阿修羅、前編
■ 2024年4月19日(金) 午後4時10分 清流高校
授業は終わったが、蓮の頭の中は一杯だった。咲奈の誕生日、東条の不在、阿修羅との戦い――新生活にとって重要な日に、すべてが重なっていた。
同じクラスの女子が近づいてきた。
「あの……黒さん……これ、受け取ってください!」
女子はお辞儀をして、ラブレターを差し出した。しかし蓮は、自分がした失礼な行動にすら気づいていなかった。後ろで明智が女子に謝り、今日の蓮は精神的に余裕がないと説明した。
◇
蓮は手芸部に着いた。
「黒! ちょうどいいところに来た!」
「ああ……すまん、名前を聞いていいか?」
「ああ、名乗ってなかったな……俺は五十嵐和夫、三年だ」
五十嵐和夫は三年生で、黒髪に、いつも鼻に絆創膏を貼っていた。どうやらおしゃれらしい。
「五十嵐先輩、黒蓮です……」
五十嵐は蓮のやる気のなさに気づいた。
「どうした? 体調でも悪いのか?」
「まさか、ビビったんじゃないだろうな、黒?」と地下基地から牟田の声がした。
「いや……さっさと終わらせよう……」
「その意気だ、黒。行くぞ」
戦闘チームは黒蓮、五十嵐和夫、そして篠崎フィンの三人だった。
「待て、お前の名前はフィン?」
「ああ、母がスウェーデン人なんだ」
「で、いつ現れたんだ!? 全然気づかなかった!」
「それだけの実力ってことさ」
篠崎フィン、二年生。黒髪に白いメッシュ、濃い隈、そしてなぜか赤い瞳。
「なんで三人だけなんだ?」
「阿修羅のリーダーとそう決めたんだ。グループのメッセージ、読んでないのか?」
「グループがあるのか? 知らなかった……」
「まあ、話は終わりだ。行くぞ」
五十嵐は地下基地へ下りるように指示した。
「何をするんだ? 向こうが来るのを待つのか? それじゃ学校で目立つだろ?」
五十嵐はグループの合言葉の看板を外し、隠された扉を現した。
「これが東条部長の努力の結晶だ。俺たちの勝利への道だ」
五十嵐が扉を開けると、暗いトンネルが現れた。蓮が歩いていると、顔面に別の扉が当たった。
「なんだよ?」
「いい勘してるな、黒。二つ目の扉に着いたぞ」
五十嵐が先に進み、二つ目の扉を開けた。そこは下水道に繋がっていた。蓮は感心しながら――良い意味でも悪い意味でも――眺めた。
(だから誰にも怪しまれないのか!)
五十嵐が先に階段を上り、物音や振動がないのを確認してから蓋を持ち上げた。そっと開け、三人は外に出た。
「よし、この道を行けば二十分で着く」
「行くぞ、黒、五十嵐」
「ああ!」
◇
■ 午後4時40分 七北田公園付近
三人は疲れていたが、七北田公園の人混みに気づいた。通行人たちは、後ろを振り返りながら退散していく。
阿修羅の一人が誰かと口論しており、他のメンバーがそれを囲んでいた。
「俺が誰だと思ってるんだ!」
「小僧、俺は阿修羅の先鋒隊長・悪魔だ! それが俺の通り名だ! もっと敬意を持て!」
「兄ちゃんが来たら、ケツを蹴り飛ばしてやる!」
暴力団の連中が笑った。三人はその場に近づいた。
「聞いたか、みんな? 俺を殴るってよ! ははは! 小僧、子供を殴るのは趣味じゃねえが、自分から望んだんだぞ」
「俺の名前は東条大翔、兄はブラックホープのリーダー、東条修吾だ! 手を出したら後悔するぞ!」
「東条修吾、ねえ? なら余計に……」
バシッ!
悪魔が大翔を殴った。三人はそれを見た。
「あれは東条先輩の弟だ!」
普段は陽気で人懐っこい五十嵐の目が、殺意に変わった。篠崎はその場から消えた。
ドッ!
