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PAINT IT BLACK  作者: ねずお あきとし
ブラック・ロータス編
5/9

東条修吾

黒蓮(くろれん)は、悪い意味で驚いていた。自分の上役である東条修吾(とうじょうしゅうご)が、自分と同じマンションに住んでいるという知らせに。


「東条先輩、ほ、本当にここに住んでるんですか!?」


「ははは、まあ、世間は狭いもんだろ?」


「自分の家でも休めない気がする……」


「おい、悪いことばかりじゃないぞ。大事なことだけ呼ぶって約束しただろ?」


「うん、まあ……」


「寄っていくか? 中でゆっくり話せる」


(最悪だ、断れない……先輩だし)と蓮は思った。


彼は東条の部屋に入った。


「お兄ちゃん!」と小さな声が出迎えた。


「沙由里(さゆり)ちゃん! 今日も学校でいい子にしてたか?」


「うん、宿題も全部やったよ!」


「えらいな。大翔(ひろと)ちゃんは?」


「ここにいるよ、お兄ちゃん……」


と、あまり元気のない様子で少年が現れた。


「学校から帰るのに、困ったことはなかったか?」


「うん……でも……男の子たちにお金を取られそうになって……」


「何かしたか?」


「ううん……誰か大きい人が来て追い払ってくれるのを待った……」


東条は大翔の肩に手を置いた。


「よくやった、大翔ちゃん」


大翔は乱暴にその手を振りほどいた。


「よくやったなんて嘘だ! 本当はあいつらをぶん殴ってやりたかったんだ! お兄ちゃんみたいに!」


東条は何も答えられなかった。


「言葉で解決するのに疲れたよ! あいつらのケツをぶん殴ってやりたい!」


大翔は走って自分の部屋へ行った。沙由里が彼を落ち着かせようと追いかけた。


蓮はその光景に言葉を失った。東条はソファに崩れるように座り、片手で顔を覆った。


「……答えなくて、よかったのか?」


「あれが悪いことだって、どう言えばいいかわからなくてな……」


蓮は向かいのソファに座った。


「黒くん。家族とはうまくやってるか?」


蓮はよく考えて答えた。


「ああ……むしろ、彼らのために人生を変えようと決めたんだ。妹に自分が不良だなんて思われたくなくて――」


言い終わる前に、東条の目から光が消えるのに気づいた。


「支えてくれる家族がいるのは、いいことだ……」


「先輩だって、家族に支えられてるだろ?」


東条は答えなかった。


蓮の背後、棚の上に、小さな仏壇があった。東条の父親のためのものだ。蓮はそれを見て、自分の言葉の重さを悟った。


「東条先輩、すみません、そんなつもりじゃ……」


「気にするな。もうずっと前のことだ……」


東条は立ち上がり、蓮について来るように手で合図した。部屋の一つを開けた。中では、一人の女性が穏やかに眠っていた。寝たきりの状態で。


「お母さんですか?」と蓮は小声で尋ねた。


東条は頷いた。そっと扉を閉め、リビングに戻った。


「さっき、俺の理想はいいけど手段は間違ってるって言ったよな……でも、他に選択肢がないんだ。少なくとも、見つけるまでは……」


東条は歯を食いしばり、拳を握った。


「親父を殺して……母さんを寝たきりにした……クソ野郎どもを……。でも、全てが終わったわけじゃないんだぜ?」


東条は平静を保とうとしながら話した。


「親父には商売があってな。今は俺が空いた時間に切り盛りしてる。変な話だろ、十七で家族を支える立場になっちまった……」


「東条先輩……」


涙を堪え、無理やり笑みを作った。


「これで、俺が戦う理由がわかっただろ? 全部、家族のためだ」


「例え、自分が憎むことと同じことをすることになっても?」


「まあ……そこはお前の言う通りだ。でも俺の目標は変わらない。この街を平和な場所にして、子供たちが何も心配せずに外で遊べるようにする……誰も、こんな思いをしなくて済むように」


蓮は、心からの共感を込めて笑った。


「言いたいことはわかる。協力するよ、その目標のために」


「じゃあ、二人の責任ってわけだ」


「ああ。そうしよう」


二人は手を握り合った。


「一つ聞きたいんだ、東条先輩」


「ああ、何だ?」


「他の高校と喧嘩の約束があるって聞いた。いつか知ってもいいか?」


「ああ、そうだ。金曜日だ。来るか?」


「迷惑じゃなければ……見学だけしたい」


「必要な時は手を貸してくれるんだな?」


「もちろん。必要な時だけ」


「よし……じゃあ、また明日な、黒くん」


「ああ」


◇


蓮は東条の部屋を出て、自分の家に戻った。


「あら、ちょうどいいところに!」と愛美が出迎えた。


「夕飯できたのか?」


「うん! 座って、息子」と篤が言った。


夕食はすでに準備されていた。篤は仕事での出来事を話していた。愛美はご近所さんと仲良くなった。咲奈は両親に隠れてパンに肉をあげていた。


全員が平和に夕食をとっていた。蓮以外は。


東条の家で見た光景は、その夜、彼を眠らせてはくれなかった。


(今の俺にできるのは、これくらいだ、東条先輩……)と蓮は思った。

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