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10/12

ネカマの王は欲情した♂と混浴したくない!

カランカラン!


「おめでとうございます! 一等、一等でございます!! 景品はなんと――一泊二日の温泉旅行ペアチケットでございます!!」


「え? ……えぇー!?」


今の状況を頭の整理も含めて説明しよう。俺たちは屋敷の食料が尽きかけていた為、買い出しに下町まで来ていた。買い物を済ませると、オマケで一枚だけ福引券を貰った。

まぁ、どうせ当たらないだろうと捨てようとしたところ、ゼクロが「今日は朝からいいことが多いので、運気が上がっているかもしれません」とどうしても福引をやりたがった。面倒ながらもガラガラを回したところ、これだ。


「ミユ様! やりましたね!! やはり、今日の運勢は絶好調です」


「ははは……ゼクロくんそういうオカルト信じてそうだもんね……。でも、こんな状況起きてしまったら、ミユでも信じてしまいそう……」


言い終わって魔法もオカルトの一部なのではないかと気付くが、今はそんなことどうでもよかった。……温泉旅行!? うっひょー! この疲れ果てた身体をじっくり癒すぜ!!


思えば最近は過酷な日々だった。時に凶悪な飛竜の巣から卵を盗んで必死こいて逃げたり、時に枯れ果てた広大な砂漠を魔物と戦いながら彷徨ったり、時に溺れながらも水中の鉱石を採掘したり……。うん! 今すぐ休みたい!! こんな過酷労働の日々は少しでも忘れたい!!


だが、どうやらペアチケットなので、下僕を全員連れていくことは出来ないらしい。俺は確定しているとして、もう一人は誰になるのだろうか……。



◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆



「――ほう。で、あれば。この俺がミユに付き添うは当然というものだね」


「どうしてそうなる。買い出しに行ったのは僕とミユ様だ。故に、僕とミユ様が行くのは既に決まっている」


まぁ、こうなることは大方想像ついていたけどね。さて、どうしたものか。


「それならよぉ、何か勝負事を決めて決着すればいいんじゃねーか?? ま、俺様は温泉なんて興味ねーから不参加でもいいけどよぉ」


「そーよ、それそれ! 勝負よ! いいこと言うじゃない、ジョニー。勝負の内容はミユが決めてあげる。決着したら温泉旅行に同行させてあげるから、揉め事もしばらくは起こさないことね。いい、わかった? 頼むからね、マジで!!」


ゼクロとアンモライトは顔を合わせる度に喧嘩するものだから、本当に手を焼いていた。この際、徹底的に戦わせて大人しくさせなければ。



ということで、温泉旅行ペアチケット争奪戦を開催することになった。場所は魔物がいない国の近くの草原に決めた。ここならどれだけ暴れても被害はないだろう。


「勝負は文句なしの一度きり。勝者こそが絶対よ!」


「必ずや……僕がミユ様とお、お、お、温泉旅行に……!!」


「――ふ、勝者は僕以外ありえない。君は今からでも負けた時の言い訳でも考えておくのだな」


「けっ、どうでもいいけどよ。なんで俺様まで参加させられてんだ?」


「なんだ、ジョニー。ミユ様と一緒の温泉に行きたくないのか?」


「誰がBBAと二人きりなんぞ……。それに、俺様はお湯が苦手なんだよ。温泉なんてもっての外だ。ま、俺様が優勝しちまったらどっちかに譲ってやるよ」


ほぉ。ジョニーに意外な苦手要素があったのか。これは初耳だ。


「それじゃあ早速始めるわよ!! 気になる勝負の内容は……蹴落とすもヨシ邪魔するもヨシの、何でもアリな古代より伝わる伝説の競技……」


皆、生唾をゴクリと飲み込む。ククク、地獄の勝負に恐れおののくがいい……。


「――その名も……≪かけっこ≫よ!!」


下僕たちは予想外の競技に目を真ん丸にして驚いていた。……そりゃそうだ。あんまり危ないことはさせられないからな。

木の棒で地面へ一直線に跡を付け、下僕たちを線に並ばせた。


「ルールは大樹に最も早く辿り着いた人の勝ち。クエストに支障が出ない程度であれば攻撃は許可するわ。ただし、阻害を目的とした攻撃以外は認めないからね。例えば、必要以上の私怨による攻撃とかね。相手を走れない状態にさせるとかも無しだからね!」


