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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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魔王オルト

 どれほど昔の事だっただろうか、私は魔王だった。いつから魔王だったか、生まれたときか

ら?どうして魔王になったのか、知らない。私が魔王である。それは当たり前の事だったから。

「オルト」誰が名付けたのか、自分がそう名乗ったのか、気が付いた時から私は魔王オルトだ

ったのだ。

 光源など一切無く、自身の姿さえ見えない暗闇の閉ざされた空間に一人、存在していた。そ

こでは昼や夜の概念など無く、時間と言うものすら感じていなかった。

 私はそこでただ、意味も無く天井に魔力で作った星を並べ、動かし、ただただそれらを繰り

返していた。

 それがどれだけ続いていたのか分からない。ある時、何かの気配を感じた。初めての感覚に

私は、これまた初めての恐怖も感じていた。

 気配はどんどん近づいて来る。どうしよう!どうしたらいいの!?対応の仕方が分からず、

怯えるばかりだった。


「オルト様」


 突如耳に入ってきた音。自分に向けられていると分かったが、どう反応を返せば分からない。

気配から察するに、「何か」はもう目の前まで来ている。しかし、暗闇によりその姿を確認す

る事はできない。声も上げられず、潜み続けていると突然、暗闇が白くなった。

 攻撃を受けたのかと思った。が、身体のどこにも異常は感じられない。白の中から次第に別

の色が認められ始め、その中に一つ、複雑な構造をしたちいさな物体があった。

「オルト様、御初に御目に掛かります。私、名をアポロネアと申します。以後、お見知り置きを」

 それは言葉を話し、動いていた。自分以外の生物を視認したのは初めての事だった。

 そのアポロネアなる者は、頻りに言葉を発し、何かを伝えようとしている様だったが、何分、

初めての事で驚く事も多く、内容が頭に入って来なかった。

 恐らく、その表情や仕草、佇まいから話が通じていないと判断したのだろう、

「一度、出直して参ります」

 その者は一言、頭を垂れ、去って行った。

 居なくなった後、先程の生物が自身にとって良い存在なのか、悪い存在なのかと言う事ばか

り、答えは出なかったが考えていた。

 どれくらいかして、再びあの者が訪れた。

 アポロネアが魔力で光源を創り出し、互いの顔を視認し合った事を確認すると、直ぐに言葉

を放ってきた。

「お早う御座います、オルト様」

 頭を垂れ、少し制止し、起きる。そしてこちらの顔をじっと見たまま動かなくなった。

 何かを待っている?何を?何か言葉を発すればいいの?でも、何を言えば・・・。分からず口を

もごもごしていると、察したらしく

「『おはよう』これは挨拶です。挨拶とは人と出会った時、別れる時に交わす言葉であり、基

本的には『おはよう』と言われたら『おはよう』と、同じ言葉で返すのがいいでしょう」

 と、丁寧に説明してくれた。

「では・・・お早う御座います、オルト様」

 先程の行為を繰り返してみせる。

 『おはよう』は『おはよう』だから・・・自分に言い聞かせて確認し、恐る恐る言葉を発する。

「おはよう・・・ございます」

 それは空間内に低く、おぞましい音が響き渡った。

 何事かと思った。

「あ・・・ああ・・・」

 突然の恐怖に周囲を見渡し、声を漏らした時、初めて分かった。今のが自分の声なのだと。

今、目の前に居る者のような、聞きやすいものでは無く、身の毛の弥立つような恐ろしい音が

自分の声なのだと。

「貴方様はこの冥界で唯一の悪魔族に御座います。この冥界の創始より王であり、星廻りを司

りし御方。この度はその身の寿命を迎えられ、身体の再構築を完遂されたと言う事で、改めて

御挨拶に参りました」

 その人物はこちらの発するおぞましい音に全く怯む様子も無く、淡々とこちらの状況を説明

する。

「私目は貴方様の手足となりて、この世界の秩序を護る事に御座います。故、これからも定期

的に報告に伺わせて頂きたく存じます。ではしばし、さようなら」

 そう言ってまたこちらの顔を見てくる。

「あ・・・さようなら・・・?」

 そう答えると、くるりと半回転し、去って行く。その一瞬、その人が微笑んだように見えた。


 それからアポロネアは何度も訪れた。その度に外であった事、良かった事、そうでない事、

愚痴であっても聴かせてくれた。

 そうして何度も会う内に何時からか緊張はおろか、楽しみにすらなっていた。

 特に、この空間の外への興味は次第に膨らんできていた。しかし、自分の身体の大きさやお

ぞましい声が、外に出ようという気持ちを持てなくしていた。

 ある時、アポロネアがぱったりと来なくなった時があった。理由は単純に忙しかったという

だけで、来なくなったとは言っても、時間にすれば大した事はない程度だったのだが、楽しみ

だったのと、感覚的にもうそろそろ来る頃だと勝手に思ってしまっていたのが原因で、遅いと

感じていた。思えばこの時が、私が始めて「時間」というものを感じた時かもしれない。

 少々遅れてやってきたアポロネアの顔は、いつものしっかり者の顔ではなく、どこか元気が

無いように見えた。

 いつもならアポロネアが外であった事を一方的に話してくれるのだが、今回は思い切って自

分から話し掛けてみる事にした。

「何か、あったの?」

 その声に驚いたのか、話し掛けられた事に驚いたのか、アポロネアは一瞬眼を丸くしていた。

「・・・はい」

 アポロネアは返事をすると、何かを思い悩むように少し俯いた。が、直ぐに顔を上げ、意を

決したように口を開いた。

「恥ずかしながら、私一人ではこの冥界全土を管理する事は出来ないと・・・実感いたしました」

 アポロネアが言うには、冥界に新たに強い力を持つ者が現れ始め、それにより無駄な争いが

頻繁に起きるようになり、それを治めるのにかなり苦労するようになったという事だった。

「それ故新たに何人か、私目と同じ管理者として任命致したく、御許可を頂けないでしょうか」

 アポロネアは跪き、頭を深々と下げる。

 許可をすれば新しい人が来るようになるのかな?それは・・・恐いけど、楽しみな感じもするよ

うな・・・ともかく、アポロネアが困っている事は確かで、何とかしてあげたいと思っているのも

事実だった。

「・・・うん、許可します」

 アポロネアは無言のまま一度頭を上げ、こちらの顔を確認すると、更に深々と頭を下げた。

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