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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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鎖の狐

 世界中の人々が、ある人は不思議そうに、またある人は恐怖を表情に滲ませながら空を見上

げていた。月が少しずつ大きくなっている事に気が付く者も次第に増えてきていたのだが、そ

の月が魔力を大気中からだけでなく、人からも吸い上げている事に気が付く者はいなかった。

なぜなら、一人一人からは、気が付かないほど微量ずつしか吸い上げていなかったためだ。

 未だ、恐ろしさを感じる者は居れど、世界の危機を感じ取っている者は居ない。そんな人々

を見下ろしながら、月は今も密かに力を蓄え成長している


 恐れるべきは、無尽蔵に湧き出てくる鎖だ。巨大な狐がこちらに向かってその身を振るう度

に伸び、襲い掛かってくる。その動きこそ直線的でかわす事はそれほど難しくないが、下手に

攻撃を行う事もできず、状況はむしろ悪いと言ってよかった。

「シュリちゃんどうする?このままじゃあ何ともならないし、ちょっと攻撃してみようか?そ

れで何か、倒すヒントみたいなのが見えるかもしれないし」

 セイムは次第に居ても立ってもいられなくなってきていた。

「んー・・・確かに、かわしてるだけじゃあ、体力を消耗して行くだけだよねえ・・・」

 セイムの申し出を有り難く受けるべきか・・・。回避している間、あの鎖の狐を倒す方法を考え

ていなかった訳ではない。考えられる条件は三つほどある。

 一つ、あの巨体の何処かに核となる部分があって、それを破壊する事。

 次に、再生を行えないように、全身を同時に且つできるだけ細かく粉々にする事。

 最後に、空の深紅の月同様、創り出した張本人を倒さなければならないという可能性の三つ。

 どれであるのか、もしくはどれでもないのか、何れにしろ言えることが一つだけある。

「ここは二手に分かれるべきかもねえ」

「えっと、どういうこと?」

「あのでっかい狐と戦う事自体、避けるべきだと思うんだよねえ。今から倒し方を模索して、

見つけて実行して、例え上手く行ったとしても、その頃には結構消耗しちゃってるんだと思う

んだよねえ」

 万全の状態ですら勝てる見込みすら見えない魔王との戦いが控えているのに、ここで消耗し

てしまえば完全に勝ち目はゼロになってしまうだろう。

 確かに、二手に分かれる事で、全員で挑めないというリスクはあるが・・・・・・

「そうしましょう!」

 カリナが強く、シュリの考えに賛成する意思を示す。

「目的はグリム様を倒す事です。あれを倒す事に力を割くべきではありません!」

 その雰囲気にセイムも思わず納得した。

「そ、そっか。・・・それじゃあ、どんな風に分けるの?」

「魔王と戦う戦闘部隊と、あの狐を引き付ける挑発部隊の二つだねえ」

 魔王を倒すには出来るだけ人数が欲しい。だが、引き付ける側にも最低限、その攻撃を苦労

せずに回避できる者が必要だ。となると・・・

「あの狐の相手は、ラキエルちゃん、ウインターさん、それとスターシャちゃん・・・三人だけだ

けど、何とかお願いできるかねえ?」

「・・・・・・自力で空を飛ぶことができて、回避しやすいからですね?」

「流石ラキエルちゃんだねえ。ま、他にも期待してることもあるんだけどねえ?」

「・・・分かりました、引き受けます。ウインターさん、スターシャさん、宜しくお願いします!」

「承知しました」

(分かったでしゅ!)

 スターシャはラキエルの肩に飛び乗る。

「じゃあ、後のあたしらで魔王と戦うのか」

「うん、行こう!」

 勇者たちは二手に分かれて移動を開始する。すると、鎖の狐は数の多い戦闘部隊の方を追う

素振りを見せた。

「注意を引かなくては!ウインターさん!」

「了解です!」

 ウインターが翅をはためかせ、巨大な狐の真上へ昇って行く。それを見ながらラキエルは杖

を取り出した。

「一度、試してみますか・・・」

 その杖を鎖の狐に向け、口を開く。

『命ず、こちらを向け!』

 ・・・・・・しかし、鎖の狐は何の反応も示さない。

「やはり効かないですか、無機物みたいですし・・・」

 ラキエルの命令は、魂のある者にしか通用しない。もしかしたらと思ったが、やはり上手く

行かなかった。

 巨大な狐の頭上に到達したウインターは一度翅を閉じ、魔力を込め、一気に広げる。無数の

きらきらとした鱗粉がウインターの周囲に飛散する。と同時に、急速に大きく成長していく。

「ハーゲルシャオアー!」

 大きな氷の塊となった鱗粉が合図と共に巨大な狐の全身へ一斉に降り注いだ。

「属性は氷塊による打撃。これならば鎖を破壊するだけの威力は無く、注意だけを引ける!」

 そのウインターの狙い通り、ダメージは無いものの、自信の身体を打ち付ける物体が気にな

った鎖の狐は、追いかけようとしていた戦闘部隊から眼を背け、物体の降って来る頭上へと顔

を向ける。その眼に捉えられたウインターは、攻撃を続けながら戦闘部隊とは反対の方向へと

移動して行く。鎖の狐は空気がうねるような鳴き声を上げると、その姿を追いかけ、ゆっくり

と歩き出して行った。

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