「へぇー。それなら工夫次第では非戦闘員の俺様にも可能性があるってわけだな」


「……貴様とはどこかでケリを付けたかったところだ。丁度いい、僕が格上の存在であるということを分からせてやろう」


「――ふっ、望むところさ。せいぜい醜く足掻くことだな」


よーし、予想通り二人はいい感じに燃え上がってるぞ。このまま暫くは喧嘩しないくらいやりあってくれれば万々歳だ。


「それじゃあ準備して。用意が出来たらすぐに始めるよ!」


彼らは大樹をただ一心に見つめ、ピリピリとした気迫が伝わってくる。聞かずとも準備は大丈夫なようだ。


「じゃあ行くよ! 位置について、よーい……ドン!」


合図と共に先頭を切ったのはゼクロだった。流石にステータスが高いだけあって、真っ当に勝負すれば敵わないだろう。残る二人はどの様にしてこの形勢に立ち向かうのだろうか。


「――ふっ、想定済みだよ。ならば、これはどうかな!?」


アンモライトは複数のブーメランをゼクロに向かって放った。


「何処に向かって攻撃している。まぁ、当たったところでそんな攻撃、僕には効かな――なっ!?」


突然、ゼクロは何かに引っ掛かった様に派手に転んでいった。よく見ると、先ほど放ったブーメランが地面に突き刺さって互いに糸を張り、ワイヤートラップの如く足元にピンと張り巡らされた。


「これは衝撃が強ければ強いほど硬度が高くなる糸さ。向こう見ずに力任せな、まるで野生児みたいに品が無い君にはピッタリな品だろう?」


「くっ、貴様ぁ!」


彼の言う通り、予想以上に悶えている様子から効果てきめんのようだ。体勢を整えているゼクロの隣を、アンモライトは優雅に走り去っていくのだった。


「――ふ、これで僕の勝ちは決まりだな」


「させるか! ――イクススロイフ!!」


ゼクロは三本程の小さな十字の光を発射した。……こいつ、遠距離攻撃出来たのか! 光はアンモライトの頭に直撃し、たまらず倒れてしまう。


「……イクススロイフの威力はそこまでのものではない。安心しろ、少し気絶する程度だろう」


完全に立ち直したゼクロは形勢逆転し、アンモライトの横を走り去ろうとした。しかし。


「――こんなチープな攻撃で、君は勝ったつもりかい? 全く、話にならないな。もっとマシな攻撃を仕掛けてみたらどうだ?」


彼はすぐに立ち上がり、ゼクロを煽った。挑発に乗り、かけっこにも拘らずゼクロは足を止める。


「ほーう?? では、僕の本気を見せてやろう。後悔しても知らな――」


「――おーい。取り込み中わりぃんだけどもよ。俺様、もうゴールしちまったわ」


ゼクロとアンモライトが互いに足を引っ張る中、なんとジョニーがゴールしてしまっていたのだ。


なんて要らないことをしてしまったんだ! まだまだゼクロもアンモライトも不完全燃焼じゃないか!! くそ、何か手を打たないと……。


「えーっとぉ……じゃあ、俺様がどっちかに譲ればいいんだっけか? それじゃあ……」


「――忘れろビームッ☆」


胸の前に手でハートを作り、ウインクしながら可愛らしいポーズを取って、世界中の♂が虜となる攻撃を放ったのだった。


「……は? キッツ。なんだそりゃ?」


「――忘れろビームッ☆」


「いや、もう一回やってくれなんて言ってねぇよ! どういう意味だって聞いてんだよ!!」


「ジョニーくん。これはね、三本勝負なのだよ。言ってなかったっけー? だ・か・ら、次の勝負に移行するよ!」


「はぁ? まだ面倒なことに付き合わせる気かよ!! そもそも、勝負は一度切りって言ってたのてめぇじゃ――」


「――忘れろビームッ☆」


「あーはいはい。そうですか。チッ、てめぇ後で覚えてろよ」


「うんうん。素直でよろしい」


ジョニーは俺の意図を見事に推察してくれたようだった。無理に付き合わせて申し訳ない気はするが、仕方ない。ゼクロかアンモライトのどちらかを優位に立たせなければ、この先もきっと喧嘩は続いていくだろう。決着がついて二人の気が済むまで、ここは徹底的に争ってもらうぜ!



