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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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セイムとライム

 この実体のある幻術を創り出している母ライムの居場所は大体分かる。この幻術自体からも

魔力は感じるが、それを創り出している大元はもっと、遥かに大きな魔力を発しているため、

ある程度の位置なら分かる。

 だが、その目的の場所へ辿り着くのは容易ではない。破壊すれば爆発四散して非常に危険な

飛行物体が幾つも行く手を遮ったのである。

(空飛んでて回避するのは難しそうだし、かと言って、戦って壊しちゃうのも破片が恐いしな

あ・・・何か、何とかする方法は・・・・・・)

 セイムは辺りを見渡し、考えを巡らせる。

 今居るのは背の高い建物の屋上。これよりも上には何も無く、自由に空を飛ぶことの出来る

飛行物体の方に地の利があると言える。ならば、地上に降りればこの建物たちが障害物となり、

飛行物体の動きをある程度制限する事が出来るだろうが、地上には高速で突っ込んでくる物体

があり、地上は地上で大変そう。

 この二種類の物体を上手く回避し、目的の場所へ辿り着く方法は・・・セイムは目を見開いた。

「分かんないや!」

 そう声を上げると同時に、帯を両腕両脚に巻きつける。突っ込んでくる飛行物体に対し、セ

イムは身を屈め、両手を地面に着けて四つん這いになる。そして、飛行物体が目前に迫った瞬

間、その姿が消えた。次の瞬間にはその側面を足が捉えていた。

「ちょっとどい・・・てぇ!」

 セイムはそのまま飛行物体を蹴り飛ばした。蹴られた飛行物体は壊れる事無く飛んで行き、

地面に勢い良く接地すると、音を立てて転がって動かなくなった。

「おお・・・!壊さないようにどけようと思っただけだったけど、何だか上手く行ったみたい!こ

れならいけそう!」

 図らずも対処法が分かったセイムは、同様に残りの飛行物体も上手く側面に回りこんで蹴り

飛ばして行く。飛行物体は蹴り飛ばされると決まってバランスを崩し、地面に落ちて転がった

り別の建物に突っ込んだりして、何れも動かなくなった。

「ふう・・・思ったよりも簡単に何とかできちゃってよかった」


 そのまま建物の屋上を伝い、邪魔をしてくる飛行物体を退けながら強大な魔力の発生源を目

指して進んで行く。すると、周囲に建物の無い開けた場所に着いた。そこには何れの物体も見

当たらなかった。そしてそこに、母ライムが待ち構えるように立っていた。

「セイムちゃん、戦う気にはなった?」

 セイムが地上に降り立つや否や問い掛けてくる。

「・・・・・・私は」

「まあ、なってなくてももう・・・待ってあげないけどね!」

 いきなり真っ直ぐ突っ込んできたライムの右腕に大口を開けた巨大な獣が出現する。

「!!」

 セイムは突然の事に驚きながらも、振り下ろされた牙を寸前の所で回避する。それも束の間、

今度は巨大な壁が差し迫ってくる。

「これくらいなら!」

 セイムは拳を握り締め、帯を巻きつけ、迫り来る壁を打ち破らんと振るった。しかし、その

拳は壁に当たらなかった。

(実体が無い!?)

 擦り抜けた拳は、その先にあった何かに直撃した。

 頭も壁を擦り抜け、視界が開けたそこには、吹き飛ぶ母ライムの姿があった。

「え・・・?」

 ライムの身体が地面を転がる。

「ど・・・どうして!?」

 ライムはふらふらと立ち上がる。

「どうして?・・・なんて・・・まだ言ってるの?これは戦いなんだよ!」

 ライムが左腕を前方に伸ばすと同時に柱の様なものが真っ直ぐに伸びて来る。その柱はセイ

ムから見て正面より少し右に逸れていたため、思わず左へ回避すると、直ぐに巨大な球体が迫

り、咄嗟に拳を振るって迎い打つ。が、擦り抜けてしまう。

「また!?」

 すかを食ったセイムの身体は一瞬無防備になってしまう。次の瞬間、球体の内側に入り視界

の効かないセイムの腹部に突き上げるような鋭い一撃が加えられ、後方へ吹き飛んだ。

「かはっ!げほっげほっ!はぁ・・・はぁ・・・」

「これは戦い。親だの子だのなんて関係ない。企て陥れる者とそれを挫き守る者との戦いなん

だよ!」

 未だに立ち上がれないで居るセイムの目の前に立ち、見下ろす。

「セイムちゃん、戦って・・・強くなって!・・・いつか、私や友達、世界の誰かが間違った道を歩

んでしまった時、その人をその力で止めて正して上げられるように!そんな、強くて優しい人

になって欲しいの!!」

「ママ・・・!!」

 初めてだった。母ライムは見た目も自分とよく、似ていて性格もいつも明るくて元気で、自

由で、あれをしろこれをしろとか全然言わなくて、いつでもどこでも楽しそうで幸せそうで、

素敵な人。そんなママが初めて自分に対する望みを口にした。正直な気持ち、嬉しかった。い

つも笑顔のママがこんなにも真剣な顔をして私を見てくれているのだ。

 セイムはゆっくりと立ち上がる。

「私・・・もっと強くなりたい!」

「セイムちゃん・・・うん!だったら物にして!進化の魔法を!この力は己の全てを強化する事。

腕や脚だけじゃなくて、身体の内側も外側も精神も、つまりは『自分』というものを強化する

事だよ!さあ、セイムちゃん・・・セイムちゃんの『形』を見せて!!」

「・・・『自分』を強化する・・・・・・」

 今まで自分が使ってきた強化魔法は、外側に纏うものばかりだった。それを内側にも、精神

にまでも及ぼす・・・・・・『自分』というものを強化する・・・『自分』・・・『自分』とは一体何なの

だろう・・・・・・

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