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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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三姉妹になった日(後編)

 それから時は流れた。一度は壊滅寸前まで追いやられた人間たちだったが、以前と遜色ない

ほどにまで立ち直り、「国」という概念が生まれていた。「国」とは人間の縄張りであり、同

じ思想を持つ者たちが集まって作った集団で、それは幾つも存在していた。そして人間は、何

時しか人間同士でいがみ合うようになっていた。その結果、自分の国を護り、他を攻めるため

の手段として、再びあの「兵器」へと手を伸ばすまでに至っていた。


 そんな幾つもの国が睨み合う中で一箇所だけ、中立を名乗る国があった。幾つもある国の中

で、最も北に設立された国「アレマーズ」。その国は兵器の開発・量産を生業とし、他国から

脅威とされていたが、大々的に中立を宣言し、その宣言通り、他国といざこざを起こした事は

何十年もの間一度もなかった。

 アレマーズは造った兵器を他国へ分け隔てなく売り、金を得ていた。兵器を作るだけなら他

の国でも出来るが、アレマーズは他国には作れないほど強力で使い勝手のいい兵器を作り出し

て売ることで、他国に自国での兵器製造は割に合わないと思わせ、実質、この兵器で互いを牽

制し合う社会の頂点に君臨していた。

 そしてやはり、他国には売らず、存在すらも巧妙に隠した「裏の兵器」が存在した。

 ある時、とある国の武器庫が爆発炎上した。原因は整備不良。兵器の保管方法に何か問題が

あり、暴発してしまったのだろうという事だった。

 その後、他の幾つかの国でも事故はあった。だが、小規模のものばかりであったため、それ

程問題にはされなかった。何故事故が起きたのか、その真の理由が分かっていたのは「アレマ

ーズ」だけだった。

 事故が起きた国には共通点があったのだ。それは、密かにアレマーズに攻撃を仕掛けようと

していたという事だった。他国が思いつかない強力な兵器を次から次へと生み出すアレマーズ

は、やはり不安の種だと思う国は多かった。それを知り得たアレマーズは、「裏の兵器」を使

い、攻める力たる兵器を破壊していたのである。

 その事に他の国は全く気が付いていなかった。それ程までにアレマーズの「裏の兵器」は隠

匿するに易し、使い勝手もよかったのだ。

 そんな「裏の兵器」を創ってまで成し遂げたい野望がアレマーズにはあった。それは、全て

の国を統一する事。自分たちの創り出した兵器で他の国を屈服させる事に意義があった。

 その要となるのが、『人工妖怪』である。人の身でありながら、妖怪のように自然の力を操

る事が出来る、強大な力を持つ妖怪を仲間に出来ないかと言う発想から生まれた兵器である。

素体が人間であるため、本質は人間と変わらない。人間と同じように話し、物を食べ、成長す

る、見た目では判別できないほど精巧な出来だった。

 長年行われて来た研究であったが、成功例は極めて少なく、確実に成功させる方法は未だに

