出来ることを
ウインターのその様子は明らかに冷静さを欠いていた。だからこそ、ラキエルは命じる。
「我、命ず『この場から離れろ!』」
「!?な、何故!?」
ウインターは驚き目を見開きながらも、逆らう事が出来ず遠ざかって行く。
「もう終わりですかな?それとも、もっとお相手して下さいますかあ!!」
鎖の狐は驚くほどの跳躍を見せ、その巨体で圧し掛かるようにラキエルたちに襲い掛かった。
スターシャは未だに気を失ったままだ。
「私一人でも・・・!我、命ず『回避せよ!』」
かなり距離が離れた所で命令から解放された。ここからでは鎖の狐の姿はよく見えるが、ラ
キエルたちの姿を視認することはできない。
「どうして・・・どうして・・・!私はそんなに役に立たないというのですか!!」
誰に言うでもなく叫んだ。
ラキエルまで私を役立たずと言うのか!私を見捨てるのか!一瞬、ウインターの心に憎しみ
のようなものが湧き上がってくるのを感じた。
だが直ぐに首を振り、湧き上がってきた感情を否定する。
「それは違う!ラキエル様は誰かを見捨てるような方ではありません!!原因は私!私なんで
す・・・!私が・・・今の私が出来ることは・・・・・・」
遠くで暴れている鎖の狐を観察しながら、必死且つ冷静を意識して自分に出来る事を探す。
攻撃するにしても、私の攻撃では通用しないのは目に見えている。だけど、引き付ける事は
できるかもしれない?だったら、攻撃と言うよりは補助寄りの技で・・・とにかくうっとうしそう
な攻撃をしてやれば二人から注意を逸らす事ができるかもしれない!
「すぅ・・・ふぅ・・・・・・やります!」
深呼吸をし、覚悟を決める。
ウインターの身体を囲むように輪状の魔法陣「魔力輪」が三つ、現れる。
「いざ・・・顕現!!」
魔力輪が強い光を放ち始め、やがて巨大な光の球となった。そこに一筋のひびが入る。その
ひびを楕円状に押し広げながら姿を現す。
巨大で鮮やかな青色、左右で規則正しく描かれた紋様の翅を開き、空に舞い上がった。
その姿は遠くで緊迫した戦いの最中にあったラキエルの目にも入った。
「あ、あれは・・・ウインターさん!!」
そして、顕現した事による魔力の上昇を感知した鎖の狐もまた気が付き、目を向けた。
その隙に気が付いたラキエルは、ウインターとは逆の方向へと移動する。
鎖の狐はどちらを追うべきが、一瞬迷う。
そうしている間にもウインターは行動している。
一度、翅をはためかせると、無数の鱗粉が前方に勢いよく舞い散る。
二度、翅をはためかせると、巻き起こされた風に乗り、鱗粉は加速しながら更に拡散する。
鎖の狐は何かをしようとしているウインターの方へ目を向ける。
三度、翅をはためかせんと、力を込めるように翅を閉じる。そして、魔力を込めた翅を思い
切りはためかせる。
「フローズン・クラスター!」
更に強い風に乗り、一気に鎖の狐の元まで到達した鱗粉は、風に含まれていた魔力に反応し、
鎖の狐の身体に衝突すると同時に爆発すると共に無数の氷塊をばら撒いた。
赤熱するほどの高熱に達していた鎖の狐に触れるや否や、氷塊は昇華し、水蒸気となって辺
り一面に霧を発生させた。
「んむう!厄介な事を・・・」
完全に視界を奪われ、姿が見えなくなった。
ラキエルは霧の外、鎖の狐を挟んでウインターとは反対の位置に待機していた。
「スターシャさん、スターシャさん!」
「・・・・・・」
返事は無い。まだ気を失っているようだ。
「仕方がありません・・・我、命ず『水よ、この手に集え!』」
ラキエルが差し出した掌に、大気中から水が集まり、球体を形成する。そしてラキエルはそ
れをスターシャの顔面にぶちまけた!
「ん!・・・んはっ!」
スターシャは目を見開いた。
「・・・ラキエルしゃま・・・?」
「スターシャさん、よかったです!気が付いて下さって!大丈夫ですか?身体はちゃんと動か
せますか?」
スターシャは四本の脚で立ち上がると、身体を捩り、動かして目視しながら確認し、くるり
と一回転した。
「異常なしでしゅ!」
元気に鳴いて見せた。
「それならよかったです!今、ウインターさんが顕現して引き付けて下さっています」
赤熱していた鎖の狐の身体は冷やされ、すっかり鈍色に戻っていた。それでもまだ氷塊は飛
来し続けている。鎖の狐の身体の温度が下がった事により、新たに水蒸気が発生する事はなく
なり、そこへ更に風が吹き込む事で霧が流され、鎖の狐の視界が開ける事となった。
「あの蝶、煩わしいですな」
鎖の狐がウインターの方へ向かおうと歩き出そうとした時だった。
「む?」
身体が思うように動かせない。何事かと身体を見ると、身体が今度は凍り付いていた。巧み
に組み上げられた鎖同士が凍り付き、くっ付いてしまい、上手く可動しなくなっていたしなく
なっていたのだ。
「これが狙い・・・これ以上好きにさせては置けませぬな。抗生成!」
鎖の狐が新たに凍結耐性を創り出すと、みるみるうちに氷が剥がれ落ちていく。あっという
間に自由を得た鎖の狐は、未だに翅をはためかせ続けているウインターへ向かい、物凄い速さ
で駆け出した。
これ以上は無意味だと判断したウインターは攻撃を止め、上昇しながら逃走を試みるも、鎖
の狐の方が圧倒的に速かった。
「くっ!」
逃げる事も無理だと判断し、ウインターは咄嗟に鱗粉を撒き散らす。
「そんな暇などもう与えませぬぞ!」
鎖の狐はウインターよりも高く跳び上がり、同時に勢いよく鎖を伸ばす。
既に攻撃体勢に入っていたウインターはそれらを回避できなかった。
「あああっ!!」
翅を貫き、更にそこへ巨大な爪を造形した鎖の狐が襲い掛かる。
「ウインターさん!!」
ここからでは手も声も届かない。見ている事しかできなかった。




