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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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不安

 人知れず起こり、人知れず解決された眠りの異変から数日、ラキエルたちは日常生活を送り

ながらも、その心に余裕など無かった。

 次に異変が起こるのはいつなのか?どんな異変なのか?次の相手はあの魔王グリムである。

どれ程の異変を巻き起こしてくるのか想像も付かない。加えて、例えどんな異変であれ、解決

するためにその魔王と戦わねばならないのだ。一人ではないとは言え、勝てるなどとは到底思

えなかった。

「なあ、あたしらさ・・・魔王と戦って、勝てるのか?負けちまったら・・・どうなるんだ?」

 ハイラント邸でカリナから戦闘訓練を受けているその休憩中、バンリが不安を口にした。

「それは・・・」

「でもさ、ま王ちゃんって、たおしてほしいって思ってるんでしょ?だったら負けてくれたり

しないかなあ?」

「それは無いですね」

 ハワーが口にした微かな希望をカリナは即座にきっぱりと否定する。

「グリム様がその様な真似をする事はありません」

「そっかぁ」

「流石にそんなに甘くはないですね」

「でさあ、負けちまったら・・・?」

「そうですね・・・恐らくですが、二度は無いでしょう」

「どういういみ?」

「終わりって事か!?」

「『終わり』ですか・・・・・・」

 その『終わり』とはどう言う事なのかは分からないが、確実に酷い結末を迎える事になって

しまうだろう。

「ふ、不安すぎる・・・」

「・・・今は少しでも力を付けないとですね」


「シュリちゃーん、お茶とお菓子用意したよ。休憩しよ?」

 シュリの研究拠点である天界城の書物庫。メイエルは研究に没頭するシュリの手伝いをする

ためにここに泊り込んでいた。

 メイエルとカイエルの兄妹は鈴によって作り出される転移魔法陣を潜る事ができない。つま

りは魔王との決戦にも同行する事ができないのだ。その事に後悔がある二人は、せめて出来る

事はしたいと、サポートを買って出ていた。

「む、ん~・・・そうだ、ねえ・・・」

 しかし、シュリは呻り、生返事するばかりで、ちっとも研究を中断する素振りを見せない。

研究を急ぎたい気持ちも分かるが、何事にも休む事は必要である。

「シュリちゃん、呻ってないで、気分転換したほうが効率もよくなると思うよ」

 メイエルはシュリの肩に手を掛け、揉み解し始める。

「ほら、こんなにカチカチじゃない」

「あ、ああ~~~・・・ぎもぢいいぃぃぃねぇ~・・・」

 今度は心底気持ちよさそうな呻り声を上げる。そして、揉み解すメイエルの手が次第に下方

へと移って行き・・・やがて脇腹へ到達し、襲い掛かった!

「い!?ひひひひひぃ!!」

「ねぇ~休憩しようよ~シュリちゃ~ん」

「ひひひひひ、いひー!!わかっ!休憩す、から!やめ・・・ねぇー!」

 メイエルがくすぐる手を止めると、シュリは床に倒れこんだ。

「ひぃー・・・ひぃー・・・」

「さ、休憩休憩!」

 シュリはメイエルの焼いたクッキーを口へと運ぶ。

「甘い・・・疲れた脳に染み渡る感じがするねえ・・・」

「もう、根を詰めすぎだよ。シュリちゃんって研究を始めるといつも周りも自分も見えなくな

るでしょ」

「・・・その通りだねえ。ついつい時間を忘れちゃうんだよねえ」

 シュリにとって研究は趣味であり、やりたくてやっている事もあり、上手く行こうが行かな

かろうが、楽しくて楽しくて仕方が無くて止められないのだ。だからいつも耐え難い空腹を感

じた所で漸く中断しなきゃと思うくらいである。

「特に今は大変な時だから、気持ちも分かるけど・・・」

「確かにねえ。頑張らなきゃいけないのは確かだけど、頑張りすぎて身体を悪くしちゃったら

世話無いもんねえ。セイムちゃんも無理してないといいけどねえ」


「ふううううううう!」

「・・・どうだ?何とかなりそうか?」

「うううううううう!」

 カイエルの声が聞こえているのかいないのか、セイムは歯を食いしばり、頻りに呻り声を上

げ続けている。

「さ、さぁ~むぅ~いぃ~~~・・・」

 夏の暑さが猛威を振るう中、セイムは自宅で幾重にも服を着込み、何枚も布団を被ってもな

お、寒さに震えていた。そう、風邪である。

「だめか。だがこれ以上は暖かくはできんぞ」

 セイムの特訓の手伝いに来たカイエルだったが、何故か看病をする事になってしまっていた。

「あばばばばばば」

「大丈夫かよ・・・もう直ぐライムさんが薬を持ってきてくれるからな」

 セイムはここの所、進化魔法をより使いこなすために日々、朝から晩まで特訓を続けていた。

その疲れが溜まっていたのか、前日の夜、水浴びをした後よく乾かさずに寝てしまったのだ。

「セイムちゃん大丈夫?カイエル君ごめんね、風邪移っちゃうからもう代わるよ」

「あ、はい、すいません、お願いします」

「さ、セイムちゃん、まずはちょっとでもいいからお粥、食べよ?その後お薬飲んで、お水も

たくさん飲まないとね」

「う、ううううう」

 セイムは震え、呻りながらゆっくりと身体を起こす。

「こ、こここんなんじゃあああ、だだだめなのにいいぃぃぃ・・・」

 セイムは焦っていた。今、異変が起これば自分はとても戦う事などできない。自分の不摂生

が原因で皆に迷惑を掛けてしまう事が何よりも申し訳なく、恐かった。

「焦らなくていいからね。今は早く治す事だけ考えよう?」

 ライムはセイムの身体を抱きかかえるように優しく支え、気持ちを落ち着かせる。

「う・・・うん・・・早く・・・治す!」

 セイムは寒さに震えながら、ゆっくりとお粥を口へと運ぶ。

 食事を終え、薬を飲んで少し落ち着いたのか、セイムは漸く眠りに付いた。

「あの、ついさっきなんですけど、ライムさんに手紙が」

「私に?」

 ライムはカイエルから手紙を受け取り、目を通してみる。

「・・・・・・へぇ~・・・・・・」

「ライムさん?何が書いてあったんですか?」

「ん~?カイエル君はぁ、私の個人的なコト、知りたいのぉ?」

 わざとらしいほど、妙に色気づいた声。

「ええ!?あ、いえ・・・すんませんでした!!」

 カイエルは慌てて席を外した。

「そっか~」

 ライムは紙を取り出し、返事を書きながら小さく呟く。

「『真の勇者様へ』・・・ふふ、お姉ちゃん・・・私、『勇者』を見つけたよ・・・!」

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