「次の勝負はこれ! ≪玉入れ≫よ!」


草原に高さ3メートルほどの籠と、玉の代わりに吸血スライムを用意した。どうやって用意したかは……企業秘密だ。


「ルールは簡単。自分の籠に多く玉を入れた方が勝ち! 当然、邪魔はOKよ」


「今度こそケリをつける……!」


「ふ、圧勝してしまっても構わないのだろう?」


「もー。全然話聞かないし……。じゃ、行くよ。よーい……スタート!!」


開始と共に、ゼクロが素早い動きで次々と玉を放り投げる。次々にハイペースで大量の玉が籠の中へ入っていく。しかし――。


「ふん。そう易々と入れさせるわけないじゃないか。行くぜ――ファーハーム」


アンモライトは、予めゼクロの籠に網目状の糸を張り巡らせていたようで、籠の内側から糸を一気に外側へ引っ張ることで、中の玉は全て放出されていった。


「貴様ぁ、卑怯な!!」


「卑怯? 愚かだね。ミユは何でもアリと言ってたじゃないか。スタート前の小細工なんて禁止されてないぜ? 俺はルールに則っただけだ」


「くっ……ならばこれでどうだ!! ――イクススロイフ!」


ゼクロはアンモライトの周辺にある玉に向けて攻撃を始めた。玉である吸血スライムは、彼の攻撃により次々と消失していく。


「なっ!? 卑怯だぞ!!」


「ふん、僕もルールに則っているだけだ。誰も、玉を破壊してはいけない等と言われてはいないからな」


「ふ、そっちがその気なら……」


アンモライトも同様にして、玉を攻撃し始めた。こうして、二人の籠には全然玉は入っていかず……。


「終了ー! はい、そこまでー」


結果は当然、地道に玉を入れていたジョニーの圧勝。またしてもあっさり勝負がついてしまった……。


「確か、三本勝負だったよなぁ? 三本中、二本が俺様の勝利ってことは、当然三本目はやる必要なく終わりってことでいいんだよな?」


「さぁ! いよいよ最後の勝負になったけども――」


「おい、聞け! 三本目はやる必要ねぇんだよ!!」


俺は人差し指を左右に振って、とぼけたように事を進めて行くのだった。


「チッチッチッ。ここで、この手の勝負事ではお馴染み、一発逆転のチャーンス!! なんと、三本目の勝負で勝った人には100万ポイントが与えられるよ! これが本当の最後の戦いです! みんな、頑張ってね☆」


「てめぇ。ノリノリで言いやがって、本当はちょっと楽しくなってきてんだろ」


「……忘れろビーム☆」


「――ちょっといいかな、ミユ」


アンモライトが話に割り込むように手を挙げた。その表情には、何か企みがある悪い顔をしていた。


「正直、奴との決着は惜しい。だが、ジョニーがペアチケット取得の資格を辞退すると言っている限り、これ以上の勝負は必要ないんだよ。後は話し合いで決めればいいしね。――そうだろ、ゼクロ?」


「いや、僕はそんな気は――」


アンモライトはすかさず彼に目配せした。彼は恐らく意図を理解していなかっただろうが、ゼクロとアンモライトの双方に利点がある企みであることを本能的に感じ取り、その企みに乗る方向へ意思を変えたのだった。


「確かに、彼の言うことには一理ありますね。これ以上、ミユ様のお手を煩わせる訳にはいきません。これは僕たちで解決すべきことです」


「――と、いうことで。話合いの流れに持っていきたいところだが……ここで一つ提案がある。勝者にある特典を加えてくれないだろうか? その特典とは……≪ミユとの混浴≫だ。勝者にそんな豪華な特典が付くのであれば、このまま勝負を続ける理由ができる。いかがかな?」


「は? はぁー!?」


「んな!? ここ、こ、こ、こ、混浴!?」


こいつ、状況を利用してとんでもない交渉を持ちかけてきやがった! ゼクロまで企みに乗りやがって……こいつら、こういう時に限って協力的だな。このむっつりスケベが。


どうする、混浴なんてしたら♂だとバレる可能性が格段に上がってしまう! 喧嘩の抑制剤を手放すのは惜しいが、リスクを考えるとここで切り上げるのが無難ではあるが……。


……いや、ここはやり切ろう。ピンチはチャンス。かなりのリスクはあるが、このくらいの苦難も乗り越えないようではネカマの王の名が廃る! なんて、乗せられる俺もどうかしているな……。


