仲直り
未だ戦いの傷が癒えていないセイムだったが、シュリだけを伴い、ヒサメと三度対峙してい
た。無論、戦おうと言うのではない。その目的は、
「ミーニちゃんが無事に目を覚ましたよ」
「・・・そうか。・・・お前まさか、それを伝えるために来たのか?」
「うん。ミーニちゃんがどうしても伝えて欲しいって」
ミーニの身体は、普通に声を出すだけでも激痛が奔るほどボロボロだった。そのミーニが必
死に声を絞り出して、真っ先にお願いしてきた事がそれだった。
「あの仔兎め・・・自分のほうが辛かろうに・・・」
そう呟きながら優しい微笑みを浮かべる。
「正直に言って助かる。今、一番欲しかった情報だ、感謝するぞ」
シツライは確かに身体の傷も酷いものだが、それ以上にミーニの事で心を痛めていた。その
生死を心配し、全く眠れて居ない状態だったのだ。そのミーニが無事に生きていることを知れ
ばシツライも少しは安心して眠る事が出来るようになるだろう。
「・・・ねえ、ヒサメちゃん」
「ん?何だ」
やはり様子が変だ。対峙した時からそうだったが、今のセイムにはいつもの元気な感じが無
く、随分と大人しい口調だ。身体の怪我の影響かとも思ったが、それとも違う気がする。
「・・・次は、本気で戦ってくれる?」
「・・・・・・」
「分かるよ・・・二回も戦ったんだから・・・」
ヒサメは他の二人とは違い、殆ど技らしい技を使って来なかった。まるで力を試し、確かめ
るように。力だって、恐らくはまだ隠しているだろう。セイムはその事がずっと引っ掛かって
いたのだ。
「ハッハッハ!流石にバレていたか!」
「・・・どうして本気で戦ってくれないの?・・・私が・・・弱いから?」
「その通りだ。セイム、お前は弱い!まだまだ弱いんだよ!!」
「!!」
ヒサメははっきりと大声で言い放った。
「分かっているか?お前たち『勇者』は近く、『魔王』と対峙し、それを打ち倒さねばならん
のだぞ!」
「魔王・・・?グリムさんを・・・倒す?」
「そうだ。それがお前たち『勇者』に選ばれた者の宿命だ!!・・・だが、今のお前たちが魔王と
戦い、勝てる可能性はゼロだ!」
「・・・・・・」
その事はセイムにも分かっていた。『魔王グリム』セイムたち狐の魔獣たちの長であり、先
代の魔王を打ち倒して自らが魔王となった、成り上がりの魔王。それまでにしてきた努力の量
も質も、元々持っている才能も測り知れない。まともに戦って勝てるなど、考えた事も無かっ
た。だって、最初から勝てないと分かっていたから。
「我等はそんな未熟で弱い勇者共を鍛える事が目的だ。本気を出して潰す事が目的ではないの
だ。故に我は本気を出さなかった・・・と言う事だ」
「どうして・・・戦わなきゃいけないの?」
「それは、直接本人から訊くんだな。お前たちが今出来ることは、少しでも力をつける事だ。
精進するんだな」
ヒサメはそれだけ言うと、背を向け立ち去って行った。
ミーニは身体を少し動かすだけでも激痛が奔るため、普段は寝たきりの状態で過ごす。何か
する場合には、とても助けが無くては生活できないので、その手助けを学校の先生で忙しい母
親に代わり、ハワーが付きっ切りでしている。
「ミーニちゃん、ゆっくり・・・ゆっくりね」
食事の時間、ハワーがミーニの身体を全身を使って支えながら、極力痛みが発生しないよう
にゆっくりと身体を起こす。
「ん・・・くっ!」
ミーニは顔をしかめながら体勢を整える。
「ありがとう、お姉ちゃん」
痛まないように小声で感謝の言葉を口にする。
「さ、ごはんだよ!ゆっくりかんでたべようね!」
ハワーはそのままミーニの背もたれの代わりとなり、ミーニはゆっくりと食べ始める。
「おいしい?」
「・・・うん、おいしいよ」
「そっか!・・・おねえちゃんもたべていい?」
「だめ」
笑顔を交わしながら自分のペースでゆっくりと食べ進めて行く。
その様子は微笑ましいものであったが、ただ一人、メルリアだけはその様子を聞きながら思
い悩んでいた。
結局、何一つ償う事ができていないばかりか、ミーニやその家族に対してもちゃんと謝罪が
できていなかったのである。
「わしはどうすれば・・・」
小さくそう呟くばかりだったそんなある日、メルリアがいつものように病室の中には気分的
に入れず、外で様子を伺いながら座り込んでいると、ハワーが病室から出てきた。ハワーはこ
ちらに気が付いたが、早足で直ぐに何処かへ行ってしまった。こんな事は今までに何度もあっ
た。いつもの事だ。そしていつものように小さく溜め息を付いて俯いた時だった。
「メルリアさん」
声が聞こえて来た。病室の中からだ。はっとして立ち上がったメルリアは、恐る恐るドアに
手を掛け少しだけ開いてその隙間から様子を伺う。そこから見えたミーニは横になったままこ
ちらを見ていた。
「メルリアさん、入ってきてください」
やはり痛みがあるのだろう、少し苦しそうな声だった。メルリアは慌てて中に入り、ベッド
の横の椅子に座った。
「やっと、おはなしできますね」
ミーニはか細い声で言うと笑顔を見せる。
「ミーニよ・・・わしは・・・!すまぬ!!」
「メルリアさん・・・ごめんなさい!!」
メルリアの謝罪の言葉を聞いて直ぐ、ミーニも謝罪の言葉を口にした。
「な、何故お主が謝るのじゃ!?」
「だってわたしが・・・自分でとびだしてこうなったのに・・・メルリアさんがわるいみたいにさせ
ちゃって、くるしめちゃってるから・・・本当にごめんなさい!!わたし・・・あれ以上きずついて
ほしくなくて・・・止めたくて・・・・・・」
ミーニは本当に申し訳無さそうに、自分のした事を重く捉えているようだった。
「それでも・・・それでもミーニよ、だからと言ってわしは、自分は悪くなかったのじゃと納得す
る事など出来ぬ。心優しいお主ならばこの気持ち、理解してくれよう」
「・・・はい」
「じゃからせめて、わしに償う機会をくれぬか?わしはお主のために何かをしなくては気が済
まぬのじゃ!」
必死に訴えるメルリアのその苦しみは、ミーニにも理解できた。
「メルリアさん・・・ぜひ、よろしくお願いします!お姉ちゃん、ずっと付いててくれてて、ちゃ
んと休めていないと思うんです・・・だからメルリアさん・・・」
「分かったのじゃ!わしに何でも言ってくれてよいぞ!」
「それでいいよね、お姉ちゃん」
メルリアが振り返ると、その全身は見えなかったが、開いたままのドアの横から長い耳だけ
がはみ出していた。
ミーニに呼びかけられたハワーはゆっくりと中に入ってきた。
「ハワー・・・・・・すまぬ!わしに償わせてくれぬか!」
あれからずっとメルリアに気が付いても一度も目も合わせようとせず、話もしなかったハワ
ーが口を開いた。
「メルリアちゃん・・・・・・がんばってたたかってくれたのに・・・わたしもごめんなさい!!」
ハワーは深々と頭を下げた。ハワーもまた、メルリアとどう接していいか分からず苦しんで
いたのだ。
「仲直り・・・だね!」
「ハワーよ・・・また、以前のようにお話してもよいかの?」
「・・・うん!いいよ!」
メルリアがハワーの笑顔を見たのは久しぶりだった。




