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猫が無双です。

ちょっとだけ長いです。

 僕とゴゴとライラの三人は亜人の国『ドルバム』に戻り、ギルドで日々色んな任務をこなしていた。

 とっても大っきい魔物退治から人探し、お偉方の護衛などなど。やれることはなんでもやったって感じだ。

 僕も影ながらチート能力を存分に使えてウハウハである。

 普人族の国でのお祭り騒ぎが終わってから、およそ半年が過ぎようとしていた。

 イベントらしいイベントは起こらなかったなぁ。

 せいぜいゴゴの冒険者ランクが最上級になって、後から登録したライラが上級になったくらいだ。


『ドルバム』国内の湾岸都市に僕達は居た。

 昼飯時、そこそこ有名らしいレストランで海鮮料理を三人(二人と一匹って図だけど)で食べていた。

 いやまぁ、ライラしか食べていないんだけどね。ライラの食べっぷりは見てるだけでお腹が膨らむ。


「はむ……ああ、このタコの魔物の刺身美味しいですね!こっちのお魚も美味しい!やっぱり魚介類は新鮮な生に限りますね!」

「ライラ。料理は逃げないから落ち着いて食べなさい」

((というかさっきから生のばっかり食べてるよね。調理されたやつを食べなよ……))

((ご主人様、お言葉ですが料理人の切り方一つで刺身も味の感じ方が変わりまして……))

((あー、はいはい、ゴメンよ))


 ライラは普段は可愛いらしい言動なのに、食事のことになるとうるさいからなぁ……

 ああ、そういえばライラだけど。

 半年前の普人族の祭りで王族を襲った暗殺者を返り討ちにしたら、その場に居た王子様に大変気に入られてしまい、月に一回会いに行かなくてはいけない始末となっていた。

 気に入られたというのは、その……女の子としてだ。

 あまりの玉の輿に仰天したなぁ。王子様と獣人のラブ。このやろう祝ってやる!

 ライラの食事を見守っていたら、鎧姿のゴゴが念話で話し掛けてくる。


((主。この都市での任務は完了したので、ギルドへ帰還しますか?))

((うーん、そうだねぇ。折角だし、もうちょっと観光していこうか。はぁ……今回は何も起きなくてつまらなかったねー))

((ご主人様の何かというのは洒落にならないですよぅ……))


 今回の任務は(僕たちには)簡単な物資輸送だった。三日前に受注したけど、もう終ってしまった。

 ゴゴこと『黒鉄騎』は強力な魔物の退治からダンジョン調査や人探しまでするというオールマイティな者として知れ渡っているのだ。


 今回は本当に暇だったなぁ。

 あ~あ、何か楽しいこと、起きないかなぁ。


 ……と、懸命にフラグを建ててみる僕であった。



 #######



 ーーそこは、光が届かない海底。

 何千年と時間を掛けて溜まった魔力の所為で限られた魔物しか棲めなくなった魔境。

 その海底で、純粋に魔力を糧とした、一つの新たな生命が産まれようとしていた。


(………私は………)


 誰も近付くことのない、莫大な魔力が集まる吹き溜まり。

 何千年もの時間の積み重ねにより、莫大な魔力は徐々に凝縮されていったのだ。

 本来であれば不可視の魔力や魔素が、どんな鉱石よりも高い密度で固まっていき、石という一つの形をとっていく。

 そして、今、その始まりの石は自己の意思を持ち始めている。


(……ここは、海か……)


 何故だかはわからない。幸か不幸か、始めからその石を中枢とした新たな生命は知識と自我を持っていた。

 そして、気付く。

 自らの身体が巨大なことに、自らの巨体が海底にすらなっているということに。

 自らが、『王』たる頂点であるということに。


(……私は……王……全ての者を従わせる者……)


 その『王』の元へ、目的もなく魔物が近寄ってきた。

 その魔物は体長約100メートルもの大鮫。人間の間でのレベルは200はあり、強敵と言われる魔物であった。

 ズズ……と、大鮫に対して反射的に『王』が動きを見せる。

『王』の身体の一部の触手が、海底の中とは思えない速さで大鮫に絡みついたのだ。

 大鮫は体を捻ったり水属性の魔法で触手を斬ろうとするも、全て無駄な行為だった。なす術も無く大鮫は、絶命する。


(私は……強い……)


 海底の『王』の自我が、傲慢な方向へ進み、確立していく。

 比例して『王』は身体を起こし、地面のような全貌がうねりをあげる。

 それは。海の水を支えていた地盤が動きだした様、そのものであった。

 海中のあらゆる魔物たちはその衝撃で体の自由を奪われ、翻弄され、浮き上がってきた『王』の身体に当たって四散していった。


(私はぁあ……!)