篠崎が悪魔の背後に現れ、急所を蹴り上げた。阿修羅のメンバーは驚いた。
「クソ野郎……なんで子供に手を出すんだ!?」
別の阿修羅の声が聞こえた。
「お前がブラックホープの二番手か? リーダーはどうした?」と桂が言った。
「桂、どういうことだ?」
「別に。小僧と遊んでただけだ……ブラックホープのリーダーの『隠された顔』が見たかったんだが、どうやらビビって弟を代わりに送ったようだな、なあ、みんな?」
メンバーが笑った。その時、蓮が足を踏み鳴らすと、地面が揺れた。
「東条部長は今日戦えない。だから代わりに、この俺、黒蓮が暫定リーダーを務める」
「暫定リーダー? ふざけてるのか? てめえは何者だ、小僧?」
力強い声が場を遮った。
「桂、焦るな……」
阿修羅のメンバーが道を開け、リーダー・源樹が現れた。ベンチに座り、ビールを飲んでいた。缶を捨て、立ち上がる。
「これが暫定リーダーか……強いな、小僧」
蓮はその賞賛にも、挑発にも、答えなかった。
「では東条の代わりに戦うのか……残念だ。奴の希望をへし折って終わらせたかったのに」
蓮は実家の方角を横目で見て、源樹を公園の奥へ誘った。
(咲奈、必ず間に合わせる。誓う)
パニックで誰も近づかないため、近くに通行人はいなかった。五十嵐は大翔を抱え、そばにいるように言った。篠崎も彼らのそばにいた。そして、公平に戦える広い場所に着いた。
「よし、東条との約束通り、三対三だ。各グループの精鋭三人でな」
対戦カードはこうだった:
篠崎 vs 悪魔
五十嵐 vs 桂
黒 vs 源樹
蓮はその期待を止めた。
「退屈だ……三対三?」
「何か文句でもあるのか? 上に泣きつけ。そういう約束だ」
蓮は全員を指さした。
「俺たち四人で、お前ら全員だ」
その四人目には、大翔も含まれていた。清流の戦力として、彼もまたこの場に立っていた。
阿修羅は大笑いした。
「ふざけてるのか? 俺たちに一秒も――」
ドッ!
蓮が悪魔の顔面を殴り、悪魔は地面でのたうち回った。
「黒、正気か!?」
「いや……来てる……鼓動が……速くなってる……」
蓮は学ランを脱ぎ、両腕を露わにした。
「何の話だ、黒?」
蓮が振り返ると、三人は――大翔も含めて――その変化に気づいた。ブラック・スパイラルが現れた。
「狩りの時間だ……」
「バカども! 突っ立ってないで、かかれ!」
暴力団全員が蓮に襲いかかった。しかし、次々と倒れていく。膝蹴り、拳、蹴り、頭突き。蓮は自分の体を武器のように使った。一人が顔を殴ったが、ブラック・スパイラルの狂気じみた笑みに怯み、右ストレートで倒れた。
蓮は二人の頭を掴み、地面に叩きつけた。背後から殴ろうとした一人は、顎へのアッパーを食らった。一撃一撃に、最大限の暴力が込められていた。
五十嵐と篠崎は、彼らを追うメンバーから大翔を守った。篠崎は飛び蹴りと残忍な打撃を放ち、五十嵐は動きは遅いものの、一撃で近づく者を倒した。大翔は感動しながら見ていた。
「兄ちゃんが、こんな連中のリーダーなのか? すげえ!」
阿修羅の一人がバットを取り出し、大翔の頭を殴ろうとした。三人を相手にしていた篠崎がそれに気づいた。
「くそ! 守れねえ!」
拘束されていた五十嵐が叫んだ。
「黒!!!!! 」
ドッ!
蓮が膝蹴りでバットの男を倒した。
「離れるな、小僧! お前には指一本触れさせねえ……」
(この人、昨日家にいた人だよな……?)
◇
数分後、阿修羅のメンバーは全員意識を失っていた。蓮は疲れ果て、アドレナリンの奔流も収まりつつあった。
「おめでとう、三人とも。ウォーミングアップは終わったな?」
清流の三人は疲れていたが、阿修羅の三人に屈するわけにはいかなかった。源樹、桂、悪魔は立っていた。
「さあ、本当の三対三だ、なあ、ボス?」と桂が言った。
「傷物の野郎、覚悟しろ!」と悪魔が言った。
「本当の戦いを始めよう」
蓮は汗を拭いながら、源樹を軽蔑の目で見た。
(これが平和への第一歩だ……)
本来の対決が、今始まろうとしていた。阿修羅との戦いが、幕を開けようとしていた。




