遭遇
三人は何者かがこの空間にやって来た事に、既に気が付いていた。
「ん、来たみたいだよ。お迎え・・・行くの?」
赤い髪の少女エンジュが問い掛ける。
「いや待て」
青い髪の女ヒサメが直ぐにそれを否定する。
黒い髪の女性は会話に加わらず、少し離れた所で、足元の雪で何やら作って遊んでいる。
「あちらさんはまだこちらの居場所が分からないはずだ。奴等がどのようにしてこちらを見つ
けるのか、測らせてもらおうじゃないか」
「仮にでも『勇者役』に選ばれた子達だもんね。私も・・・知りたいな」
三人はとりあえずは動かず、相手の力量を測るべく待つ事にした。
それから直ぐだった。
三人の耳の中に珍妙な音が入り込んでくる。
「歌・・・なの・・・かな?」
わずかにリズム感を感じ、それは歌では無いかと予測する。しかし、それらに統一性は全く
と言っていい程までに無く、多種多様な音程が混じり合っていた。
「ぐう!?・・・なんだあ・・・これはあ・・・」
その不協和音は、体内まで深々と侵入し、まるで内臓を掻き毟るかのような、何とも耐え難
くて気持ちの悪いモノだった。
「ひ、ヒサメお姉ちゃん・・・これ・・・」
「む・・・・・・むぅ・・・・・・」
「構わん!行くぞ!」
先程決めたばかりの様子見作戦をあっという間に取り止め、耐えられない、耐え切りたくな
い三人の方が逆に捜しに行く事になった。
うおおおおおおお!!!
それぞれが元気よく、或いは恥ずかしがりながらも思い思いの歌を叫んでいる一団の耳に、
遠くから別の、叫び声が聞こえて来る。
「・・・何か・・・来てますか?」
その声は次第に、明らかに近付いて来ている。
「みんな!」
シュリが呼び掛けると、一行は歌を止め、様子を伺う。
「上手くいったのか?」
「恐らくは・・・ねえ」
濃い霧の中に、薄っすらと何者かの影が見えてくる。
「・・・・・・三人!」
やがてその姿ははっきりとした形となり、見知らぬ三人が姿を現した。
「お前等は悪魔か!」
こちらの姿を認めるなり怒鳴ったのは青髪の女だ。
「おぞましい雄叫び上げやがって!」
「おたけびじゃなくて、うただよ?」
「あんなもん歌じゃねーよ!あれが歌だったらおっさんの屁でもげっぷでも歌んなるわアホ!」
相当酷く聞こえていたらしい。かなりのご立腹のようだ。その隣に居る赤髪の少女は具合が
悪そうに全身を垂れている。
「いやあ、ごめんねえ。でも、あれがこっちの作戦だっ・・・!」
突然、黒髪の女性がこちらに向かって走ってくる。
完全な不意打ちだった。目の前に居るのは敵だと言うのに、会話に気を取られて油断してし
まっていた。
黒髪の女性の足は驚くほど速く、気が付いた時には既に自陣の中まで入り込まれていた。
「しまった!?」
「わひゃああああ!?」
叫び声を上げたのはハワー。よもや、真っ先に狙われたのは、子供であるハワーだった。
もう間に合わない。
ハワーは無惨にも抱え上げられ、そして・・・・・・
「あひゃあああ!!くすぐったいよー!」
頬ずりされている・・・・・・?
