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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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それぞれの戦い

 小手調べと言わんばかりに次々と放たれる火の玉。真っ直ぐ向かってくるそれに対し、バン

リは既に炎に適応しているワンコを盾に隠れる。だが、エンジュには炎に質量を持たせる力が

ある事が分かっている。バンリは真っ白な鎌を出し、それをワンコに手渡すと、ワンコは飛ん

で来る火の玉を打ち払いながら前に進んで行く。

(あれは死神の鎌・・・狙いは一撃必殺の魂狩り・・・!)

 それだけは食らう訳にはいかない。でも直ぐには対処しない。向かってくるワンコをそのま

ま引き寄る。そしてやはり、射程範囲に踏み入ると、鎌を振るってきた。それをエンジュは硬

質化させた炎で受け止め、一気に炎を噴出させる。

硬炎獣こうえんじゅう火熊ひぐま!」

 ワンコは爆発的に広がってくる硬い炎に押し飛ばされてしまう。体勢を崩したワンコの上か

ら、形を整えた炎の熊がその腕を振り下ろす。

「んぐっ!」

 その鋭い爪を辛うじて鎌の柄で受け止めるが、とても堪えきれず、後方へ吹き飛ばされてし

まう。

「あれが・・・あの人の炎か・・・!」

「気をつけて下さい・・・かなりの強度と、力もあります!」

 熊は四肢を突き、こちらへ向かって来ている。

「ワンコさん!」

「はい!」

 バンリはワンコから真っ白の鎌を受け取ると、もう一つ、青白い鎌を手にする。

「死神掲げし『使命の鎌』よ、個、掲げし『あたしの鎌』よ、己が魂に誓いし正義を以って、

一つと成す!」

 『正義』師匠カテドールに言われてずっと考えていた。ここで言っている正義とは、世にと

っての正義ではなく、自分の中の正義。そんな大そうなもの、若干十一歳のバンリには思い当

たらなかった。そんな唸り悩むバンリに、師匠は言葉を掛けた。

 自分にも決まった正義など無い。正義とは不安定で、その時々で移り変わるもの。故に正義

とは・・・

「己を偽らない事!今、あたしがやりたい事が、あたしの正義だ!!『リザリューション!』」

 バンリが二つの鎌を重ねると、鎌は強い光を放ち始める。そこへ再び、熊がその豪腕を振る

う。バンリは逃げず、むしろ立ち向かう。

「魂の・・・大盾!」

 突然、巨大な盾が現れた。真っ白でも青白でもない、何か、狸のような紋様が描かれたその

盾は、熊の豪腕を完全に受け止めていた。

 二発、三発と熊は幾度と盾を殴りつけるが、盾は傷一つつかず、盾を持つバンリを押し込め

る事も敵わなかった。

「へえ・・・すごいね。その小さな身体で受けきるんだ」

「小さな身体って・・・あんたには言われたくないんだが・・・な!」

 バンリはワンコと盾の後ろで顔を見合わせてタイミングを取り、思い切りに後方へ飛び退い

た。ワンコは熊の脇を抜け、一気にエンジュに飛び掛った。

「!!」

 エンジュは慌てて炎を腕に纏い、その攻撃を防ぐ。

「氷の刃・・・!」

 ワンコの手の先から剣のように鋭い氷が伸びていた。

「氷も使えるように・・・なったんだね・・・!」

「はい・・・お陰様で」

 しばし競り合うと、ワンコの方が先に距離を取った。その瞬間、突然として青白い光の玉が

目の前に現れた。こちらへ向かっているそれを、エンジュは炎を纏った腕で払い除ける。と、

「あ、う!?」

 一瞬、意識が遠退き、身体がふら付く。

「氷の大槌!」

 その隙を突き、新たに造り出した巨大な氷の柱をフルスイングした。

 小柄なエンジュの身体はボールのように弾き飛ばされた。それでもエンジュは上手く身体を

翻し、足で着地した。

「く、うう・・・。銃・・・あんなのにもなるんだ・・・」

