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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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そしてわたしはスターシャに

 つまり、アポロネアはタリムの力を恐れ、何としても打ち倒したかった。しかし、私から命

令を引き出す事は出来ないと判断し、タリムが私を倒そうとしているという話をでっち上げた。

私を封印したのはそれをばれないようにする為と、緊急性を演じるためだったのだ。

「そ、それじゃあ・・・アポロネアは・・・・・・」

 私は騙されていたのかと思った。だが、その不安は彼女が直ぐに否定してくれた。

「そこは安心していいと思う。そもそも、アポロネアが貴方に命令させる事を試みもしなかっ

たのは、貴方が優しい性格をしているから、それを害したくないと思っての事だろうし、アポ

ロネアが貴方を護りたいと思っているのは確かでしょ」

 それを聴いてほっとすると同時に、自分は何も知らないのだなと、無力さを痛感した。

「お外・・・出てみようかな・・・」

 私は今まで聴かされるばかり、恐れるばかりで外の世界に全く出ようともして来なかった。

もし自分にもう少し勇気があって、もう少し早く外に出られるようになっていたなら、もっと

違う、いい結末になっていたかもしれない。そんな私の、後悔の呟きを彼女は聴いていた。

「ねえ、貴方はどうして外に出ないの?」

「それは・・・・・・私が、恐いから・・・こんなだから・・・」

 それを聞いた彼女は声を上げて笑った。

「あはははは!そうだったの?ま、確かに見た目のインパクトは凄いけどねー・・・」

 そう言いつつまじまじと見つめてくる。改めて見られると恥ずかしく、思わず手で顔を覆い

隠した。そんな私に、彼女は問い掛けた。

「そんなに外に出たい?」

 私は少し間を置いて頷いた。すると彼女は驚きの提案をしてきた。

「だったら新しい身体、創ってあげようか?」

「え・・・ええ!?そんな事出来るの!?」

「まあね。超高密度の魔力の塊を作って、それを造形して生体活動の術式を組み込んで貴方自

身を移し変えるだけよ」

「だ、だけよ・・・?」

 簡単そうに言っているが、所々にとんでもなく難しそうな工程があるのだが・・・本当にそんな

事が可能なのだろうか?

「勿論、副作用はあるわよ。移し変える事によって貴方は元の身体には戻れなくなるし、定期

的に身体を点検しないと不具合が出ちゃったりするようになるわね。でもその辺りは新しく術

式を組み込んで馴染ませる事によって改善できるし、組み込むモノによっては出来る事を増や

す事もできるからまあ、必要だって言ってくれれば術式も開発してあげるし、何とかしてあげ

られるわ」

 グリムは丁寧に説明してくれるが、身体を変えるという行為に対してはどうしても恐怖を感

じてしまう。

 今一歩踏み出せないでいると、彼女は加えて非常に魅力的な事を口にしてきた!

「新しく創る身体だけど、仔狐みたいに小さくて可愛いのにしようと思ってるんだけど」

「仔狐!?」

 仔狐。子供の狐で、小さくて・・・絶対可愛い!

