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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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「魔王」として

 魔王グリムは空に怪しく煌く深紅の月を見上げ、続ける。

「『魔王』と呼ばれる者たちにはそれぞれ目指したいものがあり、それを達成するための方法

として『世界征服』を企てた。つまり『魔王』とは、世間に理解されない大き過ぎる夢を抱い

た者。そして私もそれに倣い、企てた」

「グリムお姉ちゃんの目指したいものって?」

「私の目指したもの、それは・・・『平和』よ」

 その言葉に、その場の誰もが驚きを隠せなかった。

「平和!?それがどうして世界征服に繋がるんだ!?」

「あなたたちは『平和』とは何だと思う?セイム」

「え、平和、へいわ・・・大きな争いが無いこと、かなあ?」

 いざ訊かれてみると、はっきりこう言うものだというのは浮かんで来ない。

「そう、大規模な争いなどが無く、いつもと変わらない日常を送る事が出来る日々が平和だと

言えるわ。だけど、それが長い期間続けば、多くの人はその日常の、平和のありがたみを忘れ、

突発的な危険に疎くなってしまう。世界中の人々に平和のありがたみを忘れさせず、何時危険

が訪れても対処できるよう、常日頃から心掛けるよう促すそのために、世界を揺るがす程の大

きな『悪』という存在が必要になるのよ!」

「それが・・・『魔王』だと言うのかねえ!?」

「『魔王』は、世界を混乱させ、恐怖させ、それを解決しようと立ち上がった『勇者』に倒さ

れる事によって、世界に『平和』という概念をもたらす!偶発的な悪に因ってではなく、自ら

が指揮する『管理された悪』を用いる事によって、より確実に平和をもたらすと言う結果を得

る事ができるようになる・・・これが、私の『魔王』としての生き方!そしてこれが、世界を閉ざ

さんとする『魔王』の魔法!!」

 魔王グリムが天高く手を伸ばす。その先には深紅の月が存在している。

「さあ、始めましょうか、『勇者』たちよ!」

 パチン!と指を鳴らす音が響き渡る。

『天網招来!』

 その瞬間、月がより一層輝きを増した。それによる変化に真っ先に気が付いたのはシュリだ

った。

「あの月まさか・・・魔力を吸い上げてるのかねえ・・・?」

 大気中の魔力が、あの月へと昇って行くのを感じ取っていた。

「ご明察。流石は魔法の研究者と言った所かしら。あれは偽りの月。全ての世界に設置され、

大気だけでなく、人からも魔力を吸い上げているわ」

「ひとからも!?それじゃあ、わたしたちのまりょくも!?」

 であれば不味いというレベルではない。魔力を持つ種族こそ魔獣族だけだが、勇者たちの主

力のその殆どが、その唯一魔力を持つ種族である魔獣族なのだ。その魔力が失われては、魔王

に勝利する事など不可能だ。

「安心なさい。あなたたちからは吸い上げてはいないわ。全力を出してもらわないと困るもの」

 ほっと胸を撫で下ろす。しかし、シュリは違った。未だに月をじっとみつめている。

「大きく・・・なってるようだねえ・・・」

「え?」

 慌ててもう一度見上げる。言われて見てもはっきりとは分からない。

「そう。あの月は魔力を吸い上げながらその身を際限無く肥大化させて行く。そしてやがて、

自らの重さに耐えられなくなった月は地上に落ち、溜め込んだ魔力を撒き散らす・・・大爆発とい

う結果を以ってね」

「そ、それじゃあ世界が・・・!」

「制限時間はおよそ二時。止める方法はただ一つ。この私を倒し、あの魔法を解除する事よ。

さあ、まずはあなたたちの力、試させてもらうわよ」

 魔王グリムの身体から何本もの鎖が伸びる。