確立されていなかった。それでも五人の人工妖怪を生み出す事に成功していた。

 その中の一人、最年少であり、「電気」を操る力を持った黒髪の幼い少女が居た。その子の

力は未だに不安定で、いつもバチバチしていた。少し喋るだけで口からバチバチが飛び出し、

くしゃみをしようものなら、直線状にいる人に漏れなく命の危険をもたらした。そのため、施

設の外へ出してもらえず、部屋でいつも一人だった。唯一の友達は、いつも漏れ出している電

気を無駄にしないために作られた、蓄電のできる兎のぬいぐるみだけだった。どれだけお喋り

してバチバチをぶつけても逃げない、嫌がらない。ずっと抱きかかえ、一緒に居た。

 そんな少女にも外に出してもらえる時があった。その時は決まって他の国に連れて行ってく

れた。そこで言われた通りにバチバチさせるだけで褒められた。そんな生活の中、行ったとあ

る国で、生まれて初めて本物の兎を見た。ぬいぐるみとは違い、動いていた。本当にぴょんぴ

ょんと跳ねるし、ぬいぐるみよりももふもふしてるし、身体はじっとして動かないのに、口だ

けは忙しく動かしている様がたまらなく可愛かった。本当なら触ったり、抱いたりもしてみた

かったが、それ以上に傷つけたくないという想いが強く、見ているだけで我慢した。でも、も

しちゃんとこのバチバチが抑えられるようになったら、その時はまた連れてきてもらおう。少

女は一つ、夢を見つけた。

 だがそんなある日、野望達成へ向けた第一歩となる作戦が告げられる。それは、とある国の

陥落である。とある国、それはあの兎たちのいる国だった。その国を攻撃し、破壊しろと言う

のだ。少女にとって、国を破壊する事自体はどうでもよかった。だが、兎は、あの兎たちだけ

は別だった。あの兎たちは夢であり、希望なのだ。少女は葛藤した。言う事を聞かなければ怒

られてしまう。でも、兎さんたちを傷つけるのだけはしたくない。考えに考えた少女は、抗議

する事にした。どうしてあそこなのか、兎さんたちだけは助けてくれないか、と。だが、幾ら

抗議しようとも、所詮は子供。誰も聞く耳を持ってくれず、どうする事も出来なかった。

 絶望した少女は、兎たちを護るために思い切った行動に出る。


 作戦決行の前日。アレマーズは国中が混乱する事態に陥っていた。国中が停電していたのだ。

これにより、軍の重要な施設も多大な被害を被り、翌日に控えた作戦は中止せざるを得なくな

ってしまった。となれば少女の思い通りだったのだが・・・。

 作戦の要は飽く迄も「人工妖怪」であり、別の兵器が使えなくなったとしても、作戦の遂行

に大した影響は無く、むしろ、大規模な停電をしていたという事実を生かし、国を攻撃したの

はアレマーズではないと言い逃れできるではないか!と言う事で、益々作戦実行への士気を高

める結果となってしまっていた。

 だからといって、停電の原因をそのままにしておく訳にはいかない。アレマーズ全土の電気

を管理する発電所に調査に来た者たちに少女は見つかってしまう。

 少女は発電された電気を全てその身に取り込み続けていた。そんな事をすれば身体が持たな

いと忠告され、怒られても少女は止めなかった。言う事を聞かない少女を、少女を止める事が

