⊿
「わたしがうしろからえんごしましゅ!」
「うむ、肉弾戦はわしらに任せるがよい」
「行くぞ、メル!」
二人が鎖の狐へ向かって駆け出していくのを確認し、スターシャは大きく深呼吸する。
「もう、ほんきでけっちゃくをつけにいくでしゅ!このみ、かわりたかまりて、しんかとなす
でしゅ!エヴォリューション・フォーしゅ・デルタ!」
スターシャの瞳に「⊿」の紋様が浮かぶ。
「天鎖あ剛剣んん!!」
鎖の狐が巨大な剣を形成し、薙ぎ払う。
「むん!」
それをメルリアが顕現させた腕一本で軽々受け止める。その隙に懐に潜り込んだメアトリス
が大きく息を吸う。
「パウンド・メガブレス!」
勢いよく吐き出されたブレスが鎖の狐に直撃する。
「耐性のある今の私目にそのような攻撃など通用し・・・むお!?」
耐えられると踏んだ鎖の狐だったが、予想以上の威力に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ
た。それだけではない。
「これは・・・耐性を持つ鎖が・・・!」
耐性により、大きく軽減されているはずだと言うのに、ブレスを受けた部分の鎖が一部破壊
されていた。
「舐めてんじゃねえぞ」
「くっ・・・だが、鎖は破壊されてもより強固となり再生する!」
鎖の狐の身体は直ぐに元通りになってしまった。
「何だ、そんな能力があったのかよ」
「これは厄介じゃのう」
そう言う二人の顔に焦りの色はまるで見えない。
「故に、私目は倒せませぬぞおおおおお!!」
無数の錨が二人に向かって襲い掛かってくる。
「スターダしゅト・シールド・デルタ!」
その全てを降って来た大きな星が完全に受け止めた。
「んんんんん!!竜掌!!」
メルリアの顕現した手が鎖の狐の顎を捉え、その巨体を軽々と打ち上げた。
「さて、メル。奴を黙らせる方法だが、何か考えはあるか?」
(それについて、わたしにいいかんがえがあるでしゅ!)
「む?なんじゃ?」
「この巨体をこれ程容易く吹き飛ばすとは・・・やはり竜の者の力は侮れぬな・・・」
吹き飛ばされはしたが、鎖は破損していないようだ。
「強度が勝ったか、或いは加減されたか・・・どうであれ、私目が敗北する事など無い!」
鎖の狐が立ち上がる。
「行くぞ!メル!」
二人は同時に駆け出し、同時に大きく息を吸い込む。
「メガブレス!」
「メガブレス!」
二本のブレスが一直線に鎖の狐の顔面目掛けて伸びる。と、
「ん!」
鎖の狐に到達する直前、目の前でブレス同士が接触し、爆発した。
「何だ・・・連携が上手く行かなかったか・・・いや、これは・・・目眩ましの可能性も・・・」
爆発によって発生した霧で視界が奪われているのは確かだった。鎖の狐のその予測は正しか
った。
鎖の狐の視界は奪われていたが、霧はその巨体の全てを覆っているわけではなかったのだ。
霧が掛かっていたのは目のある顔の部分だけだった。無防備なその巨大な背中に、メアトリス
が静かに跳び乗る。触覚を持たない鎖の狐は全く気が付いていなかった。
「ふっふっふ・・・お主、でかいだけで大したこと無いようじゃのう!再生するだけが取り得だと
言う事かの?」
「・・・今、何と言いましたかな?」
鎖の狐は声に反応し、メルリアの方を向き、鎖で出来た牙を剥き出しにして威嚇する。
「わしの鱗とお主の鎖・・・どちらが強いかのう?」
メルリアは竜化させた腕を宣戦布告するが如く前に突き出して見せる。
「そんな鱗如き、我が鎖でズタズタに引き裂いてくれ・・・!!」
突然、鎖の狐は背中に強大な魔力を感じとった。
「デカブツ。どうせ再生すんのなら、何をやってもいいよなあ!」
メアトリスは背中の上で竜化させた腕を振り上げ、更に鱗を逆立てる。
「な、何を!?」
「逆竜拳!!」
背中に振り下ろされた拳の衝撃は遥か下の地面にその爪跡を遺すほどだった。
次の瞬間、鎖の狐は体勢を崩し、地面に倒れ伏してしまった。
「むう!・・・体勢を保てないとは、一体どうした事か・・・ん?あれは・・・まさか!?」
偶然視界に入ってきた物、それは・・・自身の身体の一部だった。いや、一部分は一部分でも、
その大きさは身体全体の半分に値するほどの塊が、身体の構造上有り得ない位置に転がってい
たのだ。そう、鎖の狐は真っ二つにされていた。
「メル!」
「うむ!」
鎖の狐の見ている前でメルリアが片腕を顕現させ、あろうことか、下半身をむんずと掴むと、
あらぬ方向へ走り去っていくではないか!