「ふふふ……ミユがその程度で怖気づくと思った? いいよ。その提案、採用してあげる! 次の勝負で勝った人には、ペアチケット取得の資格と共にミユとの混浴を許可するね! さ、これで十分やる気出たでしょ? 真っ白に燃え尽きるまで、力の限り戦いなさい!!」


まぁ、これまでのパターンからしてジョニーが勝つだろうけどな。そうなったら、あいつは風呂に入らないだろうからリスクは無いし、ゼクロとアンモライトも気が済むまで喧嘩できるし、一石二鳥だ。


「最後の勝負は――≪綱引き≫だよ! ルールは、一定時間内で綱を三方向に引きあって、最後に真ん中の印をより引き寄せていた人が勝ち。その他細かいルールはさっきと同じ。じゃ、始めよっか!」


綱はすぐ用意した。どうやって用意したかは……これまた企業秘密だ。


「みんな、準備はいい?」


「――ふっ、そろそろ本気を出すとしようか」


「くっ、決してミユ様と混浴なんて不躾なことをしたいわけではない。……しかし、無防備な姿で狼と一緒にしてしまえば何が起こるか分かったものではない! ここは、やむを得ないが僕が勝って、ミユ様と混浴するしか……。ハッ、決してやましい思いはない!」


「どうでもいいが、早く始めようぜ。もうくたびれちまうぜ」


こいつらはホント、マイペースな奴ばっかりで……! どうしようもないため、話も聞かない下僕たちをそれぞれの持ち場まで力任せに追いやった。


「んじゃあ始めるよ。よーい……スタート!!」


始まってすぐ、勢いよく引き寄せたのはやはりゼクロだった。さて、他の下僕はどう動くのか?


「――ほい」


アンモライトは突如掴んでいた縄を手放した。


「って、うわぁ!!」


急に強い力が加わったため、ジョニーはそのまま身体が浮かぶほど引き寄せられていった。


「奴め、何を考えて――なっ!?」


ゼクロの後ろには罠が仕掛けられていたのだ。よく見ると、先ほど用意した玉入れの籠から地面に向かって糸が伸びている。彼の全身には糸が纏わり付いた。


「その糸には高級品の『パラサクタスの毒』が塗られている。財布が痛いからあまり使いたくは無かったが、ミユとの営みの為に惜しみなく使わせて貰うよ。……ちなみに、効果は全身に渡る麻痺だ」


「ぐ……あぁ!!」


次第に麻痺状態による痺れからか引く力が弱まっていく。


「ちょっと! 大丈夫なの!?」


「ふ、心配ないさ。命にかかわることもなければ、後遺症が残ることもない。ルールは最後に最も印を引き寄せた者の勝ちだったな。毒が十分回った後で、ゆっくり引かせてもらうことにするよ」


いや、動けなくする行為は反則なのだけど……。


「くっ、営みだとぉ? 貴様、やはりそういう魂胆か! ……負けられない。負けて……たまるか!!」


毒は時間と共に回っていくはずにも拘らず、何故かゼクロの力は徐々に戻っていく。さしずめ、愛の力とでも言ったところだろうか。


「なんだと!? パラサクタスの毒は生半可な効力ではないはず……! 一体どうして……」


「うおおおおぉぉ!!」


「って、うわああ!!」


ゼクロが引き寄せた綱は、いよいよ宙を舞って飛んでいった。綱を律儀に掴んだままのジョニーは、一本釣りされたように共に宙を舞ったのだった。


「――そこまで! 時間切れだよ。勝ったのは……ゼクロくん!!」


「か、勝ったのか……? これでもう、悔いはない……」


こうして、ゼクロとの温泉旅行が確定したのだった。

……なお、飛ばされたジョニーと毒が回ったゼクロは動けなくなり、いつも通り引きずって家まで帰るのであった。



◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆



温泉旅行当日。俺とゼクロはデアイ王国の田舎地区にあるミズモル村へ馬車で向かっていた。ちなみに、ゼクロはと緊張で一睡も出来なかったらしいため、糸が切れた様に車内で爆睡していた。遠足前の子供じゃねーか。


「こうして二人で馬車に揺られていると、ゼクロくんと初めてクエストに行った時のことを思い出すなぁ。あれからもう3ヵ月くらい経ったかな」


あの頃に比べれば、俺は夢の姫プレイ生活の野望が薄れてきたような気がする。俺のネカマスタイルとこの世界がミスマッチな事実と、手の焼く下僕たちのせいで意気消沈としてるってのも理由にあるけど……。最も大きな要因は現状に満足してしまっていることだろうか。何だかんだで楽しく生きているからな。


