封印されしもの
「宿す力とはもしかして、ミカエル様のものなのですか!?」
伝説級の天使の力ならば確かに、生き返るくらいの力はありそうではある。
「『私のもの』という訳ではありません。正確には、『私の中に封じられている力』というべ
きでしょう」
「『封じる』・・・ですか?」
「そうです。私の中には、かつて天使と死神を統べていた存在の力そのものが封じられている
のです」
「な!?それってかなりやばい人の、やばい力なんじゃないんすか?」
かつての天使や死神は現代の者たちよりも強大な力を持っていたと聞く。その二種族を統べ
ていた存在は、更に強大な力を持っていたのだろう。その力を、未だ六、七歳の少女に宿して
もいいものなのだろうか?
「確かに。その者の力は至極強力であり、私も数多くの仲間の命を失う事となりました。そし
て倒しても尚、完全に消滅させる事が出来ず、その存在を最小まで削りに削って私の魂の内側
に封じ込める事で、再生及び復活を阻んでいるに過ぎません」
「それは幾らなんでも危険すぎるじゃろう!」
「そうですよ!ミカエル様でも封じるだけで精一杯なんですよ!?それをミーニちゃんに宿す
のは余りに危険が大き過ぎます!!下手したら復活だってしてしまうかもしれないじゃないで
すか!!」
そんな強大な存在が復活してしまうかもしれない危険を態々冒すわけにはいかない。それは
ミーニのためでもあり、世界のためでもある。
「うむ、中止じゃな!別の方法を考えるのじゃ!」
「待ちなさい。話は終わっていませんよ」
「そんな事を言われましても・・・」
「どの道、時間が無いのです。封印が解けるまでの時間が」
「え?」
「強大なる者、その名『クロノス』の封印はもう限界に来ています」
「嘘だろ・・・?」
また沢山の命が失われる事になるのは勘弁だ。
「もし・・・復活したら、何か打つ手はあるのですか?」
「そのためのこの五世界です。『クロノス』属する『神』という種族を払い除けるためにこの
共存世界エヴァー・ラストは構想される事となりました。数え切れぬ程の数存在している世界
の中から、未だに『神』による支配が成されていない、『神』という概念が存在していない世
界を見つけ出し、助け合う関係を築き上げ、対抗する力を相乗的に生み出そうとしたのです」
三人は突然の大き過ぎる話に言葉を失う。
「世界が交わり、種が交わり、知識が交わり、何れ誕生するであろう神を打ち倒す力を持つ者
『王』。今はまだ、その力は確立されていません」
「じゃ、じゃあ・・・結局、今復活されたら・・・」
「甚大な被害は免れないでしょう」
「!!」
「それを防ぐために今、賭けなければならないのです。この『時の神クロノス』の力を、同じ
く時の力を持つ存在たるその者に宿し、封印でなく同調させ、その力の全てをモノにしてもら
わねばならないのです」
「お・・・重過ぎるじゃろ・・・」
幼い少女が背負うには余りにも重過ぎる役割である。
「ほ、他の人じゃ駄目なのか!?」
「先程も言ったように、クロノスは時の力を司る神。時の力に精通しない者では一瞬ですら封
印を維持するのは難しいでしょう」
「・・・確立は・・・成功する確率はどのくらいなのですか?」
「ラ・・・ラキエル・・・」
「私は『目覚め』を司る天使です。その力を行使するつもりですし、ヒイカが叶銃を使って支援して下さいます。ですので・・・百パーセント、確実に成功させます」
ミカエルの表情は真剣そのものであり、自信すら読み取る事が出来た。
病院。ミーニも、それを見守る親子の様子も変わっていない。ただ寄り添い、目覚める時を
信じて待ち続けていた。
「失礼します」
ミカエルはその様子を見ても一瞬たりとも立ち止まらず、ずかずかと病室へ入って行く。
「な、何なんですか!?あなたは!?」
母親であるデイが突然の訪問者に警戒する。
「これから『御魂遷し』を行います。ご家族の方々、ご理解願います」
「あ、あの!デイ先生、ハワーさん、これからミーニさんを目覚めさせるための・・・儀式をしま
す!なので・・・・・・少し離れて頂いても宜しいでしょうか・・・」
だれもちゃんとした説明をしなかった。反対されると思っての事だった。
ラキエルは言っていて心が張り裂けそうだった。詳しい説明もしないで、まるで二人を騙し
ているようで・・・とても苦しかった。
「ミーニちゃん・・・おきてくれるの?」
ハワーは母親にしがみ付き、不安そうな表情をただ浮かべる。
「大丈夫です、起きますよ」
ヒイカがその頭を優しく撫で、ヒイカとミカエルがミーニを挟み込む形で向かい合った。
「では、始めます」
ミカエルはそう言うなり、自分の胸の辺りに触れたと思うと、その手が体内へと入って行く。
「い!?」
突然の事に驚きと恐怖する声が上がる。しかし、ミカエルは気にも留めず、自信の体内に手
を突っ込んでなにやら掻き回す様にして探している。
血が出ていない辺り、身体そのものは傷ついてはいないのだろうが、とても見ていられるも
のでもない。たった一人、死神であるバンリだけは何をしているのかが見えていた。
(あの人・・・天使なのに魂をいじってやがる・・・!しかも、あんな・・・魂を粘土みたいに自由自在
に・・・!)
