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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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私は私のために

今まで感じた事の無い威圧感。魔力を感知できなくとも伝わってくる恐ろしく強大な力。そ

の見てくれの美しさと肌を突き刺すような魔力という相反する空気に誰しもが呆気に取られて

いた。

「狐火」

 そう響いた声にはっと我に返る。放たれた幾つもの青い火の玉はゆらゆらと、大した速度で

はなく向かってきていたが、惚けていた勇者たちはそれでも対処が遅れて回避が間に合わず、

咄嗟に障壁等で防ごうと試みる。

 しかし、その火は防いでも止まらず、むしろ広がって身体へと燃え移ってきた。

「うわあああ!?」

 慌てて消そうと叩く。

「いっ・・・あ、ああ・・・熱くない、ねえ・・・これは・・・!」

 その火が熱く無いと分かった瞬間、シュリの脳裏に不安が過ぎった。

 熱くない、攻撃性のない火。それはつまり、他に何か効果があることに間違いが無かった。

あの魔王の、しかも顕現までしている状態で放ってきたモノだ、何も無いわけなどない。

「くっ!不味い、消えないねえ・・・!」

 やはり幾ら掃おうとも燃え移ってきた火は消える素振りすら見せない。

「何か起こる前に倒すしか無いだろう!なあ、グリムゥゥゥ!!」

 ヒサメが、それに続いてシツライが突っ込んで行く。

 すると突然、二人の身体が激しく燃え上がった。

「ぐあああああ!!」

「あああああっ!!」

 二人は力無くその場に倒れてしまう。

「お姉ちゃん!!シツライちゃん!!」

 二人の身体には焼け焦げたような痕が至る所に見られる。幸い、二人は意識があるようだ。

「エ・・・エンジュ・・・!ぐあっ!」

 再びヒサメの、今度は身体の一部が燃え上がる。

「お、お姉ちゃん!?ど、どうしたらいいの!?」

 ヒサメの手が慌てふためくエンジュの手を掴む。

「聞け!エンジュ・・・力を、使うな・・・!はあ、はあ、この炎は・・・ぐ・・・力に、反応する!!」

「そういうこと、だったんだねえ・・・・・・」

「こうなってしまっては最早、成す術など・・・・・・」

 自身が持つ力を行使しようとすれば纏わり付く炎に身体を焼き尽くされるともなってしまえ

ば、もう碌に戦う事などできない。

 力を使わないで顕現までしている魔王を倒すことなど不可能。残された時間も後僅かとなっ

てしまっている今、希望など・・・・・・誰しもが気力を失いかけている中、

「ヒサメさん!シツライさん!」

 ミーニが二人に歩み寄る。その表情を見たヒサメはニヤリと笑みを浮かべる。

「ふ・・・それでいい!・・・託すぞ・・・シツライ!」

「・・・うん!」

 シツライの手がミーニの頬を撫でる。

「私のうさちゃん・・・ミーニ・・・お願いね・・・・・・」

「・・・はい!!」

 シツライが目を閉じると、身体が燃え上がる。

「成程ね・・・させると思って?狐火・煉獄!」

 超巨大な燃え盛る火の玉が一瞬で生成され、放たれる。あんなものを防ぐ手立てなど・・・

「ヒサメちゃん!?」

 ヒサメが立ち塞がる。肩で息をし、立っているのもやっとの状態。なのにその表情は希望に

満ち溢れていた。

「お前等あああああ!!・・・・・・また・・・・・・会おうぜ!!」

「!!」

 セイムと目が合うと、ヒサメは満面の笑みを浮かべた。その直後、身体が激しく燃え上がる。

「全てよ凍り付け!グレイシャル・エポーク!!」

 迫り来る炎の球がそのまま凍り付き、垂直に地面に落下し砕け散る。

「!」

 グリムは鼻先に強烈な冷気を感じ、瞬時に後方へ飛び退く。

 次の瞬間、皆の身体を「黒い雷」が奔った。

「炎が消えた!?」

「ヒサメさん・・・シツライさん・・・・・・必ず・・・必ず!!」

 動かなくなったシツライの手を優しく下ろすと、ミーニは立ち上がり、右手で懐中時計を、

左手で自分の胸を押さえ、目を閉じる。

 ミーニの頭の中に声が響く。


《我が力、欲するか》

(・・・かしてください!)

