vs魔王グリム
「フォルムバール・フェアシュテルカ!」
セイムが強化を纏いながら駆け出し、先陣を切ってグリムへと真正面から突っ込んで行く。
グリムは強化を纏ったセイムの拳を軽々と片手で受け止める。
「怪力・・・!」
「軽いわね。準備運動でもしようということかしら?それなら付き合って上げるけ、ど!」
グリムはそのままセイムを投げ飛ばす。
「くっ!んうう!」
セイムは身体を翻して上手く着地すると同時に再び突撃して行く。
かわされ、いなされ、軽々と受け止められ、幾度と無く繰り返すも、セイムは一歩たりとも
退かない。
その様子を見ながらシュリが呟く。
「そろそろだねえ・・・みんな!」
皆が頷く。
カリナが静かに地面に手を着く。目測を整え、意を決し起動する。
「グリム様、参ります・・・全てを伝う我が鎖!」
突然、セイムとグリムの二人を内に囲うように鎖が、見たことの無い緑色の鎖が無数に天へ
向かって伸び出てきた。
「緑?へえ・・・」
グリムは嬉しそうな表情を浮かべながら、関心の声を漏らす。
その緑の鎖へ向け、ワンコが炎を放つ。炎は鎖に当たると燃え移って激しく燃え上がり、そ
れと同時にセイムは真上へ思い切り飛び上がった。
「ジェット・ウイング!」
空中のセイムに対し、シュリが補助魔法を掛け、その背中に細長い翅を設置した。
「掴め!逆巻け!吹き荒れろ!」
セイムの右腕から何本もの帯が伸び、燃え盛る緑の鎖に巻き付いてそれを渦を巻きながら引
き寄せて行く。やがてセイムの右腕に渦巻く巨大な炎の塊が出来上がった。
「翼、イグニッション!」
シュリの合図でセイムの背中の翅が強い推進力を発生させ始める。セイムはそれを下方、真
下に居るグリムへと向け、一気に降下し、拳を振るう。
「業・炎塊拳!!」
「纏」
グリムの両腕を極めて細かい鎖が覆い尽くす。そしてその両腕で、凄まじい速さで落ちてく
る燃え盛る巨大な塊を受け止めた。背中の翅はまだ推進力を発生させ続けている。だが、全く
ビクともしない。セイムにとってはそれで十分だった。
「タイム・アクセル!」
後方に居たバンリがハワーの加速を受け、一瞬でグリムの懐に潜り込み、鎌を振るう。
「魂狩りぃ!!」
グリムの両腕は上方で塞がっている。鎌の刃は見事にグリムの脇腹を捉えた。捉えたのだが、
刃はそこから動かない。
「き、斬り抜けらんねえ・・・!」
「いい連携だけど、甘過ぎるわ、ね!」
グリムの足がバンリの腹部を捉え、後方へ勢いよく吹き飛ばす。
「バンリちゃん!」
「セイム、あなたもね」
次の瞬間、セイムの右腕の塊は跡形も無く砕き去られ、セイム自身も空高く吹き飛ばされて
しまった。魔法ではない。力任せのただの魔力砲撃でだ。
「ぐぅっ!」
セイムは足で着地する。
「セイムちゃん!大丈夫かねえ!」
「・・・うん、ダメージは特に無いよ」
「げほっ!か、鎌が、通らねえなんて・・・」
「鎧です。グリム様は服の内側にも鎖の鎧を纏っているのでしょう」
「それはとても厄介そうです」
「じゃあ、よろいをこわすところからはじめないとだめなの?」
あの鎧、身を護るために使用しているだけあってそう簡単に破壊できるとは到底思えない。
現に、セイムの強力な一撃を受け止めた両手の部分ですらビクともしていない。
「じゃあ、今度はこっちの番ね」
魔王グリムが攻撃の意志を示す。
「皆さん、気を引き締めて下さい!」
「装」
グリムの全身に鎖ではないが、鎖と同じ材質だろうか、鎧が精製されて行く。手先足先には
錨が装着され、何とも物々しい様相となった。
「わ、やばそう」
そう思った時には既に地面を蹴り出し、間の前まで迫っていた。
一直線に向かってくるグリムが真っ先に狙ってきたのは、バンリだった。
「っ!?」
グリムの拳の錨を鎌の柄でぎりぎり防ぐも、とても踏ん張り切れずに後方へ吹き飛ばされて
しまう。グリムは更に追撃に向かう。
「っとねえ!ソフトウォール!」
その行く手を遮るようにシュリが大きな壁を生成する。その壁は非常に柔らかく、グリムの
拳を包み込むように軽減し、受け止めた。
「いきなり子供を狙ってくるなんて、魔王様も容赦がないねえ!」
「じゃあ訊くけど、あなただったら誰を最初に狙うのかしら?」
「それは・・・まあ、そうだけどねえ」
この中で唯一の死神族であり、一撃必殺の「魂狩り」が使えるバンリがやはり一番厄介だと
言えるだろう。加えて加速の力を持つハワーも居るのだから尚更だ。
「だからさっさと倒しちゃおうと思って・・・ね!」
「しまった!!」
壁に打ち付けたままのグリムの拳から錨が射出され、壁を突き抜けてバンリへ一直線に向か
って行く。
「い!?くそっ!」
吹き飛ばされた時に鎌を落としてしまい、バンリの手には今、鎌が無く防ぐ手立てが無い。
「炸裂拳!」
寸前の所でバンリの前に立ちはだかったセイムが帯をぐるぐる巻きにした拳で受け止め、帯
を爆発させ跳ね返した。
「大丈夫?」
「あ、ああ・・・た、助かった・・・あんがと・・・」
「・・・!」
グリムの胴体に何かが巻き付く。緑の鎖だ。
「ワンコさん!」
「雷・・・放電!」
鎖の端を持ったワンコが放電する。雷は緑の鎖を伝い、グリムの下へ到達する。
「物理が通らなくとも、自然属性なら通るはずです!」
雷がグリムの全身を襲い、体がよろめく。
「み、緑の鎖・・・ぞ、属性をこ、効率よくつ、伝えるく、鎖・・・い、いいじゃない。でもね・・・
抗」
だがすぐにグリムの体勢は元に戻ってしまう。
「雷が・・・効かない・・・」
「く・・・アンチ・・・耐性を作る力です・・・!」
受けた力に対して一時的ではあるが、耐性を作り出すことが出来る、グリムの能力の一つだ。
完全に効かなくなる訳ではないと言ってはいたが、それでもほぼ効かないと言ってしまってい
い程まで軽減されてしまう。脅威はそれだけではない。能力として耐性を得る事が出来るのだ
が、グリムは得た耐性から術式を作成し、次からは受ける前から魔法として耐性を自身に付与
させる事が出来てしまうのである。
受ければ受けるほど、戦えば戦うほど、グリムは強く厄介になって行くのである。
グリムは余裕の表情で緑の鎖を引き剥がした。




