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ネカマの王は生放送でもちやほやされたい!

「ミユ様! このゼクロ、ついに『ナイト』から上位クラスの『パラディン』になりました! これで現役時代の実力まで力を発揮することが可能になるでしょう」


「さっすがゼクロくん! 一年も経たないで上位クラスになっちゃうなんてすごーい!」


俺たちは冒険者ギルドで前日に達成したクエストの報告をしていた。その際、ついでにそれぞれステータス確認を行っていた。


「ミユ様はいかがでした?」


「ほげー」


「……ミユ様?」


「やめとけやめとけ。どうせまた冒険者になれなかったんだろ。人の言葉すら発しなくなりやがって、もはや言い訳を考えることすら放棄しやがったな」


俺は目を点にして、口をあんぐりと開けて、とぼけたふりでその話題を切り抜けるのであった。


「……そういえば、ステータスって冒険者ギルドじゃないと確認できないから不便よね。そもそもミユ、冒険者じゃないからステータスってのがどんな仕組みになっているのか正直まだよくわかってないのよね……」


「冒険者登録した時の遺伝子情報から、現状の強さを数値化したものをステータスって言うんだけどよ……ま、それは冒険者になった時に直接見た方が早いだろ。ってことで、精進しとけよ」


「ほげー」


「チッ、このBBA……」


ジョニーが無理矢理に俺の冒険者事情に話を持っていこうとしたので、話題を切り替えることにした。


「アンビリーバボーはなんていうクラスなの?」


「――ふ、原形を留めてないよ。信じられないのは俺の方だよ。俺はアンモライトだ。……そうだな、クラスは『ラピス』だ」


「ラピス? 聞いたことねぇな」


「ふん、戯言を。ミユ様、奴はありもしないクラスを称しているだけです」


「へ、へぇー? そのラピスってクラスが強いのか弱いのかはわからないけど。あんた、狼化しないとあんまし強くないからねぇ。どうにかならないかな」


「ですね。その狼化の時間制限が無ければ、かなり有利にクエストを進めることが出来るとは思いますが……」


アンモライトを含めた人狼族は、一時的に身体能力を飛躍的に向上させる狼化を行うことが出来る。しかし、狼化には時間制限があり、アンモライトの場合だと長くて二分程度しか維持することは出来なかった。


「ずっと狼化していられる薬とかありゃいいのにな」


「薬……薬かぁ。……あっ! ミユ、ひとつだけ心当たりがあるかも!」


そう、薬といえば、その手のエキスパートの存在を俺は知っていたのだった。



◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆



「えぇと、確かこの壁の出っ張りを棒で叩いて、下に撫で降ろせば――」


いつか見た通りの手順で、手にしていた棒を下に降ろすと、横に木目の扉が現れるのだった。


「ほぉー。こんなところに万屋があったとはなぁ。長いことこの国に住んでいるが、初めて知ったぜ」


扉の向こうは相も変わらず薄暗く、続く階段を降りていくのであった。奥では白髪の魔女が杖で大きな壺をかき回していた。


「ふぇっふぇっふぇ。いらっしゃい、よく来たねぇ」


「久しぶり。ミユの欲しい薬、どうせもう用意してあるんでしょ?」


「ふぇっふぇ、よくわかったねぇ。もちろん、お前さんたちが来ることはわかっていたよぉ」


この婆さんは万屋の魔女だ。初めて化粧道具をここで買ったのだが、同じものが一般の店でも売られており、一時期は詐欺にあったのだとばかり思っていた。しかし、実は値段相応であったことに後々気がつくことになる。


例えば、一般的に売られている『写し鏡』は、メイクアップした姿を覚えさせることが出来る魔道具なのだが、アウトプットのためにメイクセット等の道具が必要なのだ。一方で、俺が万屋から買った『女豹の手鏡』は、アウトプットに必要な物が自分の小量な魔力だけなのである。要するに、一度覚えさせてしまえばもう化粧道具は要らないという、なんともお金がかからない代物なのである。


また、声が変わる薬については、一般的な物はヘリウムガスを吸ったときのようなユーモラスな声にしかならないようだ。万屋で買った声が変わる薬は、ナチュラルに♀声を出すことが出来るので、大変助かっている。


と、まぁそんなこんなでその後もお世話になっていたという訳だ。


「――万屋の魔女。噂で聞いたことがあるよ。果ての未来まで見通す予知力から【終極の魔女】と呼ばれるようになった。……歴史が動く時その姿を現すと聞いていたが、まさかミユが顔見知りとはね」


