今すべき事
ら、それらしい物はその直後に目に付いた。小奇麗な勉強机の上に、飛ばないようにと重し
が乗せられた手紙がそこにはあった。しかも、表紙には御丁寧に「ミーニより」と書かれてい
るではないか。
「・・・・・・おい」
「・・・いえ、まだ分かりませんよ。これはミーニさんが過去に書いたもので、ハワーさんが寂し
さのあまり引っ張り出してきたのかもしれません」
二人はとにかく中を確かめてみる事にする。そこにはこう書かれていた。
【どうしても心配なので、かってに付いて行きます。帰りもかってに付いて帰るつもりです。
かってなことをしてごめんなさい。 ミーニ 】
「おい・・・これ!」
「まさしく、ですかね?」
「ハワー!お前、これ読んだのか!?」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、先程まで何の反応もしなかったハワーが動きを見せた。
「とにかく読んでみろ!」
未だに虚ろな顔をしているハワーの視界に、その手紙を突き付ける。それを見たハワーの反
応は顕著だった。
「・・・!これ・・・ミーニちゃんのじ・・・!!」
気が付くと同時にバンリの手から奪い取り、目を見開いて手紙を読み始めた。
「ハワーさん、この手紙の事は知ってましたか?」
「・・・しらない・・・はじめてみたよ・・・」
「は、初めてって・・・ここお前の部屋だろ!?何でお前が知らないんだよ!」
「だ、だってえ・・・」
ハワーは本当に知らなかった。それは、部屋が綺麗な事にも関係していた。
そもそも、ハワーが自室に居る時間は非常に短かったのだ。毎日寝る前まで他の人の部屋を
訪ねては遊んだり話をしたりして、眠たくなったら部屋に帰って寝る。それを繰り返している
ため、ハワーは自分の部屋では寝る以外の事はほぼしていなかったのだ。
「二人共、それよりも今はミーニさんの事ですよ!この『付いていく』っていうのはつまり」
「あの世界にミーニも来てたって事だな」
「あのばしょにミーニちゃんが・・・?」
「そして恐らくは、ミーニさんはまだあの世界に居る・・・」
「え?かえってこれなかったってこと!?」
「そうとしか考えられんな」
あれからもう十日程も経過してしまっている。あの世界に食べる物はあるのか、ちゃんと生
き延びる事が出来ているのか。何せ、あの場所には大妖怪を含む三人が居るのだ。所在が分か
った所で、不安は大きくなる一方だ。
「はやくむかえにいかなきゃ!」
「そうだな。まずはシュリさんに話をしないとな!」
「待ちなさい!」
急ぎ駆け出そうとした所を呼び止めたのは、カリナだった。
「あなた達はまた、行くつもりですか?」
「そ、それは・・・・・・」
「いかなきゃなんだよ!」
危険だと言う事はよく分かっている。それでも居ても立っても居られない状況なのだ。
「何も、あなた達が行く必要は無いと思いませんか?」
「それは・・・そうかもだけど・・・」
「私とスターシャが行きましょう」
「え!?」
三人は顔を見合わせ、納得したように頷いた。
「ミーニちゃんをおねがいします!」
「まずは、シュリさんに説明に行きましょう!それは私たちにさせて下さい」
「ええ、では行きましょう」
「えと、ミーニちゃんがまだあっちにいてね、だからカリナちゃんにいってもらうの!」
察しのいいシュリは、その言葉と訴えるハワーの表情からある程度の状況の予測は出来てい
たが、やはり確信を得るためには正確な言葉が欲しかった。
「えっと・・・ラキエルちゃん、お願いできるかねえ」
「はい。ミーニさんは私たちがあちらの世界に向かう際、隠れて付いて来ていた様でして、そ
こから帰りそびれてしまったみたいなんです」
ミーニが書いたという手紙も確認し、状況を理解した。
「そっか、隠れて・・・ねえ。ミーニちゃんの能力ってそんなだったかねえ?」
「ミーニちゃんのは『きりとる』ちからだよ!」
「『時間を切り取る』ねえ・・・詳しい事は分からないけど、そう言う事ができるって事かねえ・・・
よし!」