「な・・・!か、身体を返せ!」
追おうにも上半身だけでは上手く移動できない。身体は再生を試みようと鎖を伸ばすが、一
向に届かない。
「ほ~れほ~れ!こっち~じゃぞ~!こ~こま~でお~いで~~~なのじゃ!」
イタズラ好きの悪ガキのような、何とも頭に来る声を発しながら逃げ回る。
「く・・・くそったれがあああああ!!」
幾ら吼えようとも追い付けないものは追い付けない。
「ほう、意識は目のある上半身にあり、切り離された下半身は動かせないと見えるな」
必死で這いずる鎖の狐の上半身をメアトリスは余裕の表情で観察している。
「貴様等!幾ら細切れにしようとも、この私目は決して倒せぬぞお!!」
「だろうな。だから黙らせんだよ・・・こんな風にな!」
「!?」
どういう訳か、切り離した下半身をこちらに投げ付けてきた。
「ど、どういうつもりか!」
鎖の狐は理解に及ばずながらも、念願の再生を開始する。今回は派手に両断されてしまって
いるため、再生にも幾らか時間を要する。上半身と下半身の鎖が一本、また一本と繋がって行
く。竜の二人は邪魔をしてくる様子も無く、少し離れた位置からただ見ているだけだ。
分からない。一体何を考え、何が目的なのか・・・・・・。ふと、違和感を感じた。
「ん?・・・・・・少し大きくなっている・・・?」
竜の二人が次第に大きくなってきている事に気が付いた。しかし、顕現している訳でもない
ようだし、何かの魔法を行使している訳でもなさそうである。
そして漸く気が付いた。地面が極めて近くなって来ていることに気が付き、状況を理解した。
これは二人が巨大化している訳ではなく、
「私目が・・・小さくなっているとな!?」
地面をよく見ると、光の筋があった。魔法陣とは違うそれは、二人の所までは達しておらず、
自分だけを囲むように繋がっていた。形はそう・・・三角形だろうか。
「三角の光・・・これはまさか!デルタ!?」
「そうでしゅ!」
目の前に現れた紫の狐は、首を真上に向けなければならないほどに巨大だった。自身がどれ
程小さくなっているのか知るには十分だった。
「これがわたしの『デルタ』のちからでしゅ!」
『⊿』は「変異」の力。力を強めたり弱めたり、物を大きくしたり小さくしたりもできる、
大きさにこだわりのあるスターシャらしい形だった。
「く・・・くそう!!」
鎖の狐は錨を形成し、勢いよく伸ばす。だが、紫の狐に直撃してもビクともしない。小さく
なった事で威力も極限まで落ちてしまっていた。
こうなってしまっては最早、鎖の狐に成す術は無かった。
「・・・参りましたあ!!」
鎖の狐は頭を垂れる。
「見事に御座いまする!オルト様!!」
「・・・わたしはもう、スターシャでしゅ、ミラトしゃん」
「・・・はい、申し訳ありません!これからも、貴方様のことを尊敬し、崇め奉らせて戴く所存に
御座いまするう!!スターシャ様あ!!」
「小さくなっても喧しい奴だな」
「じゃが、これでわしらの勝ちという事じゃ!」
鎖の狐はそれ以上抵抗する事は無かった。