出来ない者たちを見兼ねて、ついに、少女と同じ人工妖怪が目の前に立ちはだかった。

 人工妖怪としては一番年上の兄に当たる存在であり、炎を操る人工妖怪。何時だったか、名

前を聞いたことはあったが、それも随分と前の事でよく覚えていない。覚えているのは、不機

嫌そうな怖い顔と、強い口調。睨まれただけで少女は身体が震えた。

「何が目的だ?こんな事をして、子供だから許してもらえると思うな・・・貴様に然るべき罰を与

えねばな・・・」

 「罰」。少女は恐れ戦いた。そしてその恐怖心は、男が炎を発生させた事で振り切れ、少女

に覚悟を決めさせる事になった。

  戦うしかない

         」

 自分自身、自分の想うものの全てを護るために。


 本来なら勝てる相手ではなかった。だが、大量の電気を蓄えた今の少女の力は、その男も、

少女自身ですら予想の範疇を超えていた。

 たった一度の放電。それだけで、その男を、集まっていた人々を、発電所の敷地ごと吹き飛

ばしてしまったのである。

 罪悪感はあった。だがそれ以上に、この力があれば護る事が出来ると、少女は向かった。

 そこは、少女が生まれた、軍の兵器を製造している施設。兎さんたちを危険に晒す忌々しい

兵器を根本から破壊する気だった。

 そこでは残りの三人の人工妖怪たちが立ちはだかった。既に正気を失っているとされ、兵士

たちを伴って取り囲まれた。圧倒的な数の差。加えて、人工妖怪たちも、兵士たちも絶縁の服

を身に纏い、完全防備の状態。絶望的に不利な状況だった。

 だが、そんな少女にはたった一人、味方がいた。

 ずっと寝食を共にし、共に発電所の電気を喰らい、この絶望的な状況でも傍にいてくれる存

在。うさぎさん。少女はその内に蓄えられていた電力を全て取り込んだ。

 それは最早、電気などという生易しいものでは無かった。

 圧倒的なエネルギーを誇る、自然の驚異『雷』そのものだった。

 その力は、誰であろうと、何であろうと、引き裂き破壊した。

「うさちゃん・・・いままでありがとう・・・ごめんね・・・」

 少女の雷を受けたうさぎのぬいぐるみはバラバラになってしまっていた。かろうじて原型を

留めていた顔は、役目を終えたかのような、安らかな表情に見えた。

 声が聞こえて来る。それは切迫した声。少女を捜している、「敵」の声。

 少女は何かを感じ、空を見上げた。そこには巨大で真っ黒な雲があった。少女には理解でき

た。その力が、その使い方が。


「止まれ!エンジュ、これ以上は不味いぞ・・・!」

「お姉ちゃん、あれ・・・何なのかな・・・?」

 ヒサメとエンジュの二人は、先程から鳴り響いている轟音を不審に思い、様子を見に来てい

た。すると、空に見たことも無いほど黒く、分厚い雲が掛かっていた。その大きさはアレマー

ズの国全土を覆うほどの大きさだった。明らかに普通の雲ではない。危険な空気がひしひしと

伝わってくる。

 何が起こっているのか、原因をあれやこれやと考えていると突然、黒雲が光を放ち始めた。

光はどんどん強くなって行き、その下、地面までもがそれに呼応するかのように光を纏う。も

う、目を開けていられなかった。思わず目を閉じ、手で塞いだその時だった。


グオオオオオオオオオ!!!