『ゴォォォオオオオオオオ!!』


 ……亜人の国『ドルバム』に隣接した海域で、またも、新たなる『王』が誕生してしまった。



 #######



 ビリ……と、僕のヒゲが痺れるような感覚。


「……っ?」


 ーー今、何か、産まれた……?


 自分で言うのもなんだけど、僕の直感は馬鹿にならない。

 テロスさん(後から知ったけど、神話的存在らしいね……)を目の前にした時の圧力。

 あれは別にテロスさんが僕を威圧するために魔力を放った訳ではなく、本能が「危険だ」「僕より強い」と感じた所為だった。

 それに、今、似た感覚を覚えている。背中がムズムズとして、気分は落ち着かない。


((ねぇ、ゴゴ……何か感じない?))

((……いえ、特に。何かとはなんでしょう?))

((……わからない。けど、不味いって感じる。ライラ、さっさと食べ終わるんだ。港の方から感じる。直ぐに行こう))

((はい、わかりましたぁ……でも、ご主人様が今まで「不味い」なんて言ったことありましたっけー?))


 そう、その通りだ。

 僕は、テロスさんと別れて以降、一度たりとも僕自身の危険を感じたことは無かった。


 僕はゴゴの肩に捕まって、三人で港へと急ぐ。だが街には何の変化も見当たらない。

 だからこそ、急がなきゃ。被害が出る前に倒さなくてはいけないような、何かが、産まれたのを感じたんだ。

 やがて走る僕たちは海へと臨む港へと到着する。しかし、脚は休めることはしない。


((ライラ!ゴゴが走れるように水の道を創ってくれ!ゴゴ!武器は【獄王】、魔力は十分に通しておいてくれ!))

((わっかりました!))((御意))


 僕たちは騒ぐ水夫たちを横目に、ライラの創った水の道を使って海原を駆けていく。


 僕の指示通り【獄王】にたっぷり魔力を流し込むゴゴ。僕はゴゴに掴まったままでいるのがもどかしくなってきた。


「ああ、もう!ゴゴ!先に行くよ!出来るだけ急いでね!」

「御意!」

「ご、ご主人様!私はぁ!?」

「ライラはこのまま真っ直ぐに道を創ってから、近くに船が無いか確かめて!もし居たら保護して港に!」

「はい!」


 二人に指示を出してから《空飛猫》で違和感を覚える海域へと飛んでいく。

 《空飛猫》は戦闘機がイメージの魔法だ。間もなく問題の場所にたどり着く。

 《空飛猫》から《重力ピエロ》に切り替えて、その海域の中を透視する。

 違和感があった。

 まず、魔力が乏しくなっているということ。

 そして、やたらと海底が浅いということ。


(なにも無い……思い違い……?)


 それならそうと、街に危険が及ばないことが分かって安心出来る。

 その場合はただ僕が二人に「勘違いだった」と言って、どんな顔をすればいいか分からないくらい赤面すればいい話。


 だけど直ぐに先の違和感の一つが間違っていることに気付く。

 海底は浅いのではなかった。


 僕が透視している海底、全てが違和感の正体なんだ……!


 そいつは、街が沈むであろう量の水を持ち上げて、壮大に姿を現した。


『……ゴォォォオオオオオアアアアアアアア!!』


 今までで。

 いや、恐らくこれからも。

 最も巨大な魔物だろう。

 山よりも大きいかもしれないそれは、冗談じゃない大声を響かせる。

 僕は《侵入禁止区域》のお陰で耳は無事なものの、音だけで津波が起きそうだ。

 そいつは浮かぶ僕の目の前に現れた。


「な……なんだ……これーーッ!でっかーーーーーー!!」


 視界を覆い尽くすのは赤、赤、赤に、僅かな白。

 皮膚の表面を照らすのは粘液だろう。骨がないその生き物を、僕は知っていた。


「タっコぉぉぉおおおお!」


 アレか、アレなのか!