 バンリの手には、今度は銃が握られていた。恐らく、先程の青白い球があの銃の弾丸なのだ

ろう。だがどういうことか、連続して撃って来ない。

「バンリさん、もう一度撃ちますか?」

「いや、止めとく。この銃、撃つの疲れるんすよ。撃つなら確実に当てたいし、接近戦しなが

ら機を伺おう」

 バンリの鎌は様々な形に姿を変えることが出来る。勿論、飛び道具にもできるのだが、撃ち

出す弾までは補ってくれない。その弾となるのが、「強い想い」であり、つまりは魂の力を弾

として込めなければならない。だから疲れる。それを込めるのにもある程度の時間を要すると

いう、正直に言って使い勝手が悪い形態なのだ。とは言え、魂の弾丸を魂を持つ者に当てれば、

その魂を揺さ振り、意識に直接影響を及ぼす事ができるという強さもあるのだ。

 バンリは一旦、鎌の形に戻し、ワンコと共にエンジュへと向かって行く。

(もう、あの鎌の攻撃を受ける訳には行かない!)

 接近戦は都合が悪いと判断したエンジュは、

「盛り猛りて姿成せ、あらゆるを喰らいし獣!」

「な!?」

「離れて!!」

 エンジュを中心に、広範囲に亘り炎が噴き出し、バンリとワンコは進行を止め、安全な場所

まで後退した。

 その炎はどんどん燃え上がり、巨大に形を成して行く。

硬炎幻獣こうえんげんじゅう数多ノ大蛇あまたのおろち!」

 そこに現れたのは、無数の蛇の頭を持った化け物だった。


「・・・雷槍!」

「竜拳!」

 互いに一歩、大地を蹴飛ばし、雷の槍と竜の拳が真正面から衝突する。

「ん・・・!」

 雷の槍は確かに拳に接触している。だが、メルリアにビリビリしている様子は無い。雷が流

れていないのか?それどころか雷を物ともしていないかのように拳を押し込んでくる。

 このままでは危険だと過ぎったシツライは後方へ跳び、距離を取ろうとするが、メルリアは

ぴったりと張り付き、更に拳を振るってくる。

 その瞬間、メルリアの着物の袖からちらりと腕が見えた。それは普通の肌ではなかった。

「竜の腕・・・!」

 腕は緑色の鱗のようなものに覆われていた。

「気付いたかのう!」

 メルリアの振るう拳を二本の雷の槍で迎え撃つが、やはり雷は流れていないようだ。

「ふふふ・・・わしの鱗は雷を通さぬほど強靭なのじゃ!」

 人型の状態で自身本来の鱗を纏う「竜化」という、竜たちにとっては基本的な技術を、メル

リアは漸く会得したのだった。

 対応策は単純明快。鱗を纏っていない部分を攻撃するまでである。とは言え、メルリアは距

離を取らせてくれない。

「それだったら・・・!」

 シツライはメルリアの拳を素手で受け止め、押し合う体勢に持ち込んだ。

「力比べならば・・・負けぬぞ!」

 やはり竜の力は計り知れない。人工妖怪であるシツライにも、普通の人間を遥かに凌ぐ腕力

を持っているのだが、それを以ってしても何とか堪えるので精一杯だった。だが、堪えられれ

ばそれだけでよかった。

「は・・・は・・・ハッ・・・!」

 シツライの表情が間の抜けた表情に変わり、ゆっくりと口が大きくなって・・・

「ハックシンッ!!」

「むおおー!?」

 突如、口から雷が、竜のブレスの如く発射され、メルリアの顔面に降りかかった。

 身体中に雷が奔り、一瞬意識を薄れさせるも、何とか倒れず踏ん張った。ふら付いて視界が

天を仰いだその時、姿がそこに映った。

「落雷撃!」

 間一髪、落ちてきた雷を回避した。と同時に、メルリアは大きく息を吸い込んだ。

「キロブレス!」

「砕く雷・・・!」

 メルリアの吐いたブレスは、シツライの発した雷光とぶつかると、あっという間に掻き消さ

れてしまった。

「ぐぬう・・・やはりキロブレス程度では通用せぬか・・・」

 前回戦った時もそうだった。だが、これ以上のブレスを使うとなると、吸い込みに時間が掛

かってしまう。そうなれば、その間はただの的である。一対一のこの状況では使いようがない。

(仕方が無いのう・・・やはり近接で殴り勝つしかないかのう!)