「は? 何その伝説の人みたいな扱い! そんな凄い人だったわけ!? いや、確かに見た目から貫禄はすごく感じられるけど!」


「ふぇっふぇ。よしておくれ、昔のやんちゃしていた頃の呼び名だよぉ。今は身を引いてひっそりと暮らすただの老人さ」


そもそも、来ただけで欲しい物がすぐにわかるって時点で、やべぇ人なんだと気付くべきだったよな! 俺は馬鹿なのだろうか……。


「それはそうと、例の薬は一体どこにあるの?」


「薬かい? どれ、手を出してみなさい」


そう言って手渡されたのは、赤い液体の入った手のひらサイズの小瓶だった。俺はそれを受取ろうとしたが、その途端、魔女は急に手と小瓶を握り返したのだった。


「……この薬はねぇ。お前さんたちの思っている通り、人狼族を強制的に変身させることが出来る薬さ。ただねぇ、気を付けることだ。一度飲ませると二度と人の姿に戻れなくなるリスクがあるのさ。使い時を間違えると、大変なことになるからねぇ……ふぇっふぇっふぇ」


「な! そんな危険な薬要らないんですけど! 返す返す!!」


「おやおやぁ」


魔女は俺に顔をグッと近づけて、警鐘を鳴らすのだった。その表情は、何も読み取れない無の表情をしていた。気味の悪さを感じて、思わず身震いしてしまう。


「最近、王都に魔物が突然出没するらしいねぇ。お前さんたちの記憶にもないかい? これは紛れもなく歴史の動く前兆さ。そして、お前さんたちには近いうちにこれが必要になる事態が起こる。……買っておくのが得策だと思うがねぇ?」


「……え? それって一体どういう――」


「――ミユ、買おう。なに、俺は大丈夫さ。もしもの為に備えて損はないだろ?」


「ま、まぁ。それはそうなんだけど……」


その後もアンモライトの説得は続き、ついには熱意に負け、少々値は張ったが薬を購入することにした。ちなみに、「当然、自分専用の物だから自分で払う」と言って全額彼が負担した。その表情は満足気であった。


「毎度、ありがとうねぇ。……お買い上げのサービスとして一つ、お前さんに未来を告げようかねぇ。他の者たちは席を外しておくれ」


「……ミユ様」


「大丈夫、ミユは平気だから。先に外で待ってて」


そう言って、下僕たちを店の外まで出させた。完全に周囲に誰もいなくなったところで話を戻す。


「それで、何を教えてくれるわけ? 未来を見通せる魔女に教えられる未来とか、破滅の未来だった時のことを考えるとめっちゃ怖いんですけど」


「魔法の制約によって詳しい内容までは教えられないよぉ。だけどねぇ、一つだけお前さんに教えられることがあるんだよ。……近い未来、お前さんは全てを失うだろう。そして、失ったものを天秤に掛けて、重大な選択を迫られる。その時にお前さんはどんな選択をするのだろうねぇ。……おや、話しすぎたかい。いずれにしても、覚悟を決めておくことだね」


「……はぁ。やっぱり悪い予知じゃない。聞かなきゃよかった」


「ふぇっふぇっふぇ。未来を決められるのはお前さんだけだよぉ。わしには見通すだけしかできないから、打開策は自分で切り開くことだねぇ……」


不穏な未来を告げられたまま、万屋を後にした。この先、何が待ち受けているのだろうか。



薄暗い階段へ続く扉はゆっくりと閉じられる。奥に佇む老婆は、目を見開きながらそれを見ていた。

微動だにしない姿は、不気味さを更に強めていく。


「……忠告はしたからねぇ。ふぇっふぇっふぇ」


老婆はたった一言だけ言い残し、闇へと消えていった。



◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆



翌日、俺たちがいつものようにジョニーが用意した食事を取っている時のことだ。

アンモライトが普段より冴えない顔をしていたのだった。とはいえ、朝に弱く、寝起きが悪い彼だったため、俺はただ調子が上がらないだけだと思い、声を掛けることはなかった。