 おぞましい、獣の咆哮のような音が、身体中を骨の髄から揺さ振る程の空振が辺り一帯を襲

った。

 状況を確認しようと目を開ける。するとそこには・・・

「何だ・・・あれは・・・!?」

 極大の光の柱が伸びていた。その光が治まった時、二人は言葉を失った。

 何故ならそこには、「何も」無かったのだ。

「これは・・・夢?」

「だといいがな・・・」

 人も、瓦礫も、大地すらも、そこに国など最初から無かったかのように消えていた。残され

ていたのは、巨大な穴だけ。と、その上空に明滅を繰り返しながら落ちて行く何かを視認する。

「!?・・・エンジュ!行くぞ!」

「え・・・う、うん!」

 ヒサメは氷の翼を背に作り、飛び出した。エンジュも慌ててそれに付いて行く。

 近付くに連れて、それが何なのかがはっきりと見えてくる。それは「人」しかも人間の少女

だった。

 ヒサメは慌てて受け止める。

「ぐぅ!おおお!?し、しびれるぅ!」

「お、お姉ちゃん!?落としたら駄目だからね!?」

 何とか地面に降り立ち、少女の容体を看る。

「ねえ、あなた、大丈夫?聞こえる?」

 返事は無い。だが、息はある。どうやら気を失っているだけのようだ。

「結構、疲弊してるみたいだな・・・ここじゃ何も出来ん。連れて帰るぞ!」


 二人は棲家に連れて帰ると、やわな人間の、しかも少女であるため、とにかく暖かくした。

何分、人間を看病するなど初めての経験だ。二人は少女が目を覚ますまでの間、気が気でなく、

碌に眠ってもいられなかった。

「よう、腹減ってるだろ?」

 知らない場所、知らない女性。パンを差し出されるが、信用できない。少女は警戒し、受け

取らなかった。が、ぐう~・・・。間の抜けた音が響く。その女はにやっと笑う。

「要らないなら食っちまお」

 その音を聞いていただろうに、女は大口を開けて食べようとする。

「た、たべる!」

「何だ、喋れるじゃないか」

 少女は半ば奪い取るように手にすると、少しずつ、少しずつ、小動物のように食べ進めて行

く。その間、女は楽しそうな笑顔でその様子を眺めていた。

「なあお前、自分がした事覚えてるか?」

「・・・かみなりおとした」

「それだけか?」

「・・・・・・だけ」

 少女が気を失う直前の記憶。黒雲の持つ雷に自身を引き寄せさせ、その中へ入り、黒雲の膨

大な雷を操って大地に落とした。その瞬間から記憶が無かった。

「そうか・・・そうかあ・・・う~ん・・・・・・」

 ヒサメは迷った。本当の事を言うべきかと。だが、国自体が無くなってしまったという事実

を知ったら、こんな小さな子供だ、どうにかなってしまうのではないか?

「エンジュ!エンジュ!」

「どうしたの?お姉ちゃん」

 青髪の女は、新たに現れた赤髪の小さな子と何やらひそひそと話し始めた。

「ねえ・・・どうなったの?」

 少女の口から真実を求める言葉が発せられた。二人は互いに頷くと、エンジュが対応する。

「あなたは・・・自分の国は好き?」

「・・・きらい」

「どうして?」

「うさちゃん・・・いじめようとするから・・・」

「そっか・・・その国ね、無くなったよ」

「?」

 少女は首を傾げた。驚いている訳でもなく、恐らくは理解できていないのだろう。

「我らが潰してやったのだ。この北の大妖怪たるヒサメ様の近所で、随分と目に余る事をして

いたのでな」

「そうなんだよ。あなたが雷を落として、国中が混乱してたからね、その機に乗じて一暴れし

て壊しちゃったの。ごめんね?」

「・・・・・・そう、なんだ・・・・・・」

 何となく分かった。この二人は、何となくだけど、そんな事をする人たちではない気がする。

国が無くなった。それは多分、自分がやった事なのだろう。

「みんな・・・?」

「ああ、誰一人として居なくなった。少しばかり張り切りすぎたかもなあ!はっはっは!」

 青髪の人はまるで、悪者のように笑う。

「おうち・・・なくなっちゃった・・・これからどうしよう・・・」

「行きたい所があれば連れて行ってやる。・・・無いのなら、此処にいればいい。どうする?」

 行きたい所・・・うさぎさんの居るあの場所なら行きたい。でも・・・自分はもう、一人。誰も自

分を知っている人はいない・・・この人たち意外は。

「ここに・・・いる・・・」

「わあ・・・!」

 そう呟いた瞬間、赤髪の人に抱き付かれた。

「妹だ~!ねえねえお姉ちゃん!私にも妹ができたよ!」

「ああ、そうだな!と、名前、聞いてもいいか?ちなみに我は北の大妖怪のヒサメだ」

「私はエンジュ!よろしくねえ~!」

「わたしは・・・・・・」

 少女は名前を口にしなかった。名前が無かったわけではない。その名前は大嫌いな国での名

前で、それをずっと名乗りたくなかった。

「そうか・・・それでは我が考えてやろう!この北の大妖怪様が直々になあ!」

「お姉ちゃん、可愛いのにし・・・」

「シツライ!だ!」

 一瞬だった。考えたと言うより、思いつきで口にした感じだった。

「激しい雷を意味する言葉『疾雷』!まさにぴったりだな!」

「・・・・・・」

 エンジュは無言、無表情だった。

「それが・・・いい」

「よろしくね~!シツライちゃん!」

 少女がそう言うと、エンジュは再び笑顔になり、抱き締める。

「え、エンジュ・・・お前、無表情だと怖えよ・・・。寒気がしたぜ・・・」

 こうして三人は姉妹となり、面白楽しい日々が始まったのだった。

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