《ならば我を信じ、我を崇めよ。さすれば我が力、汝に授けよう》

(・・・・・・)

《我が名はクロノス。時を司りし神なり。汝、我を信じ、崇めよ!》

 時の神クロノス。そう名乗る声は病院で目覚めた時、いや、目覚める前から聞こえていた。

自分を信じ、崇めれば力を貸してやると、ずっとその声が聞こえていた。どうしてこんな声が

聞こえるようになったのかは、ヒイカさんから事情を聞かされていたから知っていたし、それ

については感謝すらしている。

 今まで私はこの声に対し、肯定の意思を示した事は無い。それは、応えてはいけないと言う

ある種の本能的なものや、単純に恐怖心を感じていたためだ。

 だが今、必要になった。その力が無ければ未来は無いかも知れないのだ。

 今、初めて声に応える。

(力は・・・ほしいです・・・)

《ならば信じ、崇めよ!》

(でも!あなたを信じたり、あがめたりすることはしたくありません!)

《何?》

(私は、だれかにすがりたいわけじゃないんです)

《だがそれでは我が力を授ける事など罷りならぬ》

(・・・それでは、あなたも困るのではないですか?)

《何だと?》

(あなたは今、だれかの中にいないと存在できないんですよね?だったら、私がこの世界ごと

消えてなくなったら、あなたも同じ事になるんじゃないですか?)

《貴様・・・神である我と交渉しようと言うか。十に満たない年月程度しか生きておらぬ仔兎ふぜ

いが!》

(年で人をはんだんするなんて、「かみ」とかいう生き物も大したことないんですね)

《貴様ァ!!言わせておけば!!》

(そうやって感情をむき出しにするところだって、私たちとこれっぽっちも変わりもないじゃ

ないですか!「かみ」がそんなにえらいんですか?「かみ」だって私たちと同じ一種の生き物

でしょう!あがめたりとかそんなんじゃなくて・・・もっとすなおに手を取り合うことはできない

んですか!?)

《!・・・・・・いいだろう。我が力を手にした貴様が未来、どうなって行くかじっくりと見させて

貰うとしよう・・・・・・》


「ミーニちゃん!ミーニちゃん!」

 ミーニはっと目を開ける。

「だいじょうぶ?まだやっぱりきずがいたむんじゃあ・・・」

 胸に手を当てて目を閉じ続けていたため、無駄に心配させてしまったようだ。

「だいじょうぶだよ、お姉ちゃん。・・・・・・私は、へいきだから!!」

 ミーニは懐中時計を前方に掲げる。

《最後に一つ、訊かせて貰おう。汝、何がために力を振るう》

「そんなの決まってる・・・他のだれでもない、私のためだけに力をふるう!」

《何だと!?》

「何が人のためになるかなんて分かんないよ・・・。人のためだって思っても、その人はそれをの

ぞんでないかもしれない・・・・・・だから!私は私の思う正しいことのためにこの力を使うの!!

『クロノス・フォーゼ!!』」

 ミーニの身体が強い光を発し始める。

「こ、これって『けんげん』!?」

「多分違うねえ、魔力が高まって行ってないしねえ・・・」

 そして、光が一斉に霧散する。

 首元に襟巻きのように巻きついた、長短二本の矢印。瞳は複眼のような、木の枝のように枝

分かれした線が奔っていた。

 その姿は一言で言えば、異様。ハワーは不安に身を震わせていた。

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