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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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93/240

Ω

この身、極み高まりて進化と成す・・・エヴォリューション・フォース・オメガ!」

 グリムの瞳に「Ω」の紋様が浮かぶ。

「さ、行くわよ」

 グリムはセイムに向かって駆け出す。セイムも向かい打たんと背中に推進力を溜め、爆発さ

せて超高速で突っ込んだ。

「迅・螺旋剛拳!」

 セイムの拳は防がれる事無くグリムの顔面に直撃した。だが直ぐにそれは防げなかったので

はなく、防ぐ必要が無かったのだと思い知らされた。

「!?」

 グリムは全くビクともしなかった。進化魔法を使用する前はあれ程効果的だった攻撃が今、

まるで通用していない。逆に、グリムの拳がセイムの顔面を打ち抜いた。

「があっ!?」

 同時にグリムの拳から装着されていた錨が射出され、セイムを地面に深々と叩き付け、その

まま長距離に亘って地面を抉った。

「セイムちゃん!!」

 話し掛けてもセイムの身体は力無く横たわり、ピクリとも動かない。見た所、強化魔法も全

て解除されてしまっていた。

「き・・・うしなってるの・・・?」

「カリナさん・・・あの力の事、分かるかねえ?」

「・・・あれはオメガ。『抵抗』の力だと思われます。今のグリム様は、あらゆるものに対しての

耐性を持っているはずです!」

「あらゆる・・・物理攻撃に対しても、と言う事ですね」

「そんなん・・・もう、どうにもなんねえんじゃねえのか・・・」

 グリムの瞳が、次の標的たる五人を捉える。


 グリムが進化魔法を使用した事により変化したのは、グリム自身だけではなかった。

 超高熱により融解し、水溜りのようになっていた鎖がもぞもぞと蠢き始めたのである。

「こ、これは・・・」

「まさか、この期に及んで再生しようとでも!?」

「グリムしゃまでしゅ。グリムしゃまがしんかまほうをしようしたのでしゅ!」

 超高熱のまま鎖はやがて塊となり、造形し始める。

「いけない!我、命ず『停止せよ!』」

 ・・・・・・しかし、止まる気配は無い。

「命令が効かない!?」

「ていこうのちからでしゅ・・・」

 遂には狐の姿にまで再生してしまった。

「この私目、まだ終わりは致しませぬぞ!さあ、さあ!さあ!!もっと貴方々の力を見せてく

だされぇ!!」

 超高熱を纏い、赤熱した鎖の狐は高らかに吼えた。


 スターシャ曰く「あらゆるものに対して耐性を得る力」を得たという赤熱した鎖の狐は一転、

攻勢に出てきた。最早、超高熱でも融ける事が無くなった事で、「熱」という武器を得た鎖の

狐の攻撃は近付くだけでも肌を焼き焦がされるほどの痛みを感じる。スターシャが単身、その

攻撃を引き付け、その猛攻を回避しながら空に散りばめた星を落として攻撃を行うも、まるで

通用しない。

「オルト様あああ!『チェイン・イラプション!』」

 スターシャの足元とその周囲が大きく盛り上がる。

「!!」

 危ない!!そう思った時には既に地面から噴き出た鎖にスターシャは空高く打ち上げられて

いた。

 空中で無防備になったスターシャに対し、鎖の狐は地面から噴き出た鎖をそのまま天高く伸

ばし、造形する。

「焦熱のおおおおお!!天鎖剛剣んんんんん!!!」

 そして、巨大な剣となった鎖を一気に振り下ろす。

「ほ、ほしたて!」

 咄嗟に星を集め、盾代わりにするも、そんな間に合わせのもので到底防ぎきれるものでは無

かった。

「きゃん!!」

 その盾ごとスターシャは地面に叩き付けられた。

 更に剣を分解し、無数の鎖に戻すと、その先を尖らせて地面に横たわるスターシャへ向けて

放った。

「天鎖あああ烈矢いいい!!」

「我、命ず『こちらへ跳べ!!』」

 鎖が直撃する寸前、既に意識を失っているはずのスターシャが驚くほど機敏に跳んだ。そし

て、駆け寄ってきていたラキエルの胸に跳びこんだ。

 そこへ鎖が追尾して向かってくる。

「我、命ず『全て回避せよ!!』」

 自身に命令を施したラキエルは四枚になった翼を巧みに操り、次々と襲い掛かってくる鎖を

ぎりぎりで回避し、ウインターの元まで舞い戻った。

 そのラキエルの身体中には切り傷が認められ、血が滲んでいた。

「ラキエル様!何と言う無茶を!」

「はあ、はあ・・・でも、こうでもしないと、スターシャさんを助けられませんでしたから・・・」

「!!」

 まただ。ウインターは思った。さっきも今もそうだ。自分は動かなくてはいけない時に動け

ていない。何の役にも立てていない。強くて魔力も高いスターシャに頼るばかりで、まだ子供

であるラキエルですら動くべき時を理解し、逃さず行動していると言うのに・・・

(私は・・・もしかして、恐れているのでしょうか・・・・・・己が危険を冒す事を・・・・・・)

 あの時、バンリ様を助けようとした時には、死ぬ覚悟は出来ていた。でもそこで傷付き、自

身の死と直面しても尚、生き延びてしまった事で、身体が本能的に死ぬような危険を二度と冒

したくないという拒否反応を示してしまっているのかもしれない・・・。

「何と言う役立たずでしょう」

 ぽつりと呟いた。ラキエルは気を失っているスターシャに声を掛け、状態を看ている。ウイ

ンターの頭に一つ、案が浮かぶ。

「ラキエル様」

「はい、どうしました?ウインターさん」

「命令して下さい」

「え?」

「私に、『戦え』と命令して下さい」

 今直ぐにその恐怖心を克服する方法は、ラキエルの命令しかなかった。これならば私も戦う

事が出来る。役に立つ事が出来る!これしかない!!

「私に・・・戦う勇気を、力を!!ラキエル様!!」

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