 昼にライラが同種のタコを美味しそうに頬張ってたのが原因なのかい!?

 なんだこれ、デカ過ぎるだろ!テロスさんも大きかったけど、これは大きいとかそんな次元じゃないよ!


 僕が余りの巨大さにポカーんとしていると、後ろからゴゴが水の道を走ってやって来た。


「主ッ、【獄王】の一撃を放ちます!下がっていて下さい!」


 僕は言われた通りになるべく下がる……が、巨大過ぎるタコの大きさが変わった印象は無い。


「はぁぁッ!!」


 ゴゴが飛び上がり、魔力で満ち溢れた【獄王】を振りかぶり、豪快に振り落とす。

 瞬間、さっきのタコの大声にも劣らない爆発音が幾重にも連続して響き渡った。


 ゴゴの大剣【獄王】の魔力を込めた攻撃は爆発を生み、その衝撃を受けた他の物に連鎖するという破壊に特化した技だ。

 僕は今までの魔物では使えなかったコレを目の当たりにして「ありま、倒しちゃったか」と思った。


 ……だが。


『ゴォォォオオアアアアアアアアアアアアア!!』


 僕は、見てしまった。

 爆発によって半分に削れ、空白になったタコの身体が理不尽なほど、気持ち悪いほど速く治っていく様を。


「……ゴゴ、聞こえる?コレは君には倒せない。ライラがまだ海に居たら、連れて、街に戻るんだ」

「ですがッ」

「さっきのが全力だったんでしょ?じゃあ無理しなくていいって。折角僕から貰った身体と防具を壊す気かな?」


 ゴゴの魔核は純粋な魔力で完成してるので、多分どれだけ圧力を加えても壊れない。

 それに対して身体と防具は精々この世界で最硬「程度」。目の前の質量を本気でぶつけられたら、壊れてしまう。


「……わかりました。ご武運を」


 そう言うとゴゴは素早く身を翻して、来た道を戻っていった。

 ゴゴは理解が早くて助かるなぁ。重いけど。


「さて、と」


 ゆるりと身体を回して、顔の正面をタコへと向ける。


『僕とお話をしようか?タコくん』



 #######



 魔法《伝わってマイマインド》によって、超巨大タコに言葉を投げかけてみる。ゴゴが既に先制攻撃しちゃったけど意思が通じるなら、話し合うに越したことはないだろう。

 それでもコミュニケーションに関しては無意味かとも思っていたら、意外にも言葉が返ってきた。


『……なんだ……誰だ……私に話し掛けるのは……』

『あー、あー、小っちゃくて見えないかなー?ほら、ここだよ。ここ』

『……どこだ?姿を、現せ……』

『ああ、もう。ここだって、』


「……言ってるじゃないか」


 久しぶりに、本気を出してる。

 大陸に来てからは隠して、身体の奥に押し込んでいた魔力を開放した。

 魔力を隠してても僕に害は無かった。でもなんか疼くような、運動不足のような気分だったんだよねぇ。

 それによって、流石に僕に気付いたタコは巨大な瞳をぎょろりとこちらへと向ける。うわ怖っ!


『……貴様、か……』

『そうそう、僕だよ。突然だけど、君さ。今さっき産まれたよね?何かが目的なのかな?』

『……産まれ……それはわからない……』

『それ「は」?じゃあ、目的の方は答えられるのかい?』

『……征服だ……』

『へ?』

『私はぁ……『王』であるぅ!この世界の、この世の、頂点に立たなくてはならない『王』なのだぁぁぁあああ!』


 うわぁい、いきなりテンションを上げてきたよ。もー、落差が激しいと人付き合いが辛くなるぞー?