ミカエルの手は自分の魂を切り開き、中にあった玉の様なものを取り出すと、ぐちゃぐちゃ
になった魂を粘土のように捏ねて元の形に戻したのだ。
身体から引き抜いたミカエルの手にはしっかりと、その玉が握られていた。その玉は脈を打
つように光を強めたり弱めたりを繰り返している。
「そ、それをどうするんですか!?」
母親であるデイから不安の声が上がる。当然だろう。今のものを見せ付けられて、よもやそ
れを愛娘の中に入れられるだろう事など考えたく無い。だが、そんな想いとは裏腹にミカエル
は答える。
「この子に宿します。そうする事で『生』の力が増幅され、直に目覚めるでしょう」
「そんな簡単に・・・いくものなんですか?」
「行きません。なので、我々の力を使い、必ず成功させます」
そう宣言するミカエルの目を見たデイはそれ以上何も言わなかった。
「ヒイカ、準備はいいですね?」
「ミカエル様、少しだけお待ちを」
ヒイカは叶銃を構える。そして、
「我が信念・・・『より良き世界と未来を願い、心に響きし願いを叶える事なり!』“オーバード
ライブ!”」
詠唱と同時にヒイカの身体が光に包まれる。
「これは・・・!これが・・・天使の掲げる信念の先・・・『オーバードライブ』・・・!」
ラキエルは以前にミカエルから聞かされていた。だが、自分自身はまだそこに辿り着けてお
らず、見るのは初めてだった。
光が治まると、ヒイカは変化を遂げていた。
翼が四枚になっており、手にしている叶銃はより大きく形を変えていた。
「・・・ヒイカ、その力、遠慮なく頼りますよ」
「はい。元よりそのつもりです」
ミカエルは玉をミーニの胸元にそっと置く。すると、玉はゆっくりとミーニの体内へと沈ん
で行き、やがて見えなくなった。
「我が光。目覚めの光よ!」
ミカエルはその胸元に掌を置く。すると、ミーニの身体全体が光を帯び、ミーニの表情が苦
しそうに歪んだ。
「込めし大願は、健全なる魂と肉体の回帰。大願叶銃よ、その大いなる願いを今此処に叶えん!
『大願・成就!』」
ヒイカが銃の引き金を引く。ミーニの表情は更に苦悶の色を強くする。
「ミーニちゃん!」
ハワーは祈るように目を閉じる。それに続き皆も、同じように目を閉じ祈った。
そのままどれくらい経っただろうか?
「終わりましたよ」
ミカエルが疲れを帯びた声を発し、皆は漸く目を開けた。
「どう・・・なったの・・・?ミーニちゃん?」
ミーニはまだ眠っていた。ハワーが恐る恐るミーニに近寄りそして、手を握る。その瞬間、
それに反応するようにミーニの手がハワーの手を微かに握り返したのだ。
「ミ、ミーニちゃん!!」
驚いたハワーはミーニの顔を覗き込む。
「・・・おねえちゃん・・・えへへ・・・」
僅かに目を開け、笑った。消え入りそうな程小さな、空気が抜けただけのような音だったが、
ハワーの大きな耳は確実に、一言一句漏らす事無く聴き取った。
「ミーニちゃん!!」
ハワーは思わず抱き付いた。