しかし、意外にも話を切り出してきたのは彼の方だったのだ。


「――ミユ。今日は君に頼みたいことがあるんだけど……いいかな?」


「恰好ばかりつけてるあんたが頼みごとなんて珍しいわね。内容によっては断るけど、言ってみなさい」


アンモライトは上品にもナプキンで口を拭い、一通り食事を中断し終えてから話を続けるのだった。


「実は、俺が冒険者と兼業しているラディオの個人生配信についてなんだけど。最近、リスナーの数がかなり減ってきていてね」


ほうほう、どうりで最近こいつのファンに出くわさないわけだ。口うるさい奴らの顔を見なくて済んで、清々としていたところだった。


「……そこで、君には俺と≪コラボ配信≫をしてもらいたいんだ」


「コラボ配信!? ちょっと、何考えてるの。ただでさえミユ、あんたのファンに反感を持たれてるのに、ミユが配信に出たらそれこそリスナーが消し飛ぶわよ?」


俺からしてみれば、非難を受けるとわかっていながらもアウェーに飛び込むようなものだ。そんなかったるいこと、わざわざするわけがない。


「ふっ、そんなことはないさ。俺とミユの睦まじい間柄を示すことが出来れば、きっとリスナーたちも理解してくれると思うんだよ」


「本当に余裕が無いのか、かなり迷走してるわね……。いや、これはこれで平常運転かぁ。とにもかくにも、ミユ、そんな面倒なことするつもりはないから」


「ま、いいじゃねーか。一回くらいしてやれよ、コラボ配信」


ジョニーは他人事だと言わんばかりにいい加減なことをぬかしていた。だったらお前が代わりにやってくれ。俺はそう言いたい。


「――俺は前々から、ミユには配信者としての素質が備わっているのではないかと気になっていたんだ。人を惹きつける君のキャラクター性があれば、もしかすると、すぐにトップレベルの人気を勝ち取ることが出来るかもしれない。どうだい? 興味が湧いてきただろ?」


なるほど。こいつらは俺が前の世界で似たような配信をして、人気を得ていたことを当然知らないわけか。ということは、アンモライトの目も節穴ではないみたいだな。配信者としての実力には多少は期待が持てる。


「まぁ。それとこれとは話が別ね。生配信で人気を得なくても、冒険者として人気を勝ち取るから別にいいもん。……ってことで、いくら言われようと、ミユがそんな面倒なことするわけ――」



「――こんばんみゆみゆ~っ! みんなのご主人様、ミユだょ☆」


「ということで。今宵も始まりました『アンモdeトゥナイト』。パーソナリティはもちろんこの俺、アンモライトだ。そして、本日のゲストは……先ほど自己紹介をしてもらった、こちら! 麗しき俺の――ミユだ」


「みんなー! 今日はよろしくねっ☆」


……って、あるぇー!?? 俺は一体何をしてるんだ……!

気が付くと俺はアンモライトのライブ収録用のスタジオにいた。個人が持つスタジオにしては、機材も揃えられている上にしっかりとした造りになっていて、どことなくワクワク感をそそられる。

……なんて、悠長なことを考えられずにはいられない。俺はまんまと、アンモライトの口車に乗せられてしまったのだ……。


「――さて、早速だが最初のコーナーを始めよう。今宵も迷える子猫を喰らう、愛の囁き。――『餓狼の晩酌』。このコーナーでは、リスナーから募集したセリフを読んでいくよ。さ、僕に虜なそこの君。心の準備は出来たかな?」


げぇ。いきなり俺の嫌悪感を逆撫でしそうなコーナーをぶっこんできやがった。

嫌な予感しかしなかったため、人差し指でコッソリと耳を塞ぐのであった。


「ペンネーム、恋する子ブタさん。シチュエーションは、他でパーティを組んでいた私に一言、ね。このリスナーさんは冒険者なのかな? それじゃあ、いくよ」


先ほどからバックグラウンドとして流れていたオシャレなBGMがピタッと止まり、一呼吸置いてからアンモライトは囁きだした。


「……おい、お前。なに俺以外の奴とパーティ組んでるんだよ。お前が他の奴に取られるなんて、許した覚えないんだけど。もう、俺以外とパーティ組むの禁止な。――チュッ。これ、俺とお前だけの、約束の証……ね」


うわぁ!! 痒い痒い痒い痒い!

全身がぞわぞわ鳥肌と毟りたくなるような痒み襲われる。なんの罰ゲームだよ、これ!!


くそ、こんな地獄がまだ続いていくのか……。

このコーナーはその後、10分程度続いていくが、俺にとっては3時間くらいに感じたのだった。


「――うるせぇ口だな。塞いでやるよ、俺の唇で……な」


「――お前のこと、なーんかほっとけないんだよ……ね」


「――ずっと俺の傍に居ろ。お前に拒否権、ねぇから……な」


やめろ。やめてくれ……。

そのセリフの数々は俺に効く。吐き気を催す意味で。

特に、ねっとりボイスでセリフの最後に謎の一呼吸置くのがうざ過ぎる。


「本日最後のセリフは……ペンネーム、ずぼら魔剣士さんから。シチュエーションは、お腹の空いた赤ちゃんの一言……? まぁ、いいや。それじゃあ、いくよ」


アンモライトは一瞬、戸惑った表情をしたが、進行のテンポを気にしてかそのまま続けるのであった。


「――ダァ……まぁま、おっぱい……。うぇ……おぱい……。……んぅうー……! ……マァーー!! ああぁああぁあ!! ンォギャアーー!! マァアアァア!!! ……何だこれは……」


