七魔と狐の王
それからまたしばらく間が空いた。だけど今度は忙しいのだと分かっていたし、新しい人が
来るかも知れないと思うと、その心の準備も相俟ってそれほど永くは感じなかった。
「こんにちは、オルト様。お待たせ致しました」
そう言って現れたアポロネアの傍らには見知らぬ、装い様々な生物が何人も居た。それが後
に「七魔」と呼ばれる者たちだった。
当然、誰もが初めて見る人たちで、初めて出会った人たちだったが、皆が皆跪き、それぞれ
が私に忠誠を誓った。
どうしてそんなにも簡単に忠誠を誓えるのか。私が魔王だから?魔王とはそれほどの存在な
のか?私自身、自分で自分が忠誠を誓われるような者じゃないと思っているのに、こんなにも
多くの人たちに誓われるというのは正直気持ちが悪く、その人たちに対してもそうだが、自身
のこの「魔王」という名にも恐怖を感じた。
後の七魔とは言ったが、現在の七魔とは違っている人が何人か居るし、その時やって来てい
たのは、アポロネアを含めて六人。最後の一人は、また別の日にアポロネアに連れられて来た。
綺麗な銀の毛並みを持った、可愛らしい狐の女性だった。見た目の印象こそそんなだが、纏
っている空気は息苦しさを感じるほど・・・・・・恐かった。何一つ言葉も交わしていないし、表情
も笑顔だと言うのに、これは危険な生物であると本能的に直感した。
「初めまして~魔王サマ~」
女性は極めてにこやかに、無邪気に手を振ってくる。
ビクゥ!身体が跳ねる。恐い。雰囲気は恐ろしいのに、振る舞いが妙に友好的なのが更に恐
ろしさに拍車を掛けている。
「恐がらせないで下さい」
「ええー!ちゃんと笑顔だったのに?」
「貴女はもっと自分の、泣く子も気絶して黙るその空気を自覚するべきです」
「アポロちゃん酷くない?」
アポロネアは納得いかなそうに頬を膨らませる女性を後方へぐいぐいと押しやり、こちらを
向いて頭を下げた。
「オルト様、申し訳ありません。あの者、タリムはお気付きの通り、かなりの問題児です。そ
れ故、目の届く範囲に置いておきたく、管理者の一人として任命いたしたく思っております。
どうか御許可、願えますでしょうか」
こうして七人となった管理者たちは、それぞれが強大な力を持ち、冥界全土を秩序ある世界
に変えていったという。その強さ、功績、魔王直属の手下であると名乗っていた事から、その
七人はいつしか「七魔」と呼ばれるようになっていた。
その中に一人、その強さ、そして恐ろしさで世界を震撼させていた者がいた。
名はタリム。「狐の王」とも呼ばれ、狐たちを纏め、自分たちを害する者、戦いを挑んでく
る者、ただ単に目障りだと判断された者、様々でたくさんの者たちが圧倒的な力でねじ伏せら
れ、その大半を再起不能にまで追いやっていた。飽くまで再起不能までであって、決して殺し
はしていなかった。理由は単純明快。肉は好きじゃない。それだけだった。殺して死体にして
しまえばそれはもう食材。でも肉は要らない。かと言って放置すれば腐る。だから殺さずどこ
かにほっぽって、食べたい奴の食事になればいい。どうでもいい者たちに対してはその程度に
しか思っていなかった。
そんな彼女がアポロネアに連れられてではなく、自分の意思で来た時が一度だけあった。代
わりにと言う訳ではないが、見知らぬ狐の男を同伴していた。金の毛並みを持ったその狐は、
訊けば夫だと言う。
「おお・・・これが!御初に御目に掛かります!私目、名をミラトと申しまして御座います。此度
は世間をお騒がせしてしまって、申し訳ありませぬ!」
男は興奮しているようで、勢いよく頭を下げ、そのまま中々起き上がってこない。声を掛け
たほうがいいのか?と思い
「頭を上げて下さい」
と言うと、男はまたも首を痛めそうなほどの勢いで上体を起こした。
「おお!なんと勇ましきお声・・・!この身が震えておりますぞ!」
男は私の声に恐怖どころか、感動していた。
「と、タリムは少々子供っぽい所が御座いまして、ついつい自分の事を中心に考えすぎてしま
う所があるのです。ですが、これからはある程度ではありますが、変わってくれると思います
ので、何卒ご容赦を」
「子供ができたからねー。やりたいこと一杯あるし、ま、安心してよ」
タリムは相変わらず屈託のない笑顔を見せていた。
「子供!ぜひ、元気な子を産んで下さい!」
「は・・・はい!有り難きお言葉!」
「産むのは私だけどね」
タリムは一連の騒動の反省をしているようには見えなかったが、そんな事よりも子供が出来
て幸せそうなのが何よりも嬉しくて、反省なんてどうでもよかった。
それからまたどれくらいか経った。割と長い期間平和な日々が続いていたと思う。
報告に来る皆も笑顔だったり声が明るかったり、内容も良かった事が多かったし、本当に世
は平和だったのだろう。
しかし、その日は突然訪れた。
ある日、訪れたアポロネアは息を切らしていた。明らかに普通ではなかった。今まで、常に
冷静で何かに動じる姿など見た事がなかったから、何かあったのだと直ぐに分かった。
「どうかしたの!?」
訊くとアポロネアは軽く息を整え、驚くべき言葉を口にした。
「オルト様、申し訳ありません!貴方様をこの空間ごと封印します!」
「え!?」
驚きの声を上げた時には既にアポロネアは陣を描いていた。
「あれは・・・タリムは貴方様を倒す気です!我々七魔はこれより、タリムの討伐に向かいます!」
アポロネアは一方的に告げると、魔法を起動させ、空間を閉じた。




