メルリアvsシツライ
「・・・・・・シツライ」
呟くようにそう名乗った黒髪の女性は、無表情の中にも何処か不機嫌さを感じさせる雰囲気
を纏っていた。
「ほう。シツライと言うのか。何とも男前な名じゃのう」
「・・・・・・」
「おおう、わしとした事が。気に障ってしもうたかのう、すまぬ!」
「・・・・・・」
「格好の良い、いい名前じゃと言いたかったのじゃ!」
「・・・・・・」
うんともすんとも言葉を発しないシツライに、メルリアは完全に気分を害してしまったと、
焦り始めていた。
(そ、そんなつもりは無かったのじゃ~!わしはただ単に、格好いい名前じゃと褒めたかった
だけなんじゃ~!よもや、精神攻撃をしようなどとは・・・お、そう言えば・・・!)
メルリアは閃いた。
「そ、そうじゃ!お主・・・シツライよ、お主は兎が好きなのかえ?」
「・・・・・・」
シツライは変わらず無表情で言葉も発しなかったが、その纏う雰囲気には変化が見られた。
「どう言う所が好きなのかのう?」
相手が興味を持っていそうな話題を振り、怒りを鎮めようというさくせんだった。それが功
を奏したのか、シツライが遂に口を開いた。
「長い耳、短い尻尾、佇まい、移動の仕方、食事の様子・・・持ち得る全てがかわいい・・・」
「な、成程のう。すごく好きだというのが伝わってくるのう!」
シツライの機嫌が直ったと、メルリアがほっとしたのも束の間だった。
「だから、取り返す」
「む?」
「あの仔は・・・連れて帰る!」
「ぬお!?」
突如、バチバチという音が鳴り始める。見るに、シツライがそのバチバチを纏っているよう
だった。
「雷じゃと!?」
「ねえ、握手・・・しよ?」
シツライはそう言いつつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。その手は尋常で無いほどバチバチ言
っている。
「い、嫌に決まっておるじゃろ!」
それでもシツライは手を差し伸べたままどんどんと近づいて来る。
「ええい!近寄るでない!」
メルリアは大きく息を吸い込んだ。
「キロ・ブレス!」
ブレスを吐いたメルリアとシツライとの距離はそれほど無かった。現に、シツライは咄嗟に
回避行動を取る事もできず、口を開けた。
と、次の瞬間、ブレスは完全に掻き消えてしまった。シツライの口元がバチバチしているの
が目に映った。
「まさか・・・ブレスじゃと!?」
だが、ブレスを吐くにもあの距離では息を吸い込む暇も無かったはずだ。
「雷・・・槍・・・」
思考が纏まらない内に、シツライが青白い槍のような形状をしたものを作り出していた。そ
れはバチバチと相変わらず騒がしく、輪郭がはっきりとしない。
その槍を携え、今度は走って向かってくる。
「あんなものには触れとうない!障壁じゃ!」
シツライが薙ぎ払うように振るった槍を魔力の障壁で受ける。
「むうう!」
だが受け止めた瞬間、激しいバチバチが更に荒れ狂うようにその激しさを増し、障壁を獰猛
な獣の如く噛み砕かんと、ヒビを入れても尚、押し込んでくる。
「か、雷とは・・・これ・・・ほどの・・・!」
シツライが槍を振り抜く。
障壁はあっさりと砕け、バチバチがメルリアを襲う。
「ぬがあああああ!!」
シツライは容赦なく続けて突きを繰り出す。
「んぐううう!!」
雷の槍の先端がメルリアの腹部に届く、その寸前の所、メルリアは極小の障壁を何とか作り
出し、受け止めた。しかし、こんな小さな障壁などあっという間に砕かれてしまう。それでも、
できた一瞬の猶予を生かし、メルリアは後方へと力一杯飛び退いた。
着地するや否や膝を突くメルリア。
「丈夫な身体。・・・流石は竜族」
雷を受けて直ぐの追撃に対応して見せたメルリアに関心を示した。
「ぐ・・・ああ・・・」
受けた雷の影響か、メルリアは上手く声が出せなくなっていた。
(勝てぬ・・・あの者には・・・勝てぬ!に、逃げねば!)
本能的にそう思ったメルリアだった。が、同時に
(じゃが、わしがここで逃げてしまえば、奴が他の二人の元へ行ってしまう・・・もしそうなって
そもうたら・・・!)
その不安が迷いとなった。
考え、迷う内にシツライが目の前にまで迫ってきていたのである。未だに立ち上がることす
ら出来ないメルリアに槍を振り上げる。
「くうっ・・・あらじゃ!」
自身を鼓舞するように叫び、メルリアは右手に魔力を込め、槍が振り下ろされるより早く突
き出した。
「ううううおおおおおう!!」
突き出された掌は巨大な竜の手となり、シツライを捉えた。
メルリアの部分顕現の能力を生かした技の中で、最も出が早い「竜掌」という技である。
「!?」
突如として目の前に現れたそれは、シツライには壁に見えた。避ける暇など無く、全身を打
ち付けられ、大きく吹き飛ばされた。
「う・・・ぬううう・・・」
メルリアは漸く立ち上がる。そして、シツライもまたゆっくりと立ち上がる。
「思ったより・・・やる」
初めはふら付いていたが、直ぐに立ち直り、
「でも、もう終わり」
シツライは正面に手を伸ばす。
「竜・・・殺・・・雷槍」
再び、シツライの手元に雷の槍が握られる。だが今度は、先程の物よりも一回り、二回り、
三回りも大きく変化した。
(あれは・・・あんなものを防ぐ事などできぬ!・・・く!ならば!)
メルリアは思い切ってシツライに向かって駆け出す。右腕に魔力を溜め、そして顕現させる。
「雷ごと・・・打ち砕くまでじゃあ!」
だが、そんな単純には行かなかった。シツライは迎え撃つ事はせず、後方へと飛び退きなが
ら巨大なその槍を放ったのだ。
メルリアの顕現した拳の先に槍が突き刺さる。その瞬間、メルリアの体中を雷が駆け巡った。
「あがあっ!」
一瞬だった。叫び声も中途半端に、意識を掻き消されてしまった。
「うさちゃん、今、行くからね・・・!」
シツライは雪上に突っ伏したメルリアには目もくれず、歩き出した。