「んっ、ぶふぅ!!」


ふざけたようなセリフまで熱演するアンモライトに思わず吹き出してしまう。彼はこちらをキッと睨みつけてきたが、俺は目を逸らしてごまかすように口笛を吹く。

だが、どんなセリフもやってのける根性から、彼のプロ意識の高さだけは垣間見えた。こいつ、意識だけは高いからなぁ。


「……ゴホン。まぁいい。ゲストのミユも退屈しているようだし、次のコーナーへ移ろうか。今宵も悩める子猫を慰める、望む充実。――『人狼の啓示』。このコーナーでは、リスナーから募集したお悩みをゲストと共に解決していくコーナーだ」


おぉ、お悩み相談ってやつか。

まともそうなコーナーで良かった。これなら俺も参加できそうだな。


「最初のお便りはこちら。ペンネーム、ド変態ポンチさんからのお悩みだ。私には今、付き合って3年の彼氏がいます。しかし、最近。彼の様子がおかしく、スカウトがクラスの冒険者さんに尾行して調べてもらいました。すると、私より10歳も上の♀と結婚していることがわかりました。しかも、私と付き合う前から既婚者のようで、子供までいるそうです。私、その事実に悔しくて……悲しくて……もう、どうしたらいいのかわかりません。アンモライト様、私はこれからどうやって生きていけばいいのでしょうか?」


重っ!! めっちゃガチなやつ来た……。

こんなのどんなコメントしたらいいかわかんないわ……。


「なるほど、浮気……ね。この悩みについて、ミユはどう思うかな?」


「ちょっ、こっちに振らないでよ! ……そうね。そんなクズ♂、さっさと別れちゃえばいいんじゃない? もちろん、仕返しとしてその♂の奥さんに全部告げ口してね。そしたらスッキリするんじゃない?」


なんて、当たり障りのないコメントをしておいた。だって、これ以上言いようがないじゃん。

しかし、アンモライトはチッチッチッと指を振り、まだまだ甘いと言わんばかりに舐めた態度を取っていた。無性に腹が立つ顔に、思わずムッとする。


「ノンノン。それじゃあ、彼女は幸せになれないよ。……ド変態ポンチさん、誰にも話せなくて……辛かったね。苦しかったね。ただ、覚えていてほしい。君の心の中には、いつも俺が傍に居るということを。君みたいな素敵な♀に、涙は似合わないさ。さっ、一層キレイになって俺にその輝きを見せておくれ」


ふーん、なるほどねぇ。

全く解決してねぇじゃねーか!!


くそ、これが対♂エキスパートである俺と、対♀エキスパートであるアンモライトの違いか……。

♀は解決法より共感を求めるとよく聞くからな……あながちアンモライトの対応は間違いではないのかもしれない。にしても、納得いかないなぁ。


「次のお便りはこちら。ペンネーム、戦場のおかんさんからのお悩みだ。私は冒険者です。パーティメンバーとはいつも一緒で、計4人で同じ家に住んでいます。大変なことは多いけども、仲睦まじく日々を過ごしています。……ふむふむ、このリスナーは充実した毎日を送っているようだね」


うーん。

なんだろう、どこかで聞いたようなことがある世帯構成だなぁ……。

いや、気のせいであって欲しいけど。


「ところで、同居人についてそれぞれ、不満点……とまではいかないのですが、直してほしいところがあり、困っています。例えば、一緒に暮らしているナイト系のメンバーは、寝小便を稀にしてしまうようで、他のメンバーにバレないようにコッソリと替えのシーツを取りに来ます。早朝に誰にも見られないように布団を洗う姿は、既に他のメンバーにもバレていて、見ていて居たたまれないので、どうしようか悩んでいます」


んん!?

俺その光景、実際に早朝に見たことあるんですけど……。

……何だかマズイ流れだ。


「また、自分が大好きな……俗に言うナルシストなメンバーは、同居している意中の相手の前で、私たちに自分のことを褒めるように仰いできます。毎日、一度は打ち合わせと称して迫ってくるので、ハッキリ言ってウンザリしています。ダサいです。これもまた、私の悩みです」


……間違いない。この悩みの投稿者は他でもない、ジョニーだ!

あの野郎、惜しみなく次々とメンバーの恥ずかしいことを暴露していきやがって……!

