セイムvsヒサメ
「シュピラーレ・フェアシュテルカ・フェアドッペルン!」
セイムはやはり、正面から向かって行く。
「悪く言えば単純、良く言えば真っ直ぐな奴め!ライン・ウォール!」
セイムの進行を妨げるように、向こう側が見えるほど透き通った氷の壁が直列に何枚も立ち
塞がった。
壁はそれほど大きくは無い。横にかわしてやれば何の問題も無い程度だ。それでもかわさな
いのがセイムである。
出現した氷の壁に怯む事無く突っ込んで行く。そして、利き腕ではない左を壁に撃ち込んだ。
撃ち込んだ時点で壁にはヒビが入り、纏っている威力付与の魔法の効果が発揮され、一気に
砕いた。
「うん!やっぱり二重ならいける!」
強化の二枚重ねの突破力に確信を得たセイムはそのまま次の壁も、その次、そのまた次もと
順調に砕いて進み、着実にヒサメへと近付いていく。
氷の壁は透き通っているため、その様子はヒサメにも見えていた。
「こんな壁如きでは止まらんか。ならば、こういうのはどうだ!スパイク・ウォール!」
新たに一枚、壁が出現する。だがそれは、
「と、とげとげ!?」
表面に無数の突起のある壁だった。殴ったら痛そう!と見るからに思ったセイムは流石に怯
まざるを得なかった。しかし、それも一瞬だけだった。
「それならこっちは!ワンタイム・グラブ!」
右の拳に薄い障壁を纏わせ、
「撃ちくだーーーく!」
棘だらけの壁を思い切り殴った。
氷の壁にできた棘もまた氷でできており、一度何かをぶつけてやればその突起の先端部分が
砕けてある程度平らになるだろうという予測の上の行動だった。
その狙い通り、障壁で殴りつけた事により、先端は崩れた。纏っていた薄い障壁もまた、殴
った衝撃により砕け、慣らされた表面に強化を纏った拳が見事に届いた。
「ほう。真っ直ぐを貫き通す柔軟さも持っているか」
最後の壁をも砕き、目の前に立つセイムに賞賛を投げ掛けた。
「ありがとう!ただ真っ直ぐなだけじゃあ、それは無謀なだけだからね」
セイムはそれに笑顔で答えた。
「無謀か・・・この某に挑むのは無謀ではないとでも言いたいのか?いいだろう。無謀か、そうで
ないかは己で確かめるがいい!」
ヒサメが声を荒げると同時に、地面が鳴動し始める。
「雪!?・・・が、動いてる!?」
「分からないか?某は氷を扱う。無論、雪もだ。つまり、雪が敷き詰められたこの空間そのも
のが某の手足であり、味方だという事だ!」
「え!?」
足元に積もっていた雪は、大して深くは無かった。だが、突如感じた違和感に足元を見ると、
雪が膝を覆い隠すほどになっていたのだ。
「く!んん!!」
慌てて抜け出そうと足を動かすが、全く動かない、動かせない。
「このっ!」
ならば殴って吹き飛ばそうと右腕を振り上げる。だが、
「あええ!?」
その腕もまた、いつの間にか背後に高々と積もっていた雪に捕えられてしまった。予想外の
事態に驚いている隙に、左腕までも同様に捕えられてしまう。
まるで雪に意思があるかのように的確に四肢を捕えられ、身動きが出来なくなってしまった。
「くっ!これじゃあ・・・!」
雪を吹き飛ばしたくてもできない。
セイムの纏う威力付与の魔法には、発動の条件があるのだ。
それは衝撃である。何かを殴りつけた衝撃を引き金にして、魔法が効果を発揮するのだ。現
状のように全く動かせない状態では何の意味もなさない。
「分かってもらえたか?無謀だという事が」
何とか引き抜こうともがき、疲れ果てたセイムに、氷の如く冷たい視線を送る。
「こんな・・・簡単に・・・!」
「ああ、簡単だ」
セイムには最早、成す術は無かった。
「簡単過ぎる・・・勇者がこの程度のモノとはな・・・」
「ゆう・・・しゃ?」
「そうだ。お前たちは、世界に起こった異変を解決し、平穏を取り戻す勇者。それに選ばれた
んだ」
「どうして私たちが・・・?」
「知らん。我もそれを知りたかった。だが、どうやら分からず仕舞いで終わりらしい」
雪がセイムの全身を飲み込まんと身体を登ってくる。
「く・・・・・・」
抵抗できず、セイムはそのまま静かに雪に飲み込まれた。
三人の絶望的な戦況は、遠くに待機していたシュリたちにも伝わっていた。激しい炎、雷、
氷の閃光が、三人が扱えないそれらが物語っていた。
「あれ・・・相当やばいんじゃねえか?」
戦闘の音が止んだのが更に不安を駆り立てる。
「だよねえ・・・・・・」
相手は大妖怪率いる三人。この静けさは敗北を意味していると考えるのが、考えたくは無い
が、妥当だろう。
「退却しましょう」
そう口走ったのはウインターだった。
「たいきゃく!?みんなおいてっちゃうの!?だめだよ!」
「勿論、連れてです。シュリさん、退却の準備をお願いします」
一方的に話を進め、ウインターは歩き出す。
「ウインターさん!ちょっと待っ・・・」
「安心してください。必ず届けます」
制止する声も聞かず、ウインターは戦地へと向かっていく。
「う、ウインター・・・」
バンリは自分も行くと言おうとした。だが、あの三人が勝てなかった相手が居る所へ行くの
かと思うと、恐怖で言葉に詰まってしまった。
ただ、見送る事しかできなかった。
「私もお手伝いします!」
そう申し出たのはラキエルだった。
「お一人で三人を相手取りながら連れ戻すのは、すみませんが、無理が過ぎると思います」
「ラキエル様・・・」
「ですので、せめて私に連れ戻す役を担わせて下さい」
「・・・分かりました。頼らせて頂きます」
「わたしもいくよー!」
今度はハワーまでもが名乗りを上げた。
「だって、さんにんむかえにいかないとでしょ?だから、ラキエルちゃんとわたしと、バンリ
ちゃんでひとりずつでぴったりだよ!ね!」
「お・・・おう!そ、そうだな!」
バンリはつい話に合わせて頷いた。
「ありがとうございます。私があの三人を引き付けますので、隙を見て連れ戻して下さい」
「「はい!」」
「お、おう!」




