっていなさそうなモオガさんは、眠る直前のメリエちゃんを連れて馬車の中へと入っていく。
僕はというと、外に居たら不自然だから親子と一緒に馬車の中には居ることにする。透視は出来るから、何かあっても大丈夫でしょ。
で。ジーッと外を透視で見ていると、やや離れた正面に、静かに降り立った者がいた。
……『悪魔さん』だった。
それも最初に会って自爆した人。
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『おぉい!クソ猫ぉぉお!そこに居るのはわかってんだよぉ!出てきやがれぇ!』
うわー……まさかこんな所まで追っかけてくるとは。粘着質だなぁ。ていうか悪いのは君じゃないか……
「……嘘、でしょ……『タナトス』、なんて……勝てるわけ、ないじゃない……!!」
『……あ?なんだ人間のメス?その脆そうな剣を構えて、震えちゃって、まぁ!ギャハハハハ!』
こいつ……格下に対しては三下キャラだね。かっこ悪い。
「おじさん……聞こえる?今すぐ馬を走らせて、前の村に戻って。私でも、一分持つか、わからないから」
「み、ミスダ?なにが……」
「早く、行って……!私が、殺される前に……!!」
ミスダさんの悲壮感が凄い。
モオガさんも何が起こってるかわかってなくて混乱してしまってるね。メリエちゃんは寝たけど。
『おい、クソ猫ぉ!さっさと出てこないと、この人間のメスを殺すぞぉ!!』
((あーもー、うるさいよ。用事は僕にだけでしょ?何しに来たの?))
念話を使って直接『悪魔さん』の脳内に話し掛ける。『悪魔さん』は慌てることなく腕を組んだまま喋る。
『……あ?なんだ?念話か?』
((当たりだよ。それで、繰り返すけど、僕に何の用事かな?))
まさか「この間の借りを返しに来たんだよぉ!」とか言わないでね?そんな陳腐な……
『はっ、決まってんだろ……この間の借りを返しに来たんだよぉ!』
言ったし!しかもそのまんまかよ!捻ろうよ!求むよオリジナリティ!
あまりにテンプレな雑魚キャラの台詞に、天使のようなカリィノ(僕)でさえ嘆息を漏らす。
((はぁ……めんどくさいなぁ。そうだね、僕の代わりに目の前のお姉さんが戦ってくれるみたいだよ?))
『……はぁ?お前、馬っ鹿じゃねぇの?こんなゴミ瞬殺だ、瞬殺』
((へぇ?じゃあやってみてよ、瞬殺!出来るもんならね……自分の魔法で自爆した人?))
うっわ……凄い形相になった。