ゼクロ、アンモライトと来ると、残るは……。


「最後に、紅一点な♀のメンバーについてなのですが。彼女は入浴中に歌を熱唱することが日課のようで、私も廊下を通るたびにいつもその音痴――」


「――はい、やめやめ!! もうやめて!! ……このお悩みは長すぎるみたいから、次いこ! 次!!」


「どうしんたんだい、ミユ? そんなに慌てて。時間はまだ十分あるから、気にしなくても大丈夫だよ」


「あんたは少しは気にしなさい!! ……って、ホントに気付いてないの?」


恐らくアンモライトは、先ほど読まれた悩みについて、自分のことであることを自覚していないらしい。

自分に酔狂し過ぎるとここまで来るものなのだな。普段、割と頭が回って察しがいいくせに、こういう時に限って鈍感なのは困ったものだ。


「ふぅ、ミユがそう言うのであればやむを得ない。では、最後のコーナーに移るとしよう。今宵も疼く子猫と語らう、心の対話。――『銀狼の戯れ』。このコーナーでは、魔道具を通じてリスナーと実際にお話していくよ」


「やっと最後かぁ。ミユ、あんま居る意味無かったように思えるんですけど……」


「厳正なる抽選の結果、選ばれたのは……ペンネーム、Mr.キシドーさん。ふっ、おめでとう。じゃあ、この配信を楽しんでいてくれているだろう君にコネクトしていくよ。Mr.キシドーさん、準備はいいかい?」


アンモライトは、通話用魔道具なのか手のひらに収まるほどで円柱型の小さな箱を取り出し、何やら詠唱を始めるのであった。箱は次第に蒼く光り出し、一点に収束した。


「これでよし。ミユ、通話が開始されたよ」


「え、これが通話状態なの? へぇー……もしもし? 聞こえてますか?」


相手からの反応は何もない。緊張しているのだろうか。

フォローを入れるために、アンモライトがすかさず続いて話しかける。


「Mr.キシドーさん。聞こえているかい? 繋がってはいると思うんだけど……もし、聞こえているなら何かアクションを起こしてほしいな」


彼の問いかけに、再び時間を置くものの、ついには沈黙が破られる。

その声は聞き馴染みがある声だった。そして、それが緊張からのものでないことを知る。


『……貴様ァ! これは一体、どういうことだ……?』


「――んな!! 君はゼクロか!? ……ふっ、どこまでも俺の邪魔を……!」


あーあ、こりゃ終わったな。

所謂、放送事故だな。このまま放送はめちゃくちゃになって終わるのだろう。

これまでの経験上、俺がそれを一番わかっているよ……。


『ゼクロではない、Mr.キシドーだ! 貴様、今度はどんな企みだ!』


「……おっとこれは失礼。Mr.キシドー。君以外のメンバーは皆、今宵、俺の放送にミユが出演することを知っているんだ。うっかりしたことに、君に知らせておくのを忘れていたよ」


『そんなことはジョニーからもう聞いている。僕が知りたいのは、何故こんなことをしているかだ! こんな夜中にミユ様を連れ出すなど、言語道断。絶対に許せん!』


「ミユ同意の下、だ。君こそ一体どういうつもりだ? 僕のプライベートにまで邪魔しに来ないで欲しいね」


『ふん。それは貴様が僕を選んだから悪いのだろう。大体貴様は――』


鉢合わせてからそんなに時間も経っていないというのに、既に収集がつかなくなってきている。ゼクロもアンモライトもヒートアップし、今行われていることがラディオの生放送であることをすっかり忘れているのだろう。


俺は、視線が魔道具の方にしか向いていない、隙だらけのアンモライトの傍にあった台本を奪い去り、代わりに自分風の最後の締めをするのであった。


「……ということで、今夜の『アンモdeトゥナイト』はいかがだったでしょうか? もし、良かったと思ったら高評価とフォローの方をお願いします。それではまた、どこかで会いましょう。おやすみゆみゆ~☆ ……っとこれでいいのかな? さっ、かーえろっと!」



帰宅後。

念のためにアンモライトの放送を覗いてみると、なんとまだ喧嘩が続いていた。その様子はずっと配信で垂れ流されているようだった。


この件を含めた様々な要因から、アンモライトのリスナーは半分以下にまで減。彼にとってはかなりの痛手となった。

……筈だったのだが……。


「――ふっ、俺のリスナーかい? なぁに、俺くらい魅力的だとまたすぐに増えていくさ」


なんて。ショックを受けるどころかポジティブな思考をするあたり、彼は本当にぶれない。

完全に骨折り損のくたびれ儲けな一日であった。

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