再戦
暦では早、夏を迎えていた頃、待ちに待ったこの日、この時がやって来た。
「・・・来たな・・・。エンジュ!シツライ!・・・行くぞ」
「・・・うん!」
「・・・・・・」
三人の表情が険しくなる。この世界への侵入者を感じ取ったのだ。それは、魔獣族であり、
魔力を感じ取ることができるウインターもまた、同様に気が付いていた。
「行くのですね・・・」
「当然だ。待望の勇者共がやって来たのだからな」
「・・・バンリ様・・・」
その中にバンリが居るのかまでは分からない。もし居るのならば・・・。ウインターは気が気で
なかった。
「ウインター。もしも中にバンリとやらが居たとしても、我等は容赦はしないぞ。今度こそ、
殺してしまうかもしれん」
「・・・分かっています。・・・バンリ様が再びここを訪れたのであればそれは、バンリ様も覚悟を
お決めになられのだと・・・言う事なのでしょうから・・・」
本当は居て欲しくなかった。この三人の力は計り知れない。幾ら覚悟を決めようが、他の皆
がこの半年程で強くなっていようが、そう簡単に力の差が埋まるとは思えない。むしろ、変に
本気を出させてしまう事にでもなれば・・・・・・考えたくは無いが、「全滅」も十分に考えられる
のだから・・・。
「お前たちは戦いの場に来るんじゃないぞ」
「待って!」
向かう三人の前に、小さな身体を目一杯大きく広げてミーニが立ち塞ぐ。
「何だ」
その眼はいつもの明るくて楽しそうなもとは全く違っていた。纏っている雰囲気こそ、意味
は違えど楽しそうだったが、その眼はまさに戦いに向かう者の眼だった。
「どうして・・・たたかわないといけないんですか・・・?」
「あいつらが『勇者』だからだ」
「『ゆうしゃ』ってなんなんですか!?」
「・・・我等を倒す者だ」
「!?」
ミーニにはその言葉の意味を理解できなかった。どう捉えればいいのか分からなかった。
ヒサメはそれだけ言うと、呆然としているミーニを軽く押し退け、歩き出す。エンジュも迷
わずそれに続く。
「行ってくるね」
不安そうな表情を浮かべるミーニの頭を、そうの不安を少しでも取り除こうとしてあげよう
としてくれたのだろう、シツライは擦れ違いざまに優しく撫で、笑顔を向けてくれた。
やって来たのは六人だった。あの時は八人で、こちらにウインターが居るので、一人少なく
なったという事になる。だが一人くらい、ヒサメにはどうでもよかった。
「よくぞ再びやって来た。時を経た分、当然楽しませてくれるのだろうな?」
「・・・今度は、負けないつもりだよ」
ヒサメの前に立ちはだかったのは、セイムともう一人、もう一羽の兎。
「ほう。兎っ子、お前も戦うのか?」
「わたしにも・・・できることあるもん!」
その表情は、怯えもあるが、真剣のようだ。
「そうか。覚悟があるのならよし。・・・ならば、お前たちによりやる気を出してもらうために一
つ、良い事を教えてやる」
「いい・・・事?」
「もう一羽の兎は我等が預かっている」
「え・・・!?ミーニちゃんがここに!?ミーニちゃんがいきてるの!?」
「ああ。五体満足で元気にしている・・・今は、な」
「あ、ああ・・・ミーニちゃん・・・ミーニちゃん・・・!」
ハワーは、ミーニは既に死んでしまったのだと思っていた。それが生きていた。ハワーの目
に涙が込み上げてきた。
「その涙、生きていると知っただけで満足したか?ならば帰れ」
「かえらない!・・・ちゃんと・・・かえしてもらうもん!」
ハワーは涙を貯えていた目を拭うと、再び真剣な顔に戻った。
「ならば我等を倒してみよ!力で取り戻してみるがいい!」
「セイムちゃん・・・ちからをかして!!」
「うん・・・絶対勝つから!」
「ワンコちゃんに・・・バンリちゃん、だったよね?」
エンジュの前にはこの二人が立ちはだかる。死神族の狸っ子。バンリの事はウインターから
聞いて知っている。以前のあの時、慄いて護られた子供だ。
「戦うの、怖くないの?」
「そりゃ怖えよ・・・。あんたたちがすげえ強えってのは知ってるし、戦わずにすむのなら・・・そ
の方がいい・・・」
バンリは少し震えていた。
「でも、戦うんだね?」
「ああ・・・。復讐がしたいわけでもない。ましてや、異変を治めたいわけでもねえ・・・。自分が、
あたしがそうしたいから戦うんだ!」
自分自身を鼓舞するように声を荒げる。
エンジュはウインターの事を話さなかった。このバンリと言う子の決めた覚悟を無碍にして
しまう、踏みにじってしまう気がしたから。
「今度は、本当に死んじゃうかもしれないよ?」
「自分がさせません」
ワンコがその言葉を遮るように立つ。
「勿論、自分も死ぬ気はありません」
「そう・・・じゃあ、死なないように頑張ってね」
「言われなくとも・・・死ぬ気で生き延びるさ!」
「また、竜の人・・・」
「メルリアじゃ。名乗ってなかったかのう?わしはお主を覚えておるぞ。シツライ、じゃろう?
先の戦いでは随分とビリビリしてくれたのう」
「どうだった?」
「うむ、刺激的な経験じゃった!」
メルリアは満開の笑顔で答える。その予想外の表情に、シツライもクスリと笑う。
「じゃあ、次はもっとビリビリする?」
シツライはどうだと言わんばかりに身体中をバチバチさせ始める。
「結構じゃ。変わりに今度はわしがお主に刺激をプレゼントなのじゃ!」
メルリアは変わりに魔力を漏らし、威嚇する。
「へぇ・・・楽しみ・・・」
シツライとメルリアが睨み合う。
対峙する三組から離れた位置に一人、シュリは全ての戦況が把握できる安全な場所で準備を
進めていた。
「あの人たちは強い・・・だけど、出し抜けるチャンスは必ずあるからねえ。後は私が如何にその
チャンスを追加で作れるかだねえ・・・。さて・・・新しい魔法、実戦で上手く成功させられるか・・・
成功させないとねえ!」
シュリは気取られないように陣は描かず、最小限の動きで自身に出来る準備を整えていく。
「勿論、切り札も忘れてないからねえ・・・」