シュリは鈴を取り出し、転移魔法陣を開いた。
「それでは・・・」
カリナとスターシャが魔法陣に触れた瞬間、
「つ!?」
バチィ!と弾かれてしまった。
「これは・・・通れないようですね」
「?どうしてかねえ・・・」
シュリは展開した魔法陣に触れてみる。
「ん・・・?」
シュリの手は弾かれなかった。
「シュリさんは普通に通れるみたいですね」
「何でカリナさんは通れねえんだ?」
「ねんれいとかかなあ?」
「ハワーさん、怒りますよ?」
シュリは魔法陣を詳しく調べ始めた。すると直ぐに異変に気が付いた。
最初に展開させた時は読む事が出来なかった印字の部分が読めるようになっていたのだ。
「これは・・・名前・・・しかもこの名前って・・・・・・あの時の面々だねえ!」
その魔法陣には、あの時この陣を通った人物の名前が組み込まれていた。その中には確かに、
ミーニの名もあった。
「ん~・・・これは恐らく、初めて陣を展開した時に通った人しか、それ以降は通る事ができない
という事みたいだねえ」
「それじゃあ、結局はあたしらが行くしか・・・」
「ああ、カリナさんたちなら」
「ラキエルさん、あなたはどうするべきだと思いますか?」
シュリの発言を遮るように、カリナはラキエルに問い掛けた。
「え?私ですか?う~ん・・・」
シュリは不思議に思った。カリナとスターシャの二人は恐らく、自力であの世界に行く方法
を持っていると思っていたからである。二人は元企む側であり、特にスターシャはあの世界に
居て、実際にこちらに帰ってきている。
まあ、魔法の使えない妖怪族があの世界に行っている以上、企む側の中にあの世界へ送迎で
きる力を持った人物がいるはずであるから、必ずしも二人が自力で渡れるとは言い切れないが。
ラキエルはしばし考えを巡らせる。
カリナが行けない以上、行く事が出来るのは最初にあの陣を通った、ここに居る七人のみ。
三人は入院中のため、シュリと自分たち三人だけになる。だが、先にあった事を考えると、自
分たち子供三人が行くことは余りにも危険である。だからと言って、シュリ一人に行かせる訳
にもいかない。ならばどうするのが一番良いのか・・・ラキエルは決断する。
「まず、力を付けましょう」
「・・・ラキエルちゃん、どういうこと?」
「ハワーさん、私は今直ぐ行くべきではないと考えます」
ハワーは耳を疑った。
「どうして・・・」
「危険が大きすぎるからです。現状では大妖怪を含むあの三人と対峙する事になった場合、太
刀打ちできる人はいません。こんな状態で助けに行った所で、もっと大変な事態になる事は目
に見えています。ですから、今は戦えるように力をつけるのが最善だと私は判断します」
「そんな・・・ラキエルちゃんはミーニちゃんがどうなってもいいの・・・?」
「ハワーさん、私は」
「ラキエルちゃんのばか!!」
「ハワーさん!」
ハワーは飛び出していってしまった。
「バンリさんは、私はバカだと思いますか?」
「後悔しているのか?」
ラキエルは首を横に振る。
「お前は考えて口にしたんだろ?バカだなんて思わねえよ。・・・それに、あたしもこれ以上無謀
な事はしたくないし、して欲しくもねえからな・・・」
「いい判断です」
カリナは感心していた。
「ラキエルさん、あなたのその冷静な判断は素晴らしいと思います」
「・・・どうも、です」
自分の考えに後悔はしていないが、ハワーの気持ちを考えると、自然に俯いてしまう。
「ちなみにですが、ミーニさんの事はどの様に考えていますか?諦めたのですか?」
「いえ。向こうの三人の中に、兎が大好きな方がいたので、もしミーニさんがあの人たちに捕
まっていたとしても、悪いようにはされないのではと思っています」
ハワーが捕まった時も、あの黒髪の女性はハワーに一切危害を加えなかった。恐らく、抵抗
しさえしなければ無事で居られると思われる。賢いミーニならば、その辺りの事も理解し、生
き延びている事だろうと信じたい。
「成程。では、ラキエルさんの言う通りに、今は強くなるための方法を考えるとしましょう」




