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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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切り取る力

 巨大な剣が大地を覆う鎖の海に轟音を上げながら深々とめり込む。

「うくっ・・・んん・・・へへっ、間に合ったか・・・」

 ヒサメが安堵の声を漏らす。

 鎖の海の上に立っている人の姿があった。小さな身体により一層目立つ大きく長い耳。首か

ら下げた、手の大きさほどもあるだろう懐中時計。その姿は間違いなく、ミーニだった。

「み・・・ミミミミミーニちゃん!?なんでいるの!?からだは!?からだはへいきなの!?」

「うん・・・だいじょうぶだよ、お姉ちゃん。・・・私も、みんなのやくに立ちたいからきたの」

「だからって、ここはさすがに危険すぎるぞ!」

 ミーニの身体はとても完治などしていないだろう。それなのに、選りに選って魔王との戦い

の場にやってくるなんて・・・。

「・・・・・・今は、ヒサメさんを助けないと!」

「ミーニちゃん!」

 制止の声も聞かず、ミーニは単身、鎖に捕らえられているヒサメの元へ向かって行く。

「あなた一人でどうするつもり?」

 ヒサメは高い位置に捕まっている。非力な兎であるミーニに鎖を破壊する力があるとは思え

ないし、時の力を以ってしても救助するに及ばないはず。

 それでもミーニは鎖の海を足を取られる事無く走り、ヒサメの元まで跳ねるように駆け上が

って行き、辿り着いた。

「ミーニ!」

「ヒサメさん!今助けます!」

 ミーニはヒサメの身体に手を当てる。

「いっせーのっ!タイム・カット!!」

 ヒサメの身体を力一杯押すのと同時に時の力を行使する。すると、ヒサメの身体は捕らえて

いた鎖をすり抜ける様に脱出した。

「おお!」

 ヒサメはすぐさま氷の翼を生成する。

「へえ・・・あの力、あんな使い方もできるのね・・・・・・それを理解し、使いこなすとはやはりあの

仔、ふさわしいわね」

 グリムはミーニをじっと見つめながら怪しい笑みを浮かべる。

「助かったぞ、ミーニ!」

「えへへ」

「流石私のうさちゃん・・・!」

「あうう!」

 吹き飛ばされていたはずのシツライが何時の間にか戻ってきていて抱き付かれた。

「あんな事できるんだねえ」

「うん」

 ミーニの持つ『時間を切り取る力』とは、ある一点と一点の間にある時間を無くす力である。

単純な早送り、ハワーの持つ『加速』と異なる点は「間の時間が無くなる」という点にある。

それはそこまでの工程をすっ飛ばすとか、一瞬で辿り着くと言うだけではない。動き続ける物

体にこの力を使うことによって、何と、始点から終点まで等速直線運動を、その間にある障害

物を無視して行わせることができてしまうのである。

 これをミーニはヒサメの身体を押すと同時に使用する事によってヒサメに鎖をすり抜けさせ

たのである。


 ミーニが証明してくれたように、鎖の海の上でも足を取られないように気をつけてさえいれ

ば動く事が出来ると分かり、身体能力に長けた者は鎖の上に降り立って立ち回る。しかし、攻

撃を当ててしまえば自分たち全員に影響を及ぼしてしまう鎖を盾代わりに使用してくるため、

思うように攻撃は疎か、近付く事すら儘ならないでいた。

「グリムお姉ちゃんのとこまで辿り着けないよ!鎖を何とかしたいのにぃ!」

「・・・あと一刻。さあどうしたの?早く攻めて来ないと落ちてきちゃうわよ?」

「あと一刻だと!?」

 そう言われて空を見上げると、浮かぶ魔力の塊はその果てが見えないほど肥大化してしまっ

ていた。あれほどのモノが落下し、大爆発を起こしてしまえば無事でいられる者などいない。

「くそぉっ!」

 ヒサメは乱雑に氷の翼をはためかせ、グリムへ冷気を放つ。

「成程、固体の氷でなく、気体の冷気なら鎖も関係ないって言いたいのね。だけど、この程度

の冷気ではねえ?」

 グリムは文字通り涼しい顔をしている。

「この状況では流石の大妖怪様も形無し・・・」

「へっ!」

 一瞬、ヒサメの顔がニヤ付く。

『ショック・フリーズ!!』

 その瞬間、グリムは時が止まったかのように動かなくなってしまった。よく見るとグリムの

身体の表面の氷が張っているようで、きらきらと光を反射している。

 すると、広がっていた鎖の海が次第に消えて行くではないか!

「た・・・倒した・・・の・・・?」

「我が冷気を吸い込んだ奴をその内側から凍らせてやった訳だが・・・さてどうか・・・」

 グリムは未だピクリとも動かない。と、

「まだだよ!」

 ミーニが声を上げながら空を指差す。

「まだ、あの魔法は消えてないよ!」

「やはり、そう簡単にグリム様を倒すことなどできな・・・!?」

 その時だった。凍りついたグリムの身体を囲うように魔力輪が「一つ」現れた。

「あれは!顕現する気です!!」

「ですが、たった一個だけ・・・?」

「いえ、あれは十です!!」

「ええー!!じ、じゅう!?」

 グリムの身体が強い光に包まれ、急激に巨大化していく。それと同時に強烈な魔力が辺りの

空気を締め付ける。

「ううう・・・いきが・・・しづらいよお・・・・・・」

「分かるぜ、ハワー・・・魔力の無いあたしでも、やべえ空気はひしひしと感じてる・・・!」

 やがて、光の球に亀裂が入る。光の殻が剥がれ落ち始め、そしてその姿がいよいよ顕になる。


 眩しいほどに輝く銀の毛並みに細く引き締まった体躯。そして、強大な力を秘めている事を

象徴する美しく整った九本の尻尾。

「・・・美しいです・・・グリム様・・・」

 そう思わず呟いてしまうほどだった。

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