少女が値切り交渉です。
次の日。
僕たち、商隊の一行はテムノルンという都市国家に入ることが出来た。
オシャレで、古き良きヨーロピアンな街並みを想像していたんだけど、機能性を追求したと言わんばかりの灰色や白の無骨な建物が整然と並んでいた。
(いやまぁ……これも悪くはないんだけどねぇ)
もっとこう、ファンタジックな、一目見ただけで興奮できる街並みが良かった。僕も何を言ってるかわからない。
それと嬉しいことに……亜人が居たんだよ!いやぁー嬉しいね!これは一目で興奮可能だよ!
この世界での亜人は、獣耳と尻尾を持っているけど他の部分は人間と同じっぽい。顔が丸ごと動物の人とかは居ないのかな?
それで、今は宿の中に居ます。
僕は相変わらずメリエちゃんに抱きかかえられている。
「よし、それじゃお父さんとミスダさんは王宮に行くからな?」
「うん、わかった!ねぇお父さん、商店街に行ってもいい?」
「うーんそうだなぁ……ミスダさん、ここの治安は?」
「悪くないわ。けど、良いとも言いがたいわね」
「そうだな……あー、そうだ。メリエ、その、クロも……連れていくか?」
「うん!当たり前だよ!クロは私のパートナーなんだから!」
(そうなのかー)
モオゴさんはチラリと僕を見てからミスダさんに目線をおくる。ミスダさんはしばし考えたようにして、そっと頷いた。
……どうやら僕は大人組にかなり警戒されてしまったらしい。
えー、ちょっと思考が飛躍してない?普通、拾った猫がめちゃんこ強いかも、とか想像するかなー?
「……おう、ならいいぞ。お小遣いもやるけど、暗くなる前に絶対に戻れよ?」
「うん!ありがとう!お父さん大好き!」
わぁー、モオゴさん嬉しそー。メリエちゃんのATMにならないようにね。
「メリエちゃん、クロを少しだっこしてもいいかな?」
「うん、ミスダさんならいいよ!」
お父さん可哀想……と思ってたら、ひょいと僕を持ち上げるミスダさん。
すると顔を近付かせてきて、小声で囁いてきた。
「……クロ、メリエちゃんを守るんだよ?……」
素直にうんと頷く訳はなく、ただジッとしている。……うわー、見つめないでー。反応してしまいそう。
「……はぁ、やっぱり気のせいなのかな」
「そいつのことを考えても仕方ないさ。王宮に商品を納品したら、騎士団に昨日の話をしておいてくれよ」
「わかってるわ。クロのことも話しておきましょうか……それじゃ、メリエちゃん。行ってくるわね?」
「うん、いってらっしゃーい!」
モオゴさんとミスダさんを見送って間もなく、メリエちゃんはテキパキと荷物を纏め、バックを背負って僕に話し掛ける。
「ふふふ……あの座り心地の悪い馬車に揺られて二週間。田舎臭い村はなーんも無かったから、ここが楽しみだったのよねー♪さぁ、クロ!お買い物に行きましょ?」
「にゃーん(了解でーす)」
ウっキウキだなぁ。はしゃぎ回ってトラブルに巻き込まれなきゃいいけど。フラグかな、コレ。
それにしてもお買い物ねぇ。メリエちゃんもやっぱり女の子だなぁ。
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「ねぇー?お、じ、さ、まぁ?このブレスレットに使われている鉱石の原価が、一キロ二十万ネメアだってことは知ってるの。単純計算だけど、ブレスレットには見る限り五十グラムも使われてないわ。それでニ万ネメア?加工代も入ってるですって?……ええ、本来なら適正価格よ?本来ならね。だって、これ、純度低いじゃない。もしかして騙せると思ったの?私が子どもだから?それとも頭が悪そうに見えたのかしら?残念、純度が百パーセントなら買いたかったけど……これは五十パーセントも含まれてないわね!はぁ、心外ね。これでも私、商人の娘なの。だから簡単な鑑定なら余裕よ。もう一度言いますよ、これは、五十パーセントも鉱石は含まれていません。そうね、八千ネメアなら適正だと思うわよ?あら、何をそんなに怒ってるんだか、純度が低いのは事実でしょ。じゃあ私の父のツテを使って……いやその辺の方でも良いわ、鑑定士に見てもらおうかしら?済みませーん!この辺で鑑定士……どうして止めるのかしら、おじさま?本物なら困ることはないでしょ?……降参?認めるってことですね。まったく往生際が悪いですね、でも私も迷惑を掛けたことは謝らせてもらうわ、ごめんなさい。このブレスレット、買います。こういうのが欲しかったけど、中々見つからなくて、それで見つけたら適正価格の粗悪品だったから……え?五千ネメアでいいの?それだとこの純度でも足が出ると思うけど。……それなら遠慮なく買わせて頂くわ、はい五千。ごめんなさいねおじさま、ありがとう!」
商人というより、値切りおばさんの片鱗を見たような気がするよ。
口から魂が出てる露店商のおじさまに心の中で合掌しながら、とてとてとメリエちゃんに歩いてついていく。
「うっふふ、交渉成功ね♪買い物はこれをしなくちゃ楽しくないわ!クロもそう思うでしょ?」
「にゃー(僕には、無理かな)」
「あーもークロ、超可愛い!返事はするし、ちゃんと付いてくるし!」
(うーん、やっぱり変かな?……今更やめるのもねー)
「ふふふふふ……お買い物はまだ始まったばかり。行くわよ!クロ!」
(買い物というか。射的とか、UFOキャッチャーをしてる感覚なのかな……)
その後も売り物のジャンルを問わず、交渉という名の舌戦を交えたお買い物を続けたメリエちゃんであった。
特にトラブルに巻き込まれることもなく、暗くなってきたので帰路に着いている。
僕が立てた旗はポッキリと折られたようだね。良かった良かった。
手に沢山の戦利品を持って上機嫌なメリエちゃん。彼女が支払った金額は、値切った金額より少ないという。恐ろしい子……!
「えっへへ……今日の戦果、お父さんに言ったら褒められるかなー♪」
なんだかんだ言って、メリエちゃんはモオゴさんのことを尊敬してるみたいだ。
と、そこで。
折られたはずのフラグがむくむくと起き上がってきた。
うーん。なにか居るね。
ここで、《壁に耳あり障子に目あり》。指定した場所の音声と映像を確認出来る魔法を使う。
『居たぞ、あのガキだ』
『詰め込む袋と、眠らせる薬品もあるな?』
『あの道に入ったら行くぞ』
……誘拐犯だね。
どうしようかな。僕の魔法で蹴散らしてもいいけど、正体はバレたくないなぁ。転移魔法なんて派手なことは無理だし……
……うん、走ろう。
「なぁ、なぁーー!(メリエちゃん、走ってー!)」
「え!?ちょ、クロ!待ちなさい!」
『ぐっ、気付かれてたか。回り込むぞ』
僕たちが走り出すと、同時に後ろの人たちも動き出したようだね。
さぁ、街中で鬼ごっこだ!
お金の単位の勉強。
ネメア=円
終わり。