何が起こっているのか理解出来ず、固まり沈黙する一行。あれが攻撃なのだろうか?そう息
を飲んでいる一行を他所に、黒髪の女性の口から言葉が漏れる。
「・・・・・・うさちゃん!かわいい・・・・・・」
未だにどう手出ししていいものかとあぐねる一行に対し、彼女の仲間である二人は困り果て
た様に頭を押さえている。
「はぁ~・・・まさか、奴等の中に兎族がいたとはなあ・・・・・・」
「耳・・・もふもふ・・・」
「あ、ああ~・・・」
「尻尾・・・ふわふわ・・・」
「あひゃあああああ!!」
黒髪の女性は恍惚の表情でひたすらにハワーの主に耳と尻尾を弄繰り回している。ハワーは
抵抗できず、ただ声を上げる事しかできない。
「ハワーを放しやがれ!」
真っ先に向かって行ったのはバンリだった。鎌を手に、女性目掛けて斬りかかるも、女性は
それを軽々と回避し、仲間二人の元へハワーを抱えたまま飛び退いた。
「この子、持って帰る」
「お前・・・まあ、そう言うとは思ったけどなあ・・・・・・ん」
青髪の女は何かを思いついた。
「なあお前達。連れがこの兎っ娘を持って帰りたいと言っているんだが・・・それでもいいか?」
「いい訳あるか!放せよ!」
「そうか、駄目か・・・。ならば簡単だ。取り戻したくば、力尽くで取り返してみろ!」
女は挑発するようにクイックイッと手首を二度三度曲げて見せる。
「みんな・・・行くよ!」
セイムの掛け声で、戦闘態勢を取る。だが、
「待て!」
青髪の女がそれを制止する。
「待てとは何じゃ!力尽くでと言ったのはお主であろう!」
「ああ、言った。確かに言ったな。だが、戦いに移る前にやるべき事があるだろう!」
「する事じゃと?」
「そうだ」
「・・・準備体操とか?」
「違う。いや、準備体操はそりゃした方がいいが、そうじゃない」
「分かったぞ!腹ごしらえじゃな!」
「腹減ってんのか!ここに来る前に食って来いよ!ってそれでもねー!」
「待ってみんな。これはあっちの作戦かもしれないねえ」
他事を考えさせ、油断させようとしているのではとシュリは危惧した。ついさっきも会話の
隙を突かれてハワーが捕まってしまったばかりだ。
「そうだね。もう惑わされないよ!」
再び戦闘態勢を取り直す。それを見た青髪の女は、大きな溜め息を吐いた。
「言えよ」
「ん?」
「言えよ!」
「言えって、何をじゃ?」
「『お前達は何者だ!』って言えよ!名乗れねーだろうが!」
「そんな事じゃと!?」
「そんな事だと!?見知らぬ輩が立ち塞がったら『誰だお前は!』と問い、仰々しい名乗りを
聴いてから戦うのが常識だろうがあ!!」
かなりご立腹の様子だ。どうやら本気で言っているらしい。
「ご、ごめんなさい!それが私達の・・・やり方でして・・・」
赤髪の少女が申し訳無さそうにぺこりと頭を下げる。
「そうだよね・・・。正義であれ、悪であれ、名乗りって大事だよね!」
セイムには気持ちが理解できたようだ。
「おお!やはりな・・・分かる奴には分かるものなんだよ・・・!」
感動しているのか、胸の前でぐっと拳を握り締め、頷いている。
「じゃあ、訊くよ?」
「よし、来い!飛びっきり感情込めてな!」
セイムは大きく深呼吸すると、次の瞬間、今までに聞いた事の無いような声を発した。
「ハワーちゃんを攫うなんて・・・!あなた達は一体、何者なの!?」
「ふっふっふっ・・・・・・聞きたいのか?我々が何者なのかを・・・」
こちらもかなり入り込んでいる。というか、訊けと言ったのはそっちなのだが。
「なっ・・・何者だって言うの!?」
「・・・いいだろう。そこまで言うのならば、聴かせてやる・・・!お前達!」
青髪の女が二人に目配せする。二人は頷いた。
「運命に導かれ・・・集いし我ら!」
「三属を司りし、北の三姉妹!」
「・・・・・・」
「ヒサメ!」
「エンジュ!」
「・・・・・・」
「三人揃って・・・」
「「北の大妖怪と愉快な仲間たち!!」」