 それだけですっかり恐怖が希望に変わっていた。

「その・・・お願いします!!」


 力無く横たわった巨大な身体。初めて客観的に見て、今まで自分はこんなに大きくて恐い顔

をしていたのかと、しみじみと見つめていた。

「身体の具合はどう?」

 ついさっきまで見下ろしていたその女性グリムが今や、大きく見上げなければ顔を見られな

いほどになっていた。

「小さくてとってもたのしいでしゅ!・・・たのしいでしゅ!・・・でしゅ!・・・しゅ!しゅ!」

 どうにも上手く発声できない。というか、声自体も全く別人になっていた。以前のおぞまし

い獣の呻り声のようなものではない。例えるならば小動物のさえずりの様な綺麗で可愛らしい

声になっていたのだ。

「あはは!可愛いじゃない!」

「そうでしゅ・・・か?えへへ」

 可愛いと言われ、嬉しくて小さな身体でくるくると回る。小回りが利くし、何と言ってもふ

さふさで可愛い尻尾が自分の身体に付いているのが堪らなく嬉しく、それを追い掛けて更にく

るくると回った。

 そうしていると突然、

「グリム!!」

 大声を上げながら一人、やってきた。それはアポロネアだった。身体中傷だらけで、息も絶

え絶えの状態だった。

「遅かったわね」

 グリムのその言葉をアポロネアは聞いてなどいなかった。意識の全ては空間の奥に横たえた

巨体に奪われていた。

「オ・・・オルト・・・様?・・・オルト様あ!!」

 今まで聞いた事の無い声で叫び、今まで見たこと無い程取り乱し、オルトだったそれに駆け

寄った。私が慌てて声を掛けようとしたが、グリムに制止されてしまう。そして、念話を送っ

てくる。

(これを機に、魔王の座を私に譲ってみない?そうしたら貴方は本当の意味で「自由」になれ

るわよ?)

 『魔王』というものに対し特に執着は無かった。今まで自分が魔王であることが当たり前だ

ったし、新しい身体になった今、その当たり前からも脱却してみるのもいいかと思った。そし

てなにより「自由」というものに凄く興味があった。

(はい、おねがいしましゅ)

 以前の私の前で力無くへたり込むアポロネアにグリムが近寄って行く。

「・・・どうして、オルト様を・・・」

「どうして?貴女がそう言ったんでしょ?母さんが魔王オルトを倒そうとしているって」

「どうしてそれを・・・!」

「私はただそれに則り、母さんの意思を継いだけ。貴女の言葉に現実味を持たせてあげたのよ」

「くっ・・・」

 アポロネアは無念の表情を浮かべた。

「なんて言うのは、ここに来るまでの話。ここに来てから私の目的は変わったわ」

「え?」

 アポロネアは顔を上げる。

「私はここに来て魔王オルトと話をしたわ。そして知っている事をお互いに確認し合った」

「それで知ったのですね」

「アポロネア、この仔から何か感じる事はない?」

 グリムはそう言いながら私を抱きかかえ、アポロネアの視界に晒した。アポロネアは怪訝な

表情を浮かべながらまじまじと見つめて来た。小さな身体の隅々まで隈なく観察する。そして

ある瞬間、アポロネアの身体が跳ねた。何かに気が付いたようだった。

「ま、魔力の質が!?オ、オルト・・・様!?」

「はいでしゅ」

 私は頷いた。

「アポロネア、貴女、オルトを護ろうとばかりしていたみたいだけど、本人が何を考えて求め

ているのか訊いた事はあるの?」

「・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 アポロネアは答えられなかった。当然だった。いつだって私は話を聴くばかりだった。でも

それが嫌だなんて思ったことは無かったし、私自身、自分がこうしたいとかいうのを話すとい

う発想すら持った事が無かった。

「貴女は真面目すぎるのよ。魔王を敬い、忠誠を誓うのはいいけど、もっと相手の性格とか考

えて接し方を変えていくべきじゃない?」

「・・・・・・はい」

「魔王オルトはずっと外に出たいと思っていた。でも、自分の大き過ぎる身体や恐い声が嫌で、

ずっと引き篭もってるしかなかったのよ」

「オルト様・・・本当で御座いますか」

「・・・はいでしゅ。おそとにでたかったでしゅ・・・」

 アポロネアは身体を震わせ、深々と頭を下げた。

「申し訳・・・ありません!」

「その身体は私が創ってあげたのよ。小さくて可愛いでしょ?これでやっと外に出る勇気もで

るでしょ」

「グリム、貴女は・・・」

「礼なんて要らないわよ?それよりこれからは私が『魔王』を名乗るから。オルトは死んだ。

これからは新しい身体で新しい自由な人生を謳歌するんだから、魔王で無くなる方がいいでし

ょ?それとも、アポロネアは『魔王』にしか興味が無いのかしら?」

 アポロネアはグリムを見て、私を見た後、頭を下げた。

「了解しました、魔王グリム様」

 こうして、魔王オルトはグリムによって倒されたと、そのグリムが新たな魔王となったと冥

界中へ広まっていった。そして私は星が好きと言うことで「スターシャ」という名をグリム様

から授かり、新しい、自由な世界へと足を踏み出したのだ。

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