信念の先
「あなたも、からだをうつしたのでしゅか?」
「そうです。そもそもこれは私自身の能力に御座います。私目は自分自身を魔力素子へと分解
し、他の魔法や魔力で作られた物体に宿る事が出来るのです。そう、グリムがオルト様に施し
たその技術は、私目がグリムに教えたものなのです」
「そうだったのでしゅか」
「さあ、オルト様。もうあまり時間は残されておりませんよ。この不肖ミラト、お相手させて
頂きます!」
鎖の狐は宣戦布告するかのように大口を開けて吼える。それを受けて立つと応えるように紫
の狐もまた、小さな大口を開けて鳴いた。
鎖の狐から無数の錨が紫の狐に向かって勢いよく伸びる。その一本一本が紫の狐よりも大き
い。だが、紫の狐は全く恐れる様子も無く、それどころか向かって駆けて行く。次々と襲い掛
かってくる鎖を足場に、ぴょんぴょんと軽やかに跳び移りながら距離を詰めて行く。そして一
気に跳躍し、鎖の狐の頭上へと飛び出した。
紫の狐が鳴くと、空に散りばめられた無数の星が鎖の狐に向かって一斉に降り注いだ。
鎖の狐は更に鎖を伸ばし、盾にして降ってくる星を防ぐ。しかし、星の動きは直線的では無
かった。星は操作されているように巧みに周り込み、鎖の狐の胴体に次々に直撃して行った。
星の勢いは確かに強かったが、鎖を破壊するほどの威力は無かった。ならばと、鎖の狐は防
ぐのを諦め、全身に星の雨を受けながら反撃に転じる。こちらも無数の鎖を鞭のように振るっ
て仔狐を一蹴しようと試みる。
紫の狐は地を駆け回り、それらを回避しながら大きく空いた鎖の狐の胴体下へと潜り込む。
こうなっては鎖の狐からは視認できない。鎖の狐は咄嗟に、思い切り伏せをした。巨大な胴体
が地面に叩きつけられる。仔狐はどうなったのか?鎖の狐ミラトにはいわゆる皮膚感覚という
ものが無く、分からなかった。
鎖の狐は辺りを見渡す。仔狐を視認できない。視界に入った自身の身体のそこら中には、無
数の星が張り付き、入り込みもしていた。現時点では害を感じない。だが当然、無害のままで
あるはずがない。と思ったその時、突如地面が眩しいほどの光を放ち始めた。
これは魔法陣の光ではない。既に何らかの効力を発揮してる魔法の光だと理解すると同時に、
身体に異変が起こっている事に気が付いた。
鎖でできた身体が赤熱し始めていたのだ。慌てて立ち上がろうとするが、どう言う訳か上手
く立ち上がる事ができない。何かが引っ掛かっているのか、そう思った時、はっと気が付いた。
星だ。身体中に入り込んだ星が鎖の彼方此方につっかえていたのだ。
「れんごくしぇいもん!」
その言葉と同時に、身体中の星も光を放ち始める。
「これは・・・!何と言う事だ!」
極めて高い温度に達した、鎖でできた身体が赤熱し、遂には融解し始めていた。
「か、身体が!さ、さ・・・流石はオルト様に御座いまするぅ!!」
鎖の狐は感動の断末魔を上げながら融け、形の無い塊へと変貌して行く。
「こ、これが・・・かつて魔王であった者の力・・・!」
ただ見ている事しか出来ずにいるウインターはその様子を呆然と見ていた。皆で戦っている
時でさえ有効策を見出せなかったと言うのに、実質一対一で圧倒している。いやむしろ、一対
一だからこそあの魔法を行使できているのだろう。となると、どうしても考えてしまう。
自分はただの足手纏いなのでは、と。
ふと、ラキエルが鎖の狐の方へ近付いて行くのに気が付いた。
「ラキエルさん!?一体何処へ?」
「ここが最大の好機なんです!」
ラキエルはこちらに振り向く事もせず言い、鎖の狐の真上の上空に滞空する。そして、杖を
手にすると祈るような構えを取った。
融けて形を失った鎖の塊が蠢き始める。そして次第に形を作ろうとしているのか、盛り上が
って来ていた。
「あの状態になってもまだ、再生しようというのですか!?」
その時、ラキエルが杖を天高く掲げ、言葉を発する。
「我が魂に刻まれし、正義の名の下に!オーバードライブ!!」
ラキエルの身体が強い光を放ち始める。すると何と、ラキエルの背中から新たに翼が生え、
四枚になった。仄かに光を纏うその姿は、美しかった。
ラキエルは杖を蠢く鎖の塊へと向ける。そして再び、言葉を発する。
「我命ず・・・動くな!!」
ラキエルの声が杖によって増幅され、辺り一帯に響き渡る。すると、再び形を成さんとして
いた塊の動きがぴたりと止まった。
「何と!?再生が止められた!?」
「ラキエルしゃんしゅごいでしゅ!」
「その力・・・もしや、無機物にも作用するのですか!」
「はい。なのでこの力はここぞと言うときまで隠しておきたかったんです」
再生を阻害された鎖の塊は、熱によって再び融け、水溜りのように成り果てた。