などと感傷に浸っていると、本日の泊まる古びた旅館が見えてきた。


「ほら、ゼクロくん起きて。もうすぐ着くよ!」


「……ハッ! 申し訳ございません。本来ならば身の安全を見守らなければならない立場ですのに……」


「国の領域を走ってるから大丈夫だよ。それに、日々の疲れを癒しに来たんだから、気なんて張らなくてもいいんだよ」


「そ、そうですね。では、お言葉に甘えることにしましょう」


馬車を降りて、眩しい日を浴びる。周りには他の観光客もおり、がやがやと話しながら旅館に移動していく。俺たちもその後に続いていった。

ペアチケットということもあってカップルが想定されており、部屋は一室しか取れなかった。これだけでも最悪なのに、部屋に入ってから衝撃の事実を知るのだった。


「――ちょっと! なんでベッドが一台しかないのよ! ゼクロくん……これはどういうことかなぁ?」


「そんな!? 部屋の取り決めの際、間違いなくダブルベッドの部屋を希望すると伝えたはずなのに……!」


「ばか! ダブルベットってのは二人が寝られる大きさのベッドのことなの!! ベッドが二台置かれた部屋はツインベッドって言うの!!」


「くっ、何たる失態……。ここは僕が床で寝るので、お気になさらずに!」


「はぁ、いいよ。そんなことしたら疲れが取れないでしょ」


呆れ顔でテーブルに置いてあった饅頭を頬張った。外装、内装は共に和風染みた造りになっていた。襖で仕切られていたり、行灯のような照明が置かれていたりと、懐かしさを感じられる雰囲気だ。


「じゃ、早速ひと風呂浴びますか。……混浴してもいいけど、当然乙女には準備ってものがあるんだからね。来るならしばらくしてから来なさいよね」


「ミ、ミ、ミミ、ミユ様と――」


「はいはい。先行くね」


キャパオーバーして壊れたラジオみたいな挙動を取る彼を無視して、今回の最難関である混浴の対策を始めることにした。この旅館は温泉が一団体につき一つ貸切られるという、中々贅沢な待遇である。とりあえずは他の客の目を気にしないのはいいが、最も重要なのはゼクロの目だ。胸は吸血スライムで何とかなっているが、股間はどうしようもないため、見られたらその時点で即終了。そんな事態を避けるべく、漏れの無いように徹底しなければ!


タオルは胸まで巻き、絶対に外れないように気を付ける。のぼせると思考回路が鈍くなるため、ゼクロが来るまでは入浴をしない。普段からムダ毛には気を付けてはいるが、もう一度鏡でチェックをし、念には念を入れて周りは水蒸気で満たしておく。よし、この対策をバッチリこなせば完璧だ。

いよいよ俺は覚悟を決めて温泉へ向かうのだった。


……その十分ほど後に、不敬を働く申し訳なさと、ラッキースケベを期待した下心と、異性と手も繋いだことのない純情による恥ずかしさで、とんでもなく複雑な表情をしたゼクロが脱衣室に入っていく姿が他の客から確認されたのだった。



◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆♂♀◆



ガララッ


脱衣室のドアが開かれる音がした。俺は急いで持ち場に付く。持ち場とは温泉の中だ。水の中に入ってしまえば身体はよく見えないだろう。


入ってきたゼクロは、意外にも堂々としていた。彼の性格からして、もっと狼狽えて動転すると思っていたのだが……。ふと、彼の腰の辺りまで視線を落とした。すると、それはもう隠す気一切無しに堂々と息子が主張していたのだった。いや、全体的に堂々としすぎだろ!


もっと視線を落とすと、足が産まれたての小鹿のようにプルプルと震えていた。あぁ、やっぱりダメそうだ。


一通り確認できたところで、顔に目を向けると、偶然にも視線が合った。彼はここで初めて俺の方を把握したようで、一気に顔がゆでだこのように赤くなり、身体を震わせた。


「あぁ、あああああぁぁぁ……」


彼は情けない声と共にその場に崩れ込み、そのまま失禁した。……あぁ、もうめちゃくちゃだよ……。


「ちょっと! 大丈夫なの!?」


「……平気です。では、失礼致します」


急にスッと体勢を直し、湯の近くまで近づいてきた。感情の起伏が激しいのか、切り替えが早すぎてとてもシュールだ。というか、股間がフルの状態な成人男性が近づいてくるのって、結構怖いんですけど!!


