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黒翼のカナエル  作者: 氷花
勇者と魔王編
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ワンコvsエンジュ

 エンジュが拳を握ると炎が噴き出し、その手を包み込んだ。

「・・・・・・」

 ワンコは驚く事もなく、その様子をまじまじと興味深そうに見つめている。

「ふんっ!」

 エンジュが拳を振るうと、その炎はワンコに向かって撃ち出された。

 炎は見る見る大きくなり、ワンコの元に届く頃には、ワンコを丸々呑み込んでしまうほどま

で膨らんでいた。

 それでもワンコは慌てなかった。慌てず、騒がず、炎から目を放さず・・・・・・そのまま呑み込

まれてしまった。

「え!?」

 驚いたのはエンジュの方だった。

 ただの牽制のつもりだったのだ。エンジュは既に次の球を準備していたのだが、初撃が予想

外にも直撃したため、少し様子を見る事にした。

 ワンコは避けられなかった訳ではなかった。敢えて避けなかったのだ。それは勿論、自身の

特徴である能力「適応力」を生かすためだ。

 以前、ワンコには水の中でも出来なかった呼吸が出来るようになったという実績がある。更

には時間経過により水中での移動も機敏に出来るようにもなった。

 適応するには僅かだが、時間が掛かるため、最初は滅茶苦茶熱かった。だがやはり、直ぐに

その熱にも慣れる事が出来た。

 熱は問題ではなくなったので、手足を動かしてみるが、包み込んでいる炎を消す事は出来な

かった。

(炎を消す方法は・・・)

 まず真っ先に浮かぶのは、水である。

(水・・・・・・あ、そうでした)

 ワンコがしている首輪、研究開発一班から送られてきたそれによって、既に適応している水

を、ある程度ではあるが、操る事ができるようになっている事を思い出した。

 だが、操るにも条件があるという事が分かっている。近場に水場がある必要があるのだ。正

確には無くても操る事は出来るのだが、その場合は大気中から集める事になり、非常に時間が

掛かってしまうのだ。

「水・・・水は・・・」

 ワンコは包み込む炎により、視界が遮られて辺りを見渡す事ができなかったため、付近の情

景を思い出してみる。

 辺り一面は雪で覆われているだけ。水場らしいものは認められなかった。と判断した。

 「雪」というものを言葉以外知らないワンコは、時間は掛かるが仕方なく大気中から水を集

めることにした。

「え!?何!?」

 エンジュは妙な光景を目にした。

 地面を覆っていた雪が、ワンコの周辺の雪がワンコに引き寄せられ始めたのだ。

 ワンコもまた、異変を感じていた。時間が掛かると思われていた水の収集が、まるで水場の

ど真ん中に居るかのように順調なのだ。理由を考えるが、周りには雪しか無かったはずである。

「雪・・・雪とはもしかして・・・」

 集まった雪によって炎は弱まり、遂に消火するに至った。

「ワンコ・・・さん・・・!」

 弱る様子も無く立っているワンコの姿に驚きを隠せないエンジュ。それに対し、ワンコは屈

んで雪を手にしていた。

「雪・・・これは水の仲間・・・・・・成程です」

 触れると形を変え、液体となったのを見て理解した。

(氷の使い手?或いは水?・・・何にしても、火達磨になってたのにダメージを受けているように

も見えないし・・・)

 油断なら無いと思ったエンジュの目つきが変わった。

「一気に攻めます!」

 やはり丁寧に宣言し、エンジュは再び炎の球を、今度は次から次へと撃ち出していく。先ほ

どのものとは違い、それ程大きくはならなかった。

 これならばと判断したワンコは、改めて雪を操る事が出来るのかを試し、迫り来る炎の球に

ぶつける。球は直接消えはしなかったが、勢いを失い、落下した。同様に、次から次へと飛ん

で来る炎の球にぶつけて撃ち落していく。

「硬火球・・・!」

 エンジュは少し溜め、同じように放った。見た目も大きさも同じ。ワンコは数ある内の一つ

として気にも留めず、雪をぶつけた。

 だが、それは落下しなかった。それどころか全くびくともせず、ワンコへと迫り、

「!!」

 激突した。

「むうぐ!?」

 ワンコの身体にダメージを与えたのは、熱ではなく、衝撃だった。まるで質量を持つかのよ

うに、その炎の球は燃え移る事無く、ワンコを後方へと吹き飛ばした。

 仰向けに倒れこんだワンコの視界に、エンジュの姿が映る。その背に、まるで翼のように炎

を携え、空中に浮かんでいるように見えた。

硬炎樹こうえんじゅ・松!」

 エンジュが翼をはためかせると、炎の翼から舞い出た火の粉が針状となり、ワンコに向かっ

て勢いよく降り注いだ。

 ワンコは這いずるようにそれを回避する。が、逃げ遅れた右足に何本か突き刺さってしまう。

「うくっ!」

 それでも痛みには直ぐに慣れ、そのまま立ち上がり、何とか追撃を走りかわす。炎の針はエ

ンジュが羽ばたく度に生成され、尽きそうに無い。

「逃げ続けるだけでは・・・!」

 ワンコは走りながら水を、雪を手元に集めていく。そして、

「大水の・・・いえ、雪・・・大雪の刃、『大雪月!』」

 ワンコが片手間に放った雪の塊は三日月状の刃となり、エンジュへと真っ直ぐに向かう。

「ん・・・!『猛火球!』」

 エンジュは針を撃ち出すのを止め、その刃に向かって大きな炎の球をぶつけた。

 雪の刃と炎の球がぶつかり、辺りに霧のようなもやを発生させ、視界を奪った。

「・・・これも、水の仲間・・・」

 そう見たワンコは再度水を集め始める。ワンコの予想通り、そのもやはワンコの手元にどん

どんと集まり、晴れていく。漸く視界が開けてきたその時だった。

硬炎獣こうえんじゅう・鷹!」

 炎の鳥が、それを纏ったエンジュが、上空から急降下し、ワンコの目の前まで迫っていた。

 完全に不意を突かれたワンコは無防備そのもの。避ける事は勿論、防ごうと試みる事すら出

来なかった。

 炎の鳥は、その鋭い鉤爪を前面に押し出し、ワンコの胸部を捉えた。

 ゴゴゴゴゴと音を立てながら、雪上に強く叩きつけられたワンコの身体を、炎の鳥はがっち

りと胸部を捉えたまま幾らか引き摺った。

「ごめん・・・ね。これは戦いだから・・・・・・」

 既に意識の無いワンコを哀しそうに見つめた。

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