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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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鎖と紫

 ウインターの働きにより、戦闘部隊の六人は何事も無く魔王グリムの前に辿り着く事ができ

た。グリムは小さく溜め息を吐く。

「力を試そうとしたつもりだったんだけど?」

「これから魔王様と戦おうって言うのに、疲れることなんてやってられないからねえ」

「ふうん、中々冷静な判断するじゃない」

 ふと月を見上げる。月は見て明らかなほど大きくなってきている。時間に余裕は無い。

「グリムお姉ちゃん!勝負!」

「見せてみなさい!」

 セイムが構えたのを皮切りに、皆も戦闘態勢を取る。


 魔王と戦う皆とは、視認できないほどまで十分な距離を取った。後はこのまま鎖の狐を引き

付けておけばいい。気を抜けない事に変わりは無いが、魔王と戦う事に比べれば楽だと言える

だろう。

 そんな風に甘く考えていた。

 鎖の狐はゆっくりと、こちらに追い付かない程度の速度で歩いて来ていた。そして、こちら

がもう十分だと判断し、逃げる翼を止めた時だった。

 鎖の狐はその巨大な口を目一杯に開き、暴風のような激しい咆哮を上げる。すると、その背

後に光の壁が、左右へ、天へとどこまでも広がって行く。

「不味い!結界です!」

 気が付いた時にはもう遅かった。生成された光の壁に果ては見えず、完全に分断されてしま

った。

「まさか・・・私たちの方が誘き出されたという事ですか!?」

 全員で居た時は魔法の一つも使って来なかった。それが二手に別れた途端である。

 今まではわざと魔法を使わなかった?単純な攻撃しかしなかった?強力な再生能力だけを見

せ付け、戦うのは時間の無駄だと思わせ、二手に別れるべきだと判断させるために!?

「よもや・・・魔法によって創り出されただけの者にそこまでの知能が!?」

「グリムさんが指示を出していたのかも・・・」

 ラキエルたちが驚き、状況を整理していると、何処からか声が聞こえて来る。

「悪いね、騙したみたいで」

「!?」

 スターシャではない。その声は若い男の声だった。どこから、誰が発しているのか、辺りを

見渡すも、思い当たるのは目の前のそれだけだった。

「あの鎖の狐が!?」

「あの子の魔法はすごいだろう?」

 その声と喋り方は最早、私たちと変わりない、普通の人のようだった。

 状況が理解出来ず、怯んでいたその隙に、鎖の狐は全身から物凄い量の鎖を放出した。滞空

しているラキエルたちに対し、放射状に放たれた鎖の密度は隙間が全く無いほど高い。後方へ

逃げようにも判断が遅れてしまい、あっという間に背後まで回りこまれ、完全に包囲されてし

まった。

「くっ!やはり、これ程までに自由に動かす事ができる・・・!」

「何もかも相手のほうが上手だったという事ですか・・・」

 鎖は編み物のように交差し、球状となった。その至る所に、大きな錨の先端のような物が形

成され、こちらを向いていた。直ぐに分かった。

「全方位から攻撃が来ます!」

 言うが早いか、錨はラキエルたちに向かい、勢いよく一斉に伸びてきた。

「障壁が間に合わない・・・!」

 全身を、三人を覆うだけの障壁を形成する時間が足りない。例えできたとしても、全てを防

ぎきれるとは思えない。万事休すだった。

 だが、ラキエルたちの身に届かんとした寸前の所で、どう言う訳か錨は動きを止めた。いや、

錨の鎖の部分がたわんでいる。進みたくても進めないのだ。ふと目に付く。錨の先端の部分に

何かがくっついている?形は「星」。星も星らしい、図形の星だった。錨の重厚さに比べると

星は小さくて薄っぺらく、ただの光る紙のようだったが、その頼りない見て呉れとは裏腹に、

重くて強そうな錨を次第に押し返して行く。

(せいうん、てんかい!)

 その合図で星は無数に増え、一気に広がって行き、遂には鎖の球体をも破壊し、更に広がっ

て行った。

 紅い月が支配する空に、無数の星たちが輝き始める。

「あれは・・・星空の異変の時と同じ・・・」

「スターシャさん!」

 スターシャはラキエルの肩から降りると、単身鎖の狐の方へとちょこちょこと歩いて行き、

お屋敷のように大きな鎖の狐と、豆粒のように小さな紫の狐が睨み合う。

「お久し振り、と言う事で宜しいですかな?」

「・・・ミラト」

 紫の狐は答えた。念話ではなく、口で。

「おお・・・!まさか、私程度の者の事まで、しかも、生身でもないというのに覚えて下さってい

るとは!流石に御座いまする!」

 鎖の狐は嬉しいのか、遠吠えでもするかのように口を天へと向ける。

「しっているひとのかずがすくないだけでしゅが」

 二人が会話している所をラキエルたちは唖然とした表情で見ていた。

「ど、どういうことでしょうか、ウインターさん」

「すみません。理解に及びません」

 会話から察するに、二人は古い知り合いのようだが、あの鎖の狐はスターシャに対し、忠誠

心を持っているように感じる。

「我々一家は貴方様を恨んでなどおりませぬ。真実は娘たちが明かしてくれましたからな」

「・・・・・・」

「むしろ、貴方様が自由になられた事を嬉しく思っております、オルト様」

「オ、オルト!?ま、まさか・・・!?」

 その名を聞いたウインターは驚きを隠せなかった。

 「オルト」それは現魔王グリムによって倒された、先代の魔王の名だった。

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