恐怖を感じた俺は、スススとゼクロから離れて、温泉の端の方まで身を寄せる。しかし、彼はじりじりとにじり寄ることを止めない。その時だった。


バルンッ! バルンバルンバルンッ!!


なんと、胸に付けていた吸血スライムが暴れ出したのだ!! いつもは身体の一部のように大人しくしているのになんで!?

……まさか、お湯に浸かったせいで、熱に耐え切れず暴れているのか?


「ミ、ミユ様!! お、おっぱい! おっぱいが……!?」


「いやー!! こっち見んな!!」


とにかくこの状態を見られてはならないと、近くにあるものをひたすらゼクロに投げてぶつけた。彼は既に鼻血を大量に流しており、大量出血で死ぬんじゃないかと心配するほどだった。


「……ぐぅ……」


終いにはその場に倒れてしまう。すぐに駆けよって意識の有無を確認した。


「しっかりして! ゼクロくん!!」


「ミユ様……僕は一体……?」


ふぅ、何とか生きてはいるようだ。


「風呂で興奮して死ぬ元騎士なんて事態になったら、未来永劫笑いものにされて語り継がれるわよ……」


「ご心配をおかけしました……」


「もういいから。身体洗ってあげるから、温泉入っちゃいなさい。ミユは終わったらもう上がるから」


「そんな! ミユ様のお手を煩わせるようなことを……」


「いいからいいから。黙ってそこに座りなさい」


そう。ゼクロに勝手な行動をされて大変な事態になってしまっては困るのだ。それならばいっそ、一つの場所に留めてしまった方が安心だ!


ゼクロは渋々と椅子へと座る。なるべくこちらを見せないように、背後に回って布に泡を立てた。彼は緊張しているのか、座ってからはずっと無言のままじっとしていた。


「……洗うね」


ピトッ、と背中に泡が触れる。ゼクロはビクビクと身体を震わせた。

……なんだこれは。ちょっといやらしく思ってしまった自分に嫌悪を抱く。実際、可愛げはあるのだろう。今の心境をマイルドに表現するのであれば、まるで余裕がある大人のお姉さんみたいな気分だ。


「ふふ、かーわいっ」


「ミ、ミユ様……?」


指でツーっと背中をなぞる。すると、さっきよりもビクンッと大きく身体を弾ませた。顔は徐々に色艶が良くなっていき、息もだいぶ荒くなていた。これは凄く楽しいぞ!


次はだいぶ攻めて、大胆にも胸(吸血スライム)を押し付けてみた。かなりリスキーなことをしているは百も承知だったが、湯煙の乱れだろうか歯止めがきかなかった。


「これ、なーんだ?」


「え、えぇ!? ミ、ミ、ミ、ミユ様……!? まさか……」


「ふふ、そうだよ」


極めつきに耳元にふーっと息を吹きかけた。その時――


「へぁ!?」


耐えきれなくなったのか、予想を遥かに超えて弾ませて、ゼクロの身体は宙へ浮きあがった。


「――きゃっ!!」


俺は咄嗟のことで思わずゼクロの椅子に躓いてしまい、そのまま椅子は大きく横にずれていった。


「――いっ!! ……つぅ……」


椅子がずれたことにより、ゼクロはそのまま後ろに思いっ切り転げ落ち、仰向けの状態に倒れてしまう。そして、俺は跨る様にして彼の顔の上に立ってしまう。その目線の先には、最悪のことに……俺の股間が映っていた。


「ミ!? ……ユ様? こ、これは……まさか……チ――」


「――忘れろキィーーーッッッック!!」


「――ぁ――っ!!」


思わず渾身の力でゼクロの股間を蹴り上げた。彼は声にならない声を上げ、泡を吹いて意識を失った。……や、やってしまったー! はは、終わりだ……。夢の姫プレイ生活はここで幕を閉じたのだ……。



後日。忘れろキックが効いたのか、ゼクロはその日の記憶を完全に無くしていた。

しかし、一安心もいいところ。ゼクロの息子は折れてしまい、全治までしばらく時間が掛かったのだった。ゼクロは記憶を失い、息子が折れたという事実しか残らなかったため、帰宅後の近所では俺が息子を折るほどの物凄いハードプレイをしてくる淫乱な♀と噂が広まっていった。


……もう、二度と混浴なんてしてやるものか!!

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