暫定リーダー
■ 2024年4月19日(金) 黒家
「おはよう、みんな……」
蓮はあくびをしながらリビングへ入った。咲奈と愛美はすでに食卓にいた。咲奈はどこか不機嫌で、愛美は何かを期待するような顔をしていた。
蓮には何が起きているのかわからなかった。
「どうしたんだ?」
「蓮くん……今日が何の日か、覚えてる?」
「……金曜日?」
蓮はカレンダーを確認した。赤い文字で「咲奈の誕生日」と書かれ、笑顔のマークまでついていた。
「あ……」
「それだけ? 『あ……』だけ?」
「悪かったよ、咲奈。授業と部活で頭がいっぱいで、日付を見ないと今日が何の日かもわからなくてな」
「今日は絶対に問題を起こさないでよ。みんなで外食するんだから」
咲奈は怒った顔で蓮を見た。
「わかった? バカ兄」
蓮は母を見た。愛美は咲奈に同調するような顔をしていた。
「わかったよ、時間通りに帰る。そんなに怒るなって」
咲奈はいつもの明るい表情に戻った。
「よし、じゃあ約束ね」
蓮はトーストを二枚、口にくわえた。
「じゃあ、行ってくる。また後でな」
彼は自転車で高校へ向かった。
(今日の戦いは見学だけだからな……)
◇
■ 清流高校
一日は普通に始まった。蓮が教室に着くと、すでに明智が待っていた。
「おはよう、明智さん」
「黒さん、おはようございます」
「なあ、俺のこと蓮って呼んでいいぞ」
「え? そんなに急に?」
「友達だろ?」
明智はまるで入学初日のように震えていた。
「おい……どうした? 手が震えてるぞ」
「白石先輩が……」
「あのうるさいチビか? 何かされたのか?」
明智は答えなかった。
「それとも……好きなのか? わかったぞ、明智さん。大人しい顔して、年上狙いか?」
「あの人は嫌いです……」
「え?」
「いや、嫌いというか……ひどい目に遭わされました……」
「どういうことだ?」
「昨日、東条先輩に新聞部に入れって言われたんです。白石先輩と東条先輩の間に入って、連絡係をしろって……」
「ああ、なるほどな……まあ、それが一番いい。お前みたいな奴は、あんな連中と関わらない方がいい」
「そうじゃなくて……」
「違うのか?」
「昨日の喧嘩の後、白石先輩に無理やり連れて行かれて、敵の高校まで写真を撮りに行かされたんです……」
「そりゃ……ある意味、本体と一緒に行くより危ないな」
「はい、あの人は横暴すぎます!」
「東条先輩が、誰も付けずに送り出すとは思えないけどな……何かあった時のために」
「そうですか? 昨日は二人きりでしたよ……白石先輩は鬼女です……」
その言葉に、背後から声がした。
「誰が鬼女だって? 泣き虫坊や」
明智と蓮は驚いた。白石葵がすべてを聞いていた。
「授業が終わるまで待ってなさい。あけっち、覚悟しときな」
明智は口を両手で押さえ、蓮に助けを求めた。
「蓮くん、ちょっと来て」
「え? 今? もうすぐ授業が始まるぞ!」
「すぐ終わるわ」
◇
蓮は教室を出て、白石の隣を歩いた。窓の外に目をやりながら、彼女の方へ向き直った。
「どうしたんだ、白石さん?」
葵はとても近くにいた。
「な、な、何をするんだ?」
「ははは、反応が見たかったのよ」
「驚かせないでくれよ」
「で、本題。今日、手芸部が暴力団と戦うって知ってるわよね?」
「ああ、見学に行くつもりだ」
「相手は阿修羅っていう暴力団。戦いは夕方、七北田公園の近くよ」
「七北田? 俺、あの辺に住んでるんだが……」
(まあ、戦わないなら何も言われないだろ……たまたま通りかかっただけって言えばいい。うん、そうだ……)
「今日、授業の後に修吾くんが土川校長と面会するの」
「今日!? でも今日は戦いが――」
葵は蓮の口を塞いだ。通りかかった生徒たちがその光景を目撃した。
「バカ、人前でそんなこと言うな!」と葵は小声で叫んだ。
「すまん」
「それで、今日は修吾くんが戦えないのよ……」
「嫌な予感がするんだが……」
葵は蓮を指さした。
「今日は、あんたが阿修羅と戦うのよ」
「戦う? 家の近くで戦うわけにはいかない!」
「ごめんね、でもそういう流れになっちゃったのよ……」
葵は少し悪戯っぽく顔を上げた。
「考えてみれば、三番手は牟田だけど、彼は戦える状態じゃない……だから余計に、あんたがやるしかないのよ!」
「で、で、でも……」
キーンコーンカーンコーン!
チャイムが鳴った。葵は走りながら手を振った。
「わかったわね! サボったら許さないから!」
(くそ……今日は咲奈の誕生日だ……傷だらけで帰るわけにはいかない。じゃないと、絶対に許してもらえない……)
蓮は諦めて教室に戻った。
◇
■ 午後2時30分
授業中、森重先生が数学を教えていたが、蓮は上の空だった。明智は蓮が集中していないことに気づいた。
「蓮さん、どうかしましたか?」と明智は小声で言った。
「……」
明智は蓮が足を開いて座っているのを見て、その足を踏んだ。
「ああっ!」
クラス全員、森重先生までもが授業を止めた。明智は力を入れすぎたことに気づいた。
「あ、やば……」
「黒、明智。何かあったのか?」
「い、いえ、森重先生……」
「すみません、森重先生。足が……ええと……つりまして、はい、足がつったんです」
「黒、二度と授業を中断するな」
「はい! すみませんでした」
授業が再開され、蓮は明智を睨みつけた。
「何をしようとしたんだ、このバカ」と蓮は小声で言った。
「集中してなかったので。ここ、試験に出るんです」と明智は小声で答えた。
「わかってる、黙れ……」
時計の針が進むにつれ、蓮の緊張は高まっていった。阿修羅との大一番が、数時間後に迫っていた。