『この世のぉ!全てはぁ!私がぁ!食らいつくしぃ!私の一部とするぅ!』

『世界が私となりぃ!私は世界となるぅ!あらゆる物事は私なのだぁああああ!』

『私の浸るこの水溜りでさえぇ!私となるぅぁあ!』

『感じるぅ、感じるぞぉ!この先には、陸がありぃ……私が喰らう、矮小な生物達の気配がぁぁあああ!』



「ーー調子に乗りすぎだよ、タコくん。……《ミキサー》」



 残酷な風切り音を鳴り響かせて、空気の刃のミキサーが、喧しいタコを執拗に細切れにしていく。

 僕は生まれて、生まれ変わって初めて、全力で攻撃魔法を放った。


『……なん、だ……』

『おや?まだ生きているのかな?しぶといねぇ』


 見ると、破片同士がすぐに引き付け合ってタコは粉々になったそばから再生していた。

 うーん。海にいるのだし、水を使うのも悪くないかなぁ。

 今度は海水をごっそりと用いて、基本的な水属性魔法、ウォーターボール。

 このウォーターボールの大きさ、一キロメートルはあるだろうね。


『消し飛んで』

『ごぉぉぉおあああああ!』


 言葉にもならない叫びと共に回避行動を取ろうとするが、なにせその巨体。風の抵抗が半端ないだろう。

 ほんの少ししかズレられなかったタコはウォーターボールをモロに受けて身体の殆どが弾けて無くなる。

 だけどそれもまた直ぐに再生してしまった。うわー、なにそれチートだー。


『……なんだ。なんだ、なんだ、なんだ。なんなのだぁぁあああ!お前はぁぁぁあああ!』

『なに、見れば分かるだろう。猫さ。名前はカリィノ。憶えなくて結構』


 あ、今の台詞かっこいい。


『……私は『王』だ……こんな、猫ごときに……許さん……許さんぞ……!死、ねぇぇええええ!!』

『あーあ。僕に引き換え、君は台詞までも三下だね、タコくん』


 魔力を額に集中させる。

 上から、雲と空気を裂いて、超巨体なタコの足が落ちてきている。僕はそんなこと気にしない。


「……これなら、どうかな?」


 大妖怪さんや、リッチーの時よりも圧縮された……《はかいこうせん》は。


 閃光が広がる。静寂な破砕。

 分子レベルまで崩壊し尽くせる極太の光線は、海すらも破壊していた。

 半円状に削れた空間に海水が補うように入り込み、ぶつかって飛沫をあげる。

 これぞモーセの奇跡(物理)。


『ひぃ、ひぃぃいいい!は、はぁぶぁ!!』


 ありゃ、まだ生きてたんだ。

 強大なタコなどもうそこには居らず、小さな僕に背を向けて藻掻く、ただデカイだけのタコ。

 超巨大なタコがいくら逃げども、下手すれば大陸ほどの大きさのタコである。僕の視界外に逃げられるワケがなかった。


『醜いなぁ……ねぇ、タコくん、僕はね。君が何も知らずに、ただ産まれただけだったなら見逃すつもりだったんだよ』

『でも、君は人間たちを食べると言ってしまった。その時点で君は僕の敵になっちゃったのさ』

『ふむ……聞こえてないのかな?まぁどちらでもいいか。もう、終わりにしよう。作業ゲーは好きじゃあないからね』


 僕はいつぞやの《タナトス》を倒した(のかは知らない)時のように、上に重力の付加(エンチャント)を掛ける。

 重力魔法は範囲が狭いのでタコは釣り上げられるように、ゆっくりと上昇していく。

 まぁ、放っておいても死にそうだけど、万が一があるからね。落ちてきたら大変だし。

 こいつだけは確実に倒す。


『それじゃあ、バイバイ。来世があったら、また会おうか』


 あ、今の台詞もかっこいい。


『い、嫌……だぁあああああぁぁぁあぁああ…!』


 浮き上がった大陸のようなタコを中心に魔法を発動。

 《ブラックボール》。

 一分も掛からず、タコは虚空へと完全に消えて失くなった。


 ちょっとばかし、産まれる世界と産まれるサイズを間違えたね。タコくん。


 ……ああ、うん。今のはかっこ良くないね。

次回は本編のエピローグ。

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