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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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鎖の力

 眼下には未だおびただしい量の鎖が広がり、蠢いている。バンリたちは北の大妖怪ヒサメの

生成した氷の台座の上に一先ず降り立つ。

「ふう・・・た、たすかったあ・・・」

 ほっとするや否や、ヒサメは気を失ったままのセイムの元へ歩み寄り、間髪入れずその頬を

ぶっ叩いた!

 ピチン!という高い音と共に、セイムは跳ね起きた。

「いっっったあああい!!」

「よお、もうお眠の時間か?」

「え!?ヒサメちゃん!?・・・え、あ・・・そ、そうだよ!ち、ちょっと寝不足で眠かっただけだ

もん!」

 セイムはぷいっと顔を背ける。

「ふっ、それならいい」

 そう微笑むとヒサメは踵を返し、眼下に広がる鎖の海を見据える。

「この鎖、出たら出っ放しか?邪魔くせえなあ・・・」

「私が・・・壊す」

 シツライが前に歩み出る。

「待って!壊すには黒雷の力が必要になるんじゃ・・・いきなり使っちゃうのは不味いんじゃない

かな・・・」

 黒雷はシツライ自身の身体を傷つけてしまう力。それを易々と使ってしまうのは今後の戦い

に影響してしまう。

 そんなエンジュの心配を余所に、シツライは微笑を浮かべる。

「大丈夫」

「エンジュ、シツライなら大丈夫だ。お前は家事ばっかりしていたから知らないだろうが、シ

ツライはその間も特訓していたんだぜ?なあ」

「うん」

 そう言われようともやはり不安は拭えないままのエンジュを横目に、シツライは身体を反ら

せながら息を大きく吸い込み始める。その様子はまるで、竜がブレスを吐く時の動作のよう。

 シツライは目一杯まで吸い込むと一旦息を止め、一気に吐き出した。

「黒雷弾!」

 シツライの口から放たれた巨大なそれは、真っ黒な球体の形をしていた。これこそがシツラ

イが比較的安全に、自分の身体に影響のある黒雷を扱う方法だった。

 「黒雷」は全ての物に対して特効を持つ雷であり、自分の身体さえも傷つけてしまう。それ

は、今までシツライが黒雷を身に纏う形で使用していたのが原因だった。だから要は、黒雷を

生成したら直ぐに自身から切り離してしまえばいいのだ。それがこの、一気に吐き出す事ので

きる「ブレス」という方法だった。

 巨大な漆黒の塊が鎖の海に着弾すると同時に、鎖全体に黒雷が奔る。すると鎖は急激な速度

で朽ちていくかのように爛れ、あっという間に粉々になってしまった。

 その中から二人、シュリとカリナの姿が確認できた。二人共無事なようだ。

「北の大妖怪!?どうしてここに!?」

「まさか、助けに来てくれたという事かねえ?」

「世界の命運が懸かっているというのに、お前たちでは何とも頼りないからな」

「う・・・だよねえ・・・」

 返す言葉も無い。

「でも、本当にどうやってこの世界に来られたのかねえ?」

「それはだな・・・」

「ライムでしょう?こういう事をしそうなのは他に居ないもの」

 グリムが答える。

「ああそうだ。あの者からお前の事を倒してやってくれと頼まれている。・・・今我等はを以って、

勇者軍に助太刀する!」


 北の三姉妹が加わった事により、攻撃にも防御にもかなりの安定感が生まれていた。後衛の

防御をエンジュの形と強度のある炎が固め、前線ではヒサメの氷が鎖による攻撃を完璧に防い

で反撃の道筋を作り、特効を持つシツライの雷を攻撃の主軸にセイムとカリナで隙を作り出す。

即席の連携だとは思えないほどの動きで魔王グリムを追い詰めて行く。

「シツライ!」

「うん!」

「吹き荒れろ!サンダラス・ブリザード!」

 シツライの鎖に対して特効を持った雷を纏った無数の氷のつぶてが一斉にグリムに降り注ぐ。

鎖では防げない攻撃に対し、グリムは手を前方にかざす。

「鎖で無ければいいだけ」

 魔力による障壁を作り出し、その全てを軽々防いだ。

「そう簡単にはいかんだろうな」

 すると、魔王グリムは纏っていた鎖の鎧を解除してしまった。

「あれは・・・戦い方を変えてくる・・・!皆さん、気をつけて下さい!」

 グリムの口元が忙しなく動く。それが詠唱だと気付いた時には既に手遅れだった。

『母なる鎖』

 グリムがそう言葉を発した瞬間、足元の地面が突然鎖に変わってしまった。

「うわあ!?」

 鎖と鎖の隙間に脚が沈み、身動きが取れなくなってしまう。

「いきなりこんなのとはねえ・・・!」

 抜け出そうともがくも、支える地面もまた鎖であるため、逆にどんどんと身体が鎖の中に飲

み込まれていってしまう。

「こんなもの・・・!」

 シツライが邪魔な鎖を破壊しようと放電する。

「ぐあああああ!!」

「ぎゃあああああ!!」

「あ」

 シツライは慌てて止める。

「か・・・雷は流石に駄目だろ・・・」

「ご・・・ごめん」

「じゃ、じゃあ私が空から引き上げるね!」

 エンジュが背中に炎の翼を生成し、鎖の海から抜け出し、空高くへ舞い上がる。そして、紐

状の炎を皆の身体に巻き付けていく。

「わあああ!あついあついあついー!・・・・・・い?あれ、あつくない?あつくない!すごい!」

 その炎は触れてもほんのり温かく感じる程度の、優しさを感じる炎だった。

「でもどうするの?この状態じゃまともに戦えないよ!」

「だったら、術者を直接叩くまでだ!行くぞシツライ!」

 自ら翼を作り空を飛ぶことが出来るヒサメとシツライが、一人鎖の海の上に平然と立ってい

るグリムへ向って行く。

「壊鎖の雷!」

 シツライがグリムへ雷を放つ。

「連鎖の鎖盾」

 足元の鎖が伸び、それを防ぐ。

「あああああ!!」

「!?」

 どう言う訳か、グリム以外の全員を雷が襲っていた。

「ど、どうして・・・!?」

「天鎖剛槍!」

「・・・!」

 驚き、隙だらけになっていたシツライの胴体に極太の錨が鋭く直撃した。

「し、シツライ!うくっ!しまった!」

 雷の影響でまともに動けないでいたヒサメが地面から伸びてきた鎖に捉えられてしまう。

「貴女はいい礎になりそうね。北の大妖怪」

 グリムが新たに天高く伸ばした鎖が成形されていく。出来上がったのは表面に幾つもの刃を

持つ巨大な剣。巧みに編みこまれたその刃が高速で回転し始める。

「くそったれが!」

 ヒサメは盾となる氷を生成し、何とか防ごうと試みる。

「天鎖剛剣・鋸!」

 容赦なく振り下ろされたそれは、氷など意に介さず斬り砕き、身動きの取れないヒサメの頭

上へと寸分の狂い無く飛来する。

「ヒサメちゃん!!」

「お姉ちゃーーーん!!」

 この場にはもう、救済の手を差し伸べられる者は居なかった。

「タイム・カット!!」

 その声が聞こえるまでは。

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