 メルリアは解けてしまった竜化を再び両腕に施す。

「もう、そうはいかない・・・竜殺・・・雷槍!」

 シツライの手に再び槍が握られる。だがその槍をよく見ると、仄かに緑色の光を帯びている

ように見える。

「竜殺・・・もしや、あの時の・・・!」

 以前の戦いの時にも聞いた事がある。その後の一撃で倒されてしまうことになった、脅威の

力だ。

「そう。竜を殺す力・・・。これが私の『砕く雷』。触れた物や生物に対して特効を得る雷・・・」

 纏う緑の光はメルリアの鱗の色であり、特効を得た証なのだ。

「む、むう・・・これでは・・・」

 こうなってしまっては、安易に近付く事も出来ない。


 やはり、セイムは真っ直ぐに向かってきた。ヒサメはあの時のように壁を配置して行く手を

遮る。そしてセイムはその拳で氷の壁を破壊・・・する事はしなかった。セイムは強化魔法も纏わ

ず壁をかわし、飛び越えて向かってきたのだ。

「もう無闇に氷に触れたりはしないか・・・ならば、こういうのはどうだ?」

「っと!」

 ヒサメの周囲に幾つもの小さな雪玉が生成される。明らかに飛んでくるだろうそれらを警戒

し、足を止める。

 ヒサメの合図と共に、その雪玉は山なりに飛んできた。飛んでくる雪玉は結構ばらけていて

所々に回避できそうな抜け道が見えた。

 自身とヒサメとの間に壁は無い。一気に距離を詰めるチャンスだ。セイムは思い切って前進

する。その時、ヒサメが更なる合図をする。

「弾けろ、蜘蛛雪!」

 すると雪玉は一斉に爆発し、大気中に広がる。

「わわ!?」

 セイムは止まりきれず、その中に入ってしまう。そして直ぐに異変に気が付いた。

 身体中に雪が纏わり付いていたのである。その雪には何故か粘着性があり、網に捕らえられ

たかのように身動きが取れなくなってしまっていた。

「ま、まずいよこれ・・・!」

 何とか抜け出そうともがくが、全く切れる気配は無い。おまけにもがけばもがくほどに更に

纏わり付いてきて埒が明かない。

「少しは学んだかと思ったが・・・こんな簡単に捕えられるとは、どうやら気のせいだったみたい

だな」

 ヒサメは少し残念そうな表情を浮かべる。

「まだ終わってない!リンゲ・フェアシュテルカ!リンゲ・フェアシュテルカ!リンゲ・フェ

アシュテルカ!!」

 セイムは腕や足など、身体のあちこちに輪状の魔法陣を纏わせていく。

「何かしようとしている様だが、許すと思っているのか!」

 完全に無防備なセイムに対し、鋭く尖った針のような氷を無数に放つ。強化魔法を纏うこと

に集中していたセイムには障壁を張る余裕など無かった。

 が、突如として魔法陣・・・のような何かが遮るように出現する。氷の針は次々とその陣に直撃

して行く。だが、どうにも様子がおかしい。

 というのも、あの魔法陣は恐らくだが、もう一羽の兎が作り出したものだからだ。あの仔兎

が無数の氷の針を全て受け止められる程の強固な障壁を張れるとは思えない。

「時の力か・・・!」

 それならばとヒサメは、今度は陣に掛からないセイムの頭上に針を生成する。

「降り注げ!アイス・レーゲン!」

 再び針が雨のように降り注ぐ。

「パージ!!」

 準備を整え終わっていたセイムは、身体中に施した強化魔法を一斉に弾けさせ、纏わり付い

ている雪を吹き飛ばした。だが、針を安全圏まで回避するには「時間」が足りない。

「タイム・アクセル!」

 セイムは寸前の所で、まるで転移したかのような速さで見事に逃げ切った。

「あ・・・危なかったぁ・・・ありがとね、ハワーちゃん!」

「うん!まだまだがんばるよ!」

「チッ・・・あれがあの兎の力か・・・加速と減速・・・速度操作か、厄介だな・・・」

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