「出でよ、我が僕・・・『グリム・オブ・カタストロフ!』」

 更におびただしい量の鎖が放たれ、勇者たちの目の前で組み上がって行く。やがて、背を反

らせて見上げるほどまでに巨大な九本の尾を持つ狐の姿になった。


「な、何だよこれ!?」

「お、おおきい・・・!」

「気を付けて下さい!あれは見た目以上に厄介ですよ!」

 カリナはあれの恐ろしさを知っていた。だが、それを説明している暇など与えられなかった。

巨大な鎖の狐は、その前脚を振り下ろした。位置的には踏み潰されはしない。勇者たちはその

動向をただ見ていた。

「油断しないで!」

 脚が地面に叩き付けられると同時に、無数の鎖が放射状に、津波のように押し寄せてきた。

「ええ!?」

 予想外の襲撃に勇者たちは反応が遅れてしまう。そこへ、カリナが最前線へ躍り出ると、巨

大な障壁を張り、迫り来る津波を受け止めた。

「皆さん!回避を!」

 勇者たちは慌てて鎖の来ない巨大狐の側面へ纏まりながら退避する。

「カリナさん!もう逃げて下さい!」

「く・・・はい!」

 カリナは横へ思い切り地面を蹴り、飛び込むように鎖の範囲外へと脱した。

「さっさとやっつける!風の如く舞え!フォルムバール・フェアシュテルカ!からの~~~・・・

螺旋剛拳!」

 腕に強化の帯を巻き付けたセイムは、その足に突進し、勢いそのまま拳を打ち付けた。直撃

すると同時に巻き付けた帯が炸裂し、鎖の狐の足先を千切り飛ばした。

「行ける!壊せる!」

 セイムが希望を感じたその時だった。

「直ぐに離れて!」

「!?」

 千切れた部分から直ぐに新たな鎖が伸び、しかもその一部がセイムの打ち付けた腕に巻き付

いて来たのだ。

「ぐぐぅ・・・さ、炸裂せよぉ!」

 巻き付く鎖に帯を巻き付け、炸裂させて切断を試みる。だが、

「こ、壊れない!?」

 新しく伸びてきたその鎖は、先程の物よりも硬いらしく、ビクともしない。それどころか、

加えて一本、また一本と鎖が巻き付き、修復途中の足へとセイムの身体を引き寄せて行く。何

とか堪えようとするも、じりじりと引き摺られていってしまう。

「ワンコさん、炎、行けますか?」

「はい」

 咄嗟にウインターがワンコに声を掛け、二人、セイムの元へと向かって行く。

「この辺りに炎を!」

「はい!」

 ワンコはウインターの指示に従い、セイムから少し離れた部分の鎖を炎で熱する。

「ケルテアインブルフ!」

 炎が消えると同時に今度はウインターが同じ部分に冷気を当て、冷やした。

「もう一度!」

「はい!」

 同様に熱し冷ましを繰り返す。

「そうか!バンリさん、命じます!」

「ええ!?わ、わかった!来い!」

『あの部分を叩き斬れ!』

 その声を受けると同時にバンリは駆け出し、跳び上がる。

「形状・大剣!」

 そして、鎌を巨大な剣へと変形させ、その重さと落下する勢いを生かし、熱し冷ましを繰り

返された部分へ、寸分の狂い無く振り下ろした。

 すると、帯の炸裂ではビクともしなかった鎖は、砕けるように斬れた。

「今です!退避を!」


「あ、ありがとう・・・助かったよ!」

「うかつですね、セイム。あれは簡単には倒せないのです」

「うん。よく分かったよ・・・」

 鎖を破壊しても直ぐに再生する。しかも強度を増して、だ。考えなく鎖を破壊すれば、徒に

あの狐を強くしてしまう事になってしまう。

「私もあれとは何度も戦った事があるのですが・・・一度も倒せた事が無いのです・・・」

「それじゃあ、倒し方も分かっていないと言う事かねえ?」

「恥ずかしながら・・・」

 唯一戦った事のあるカリナですら、その弱点を知らないと言う。

「前座にしては厄介すぎる相手だねえ・・・」

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