氷
パチパチパチパチ!セイムは感動し、思わず拍手をしている。
「すごい!こんなの初めて見たよ!」
「そうか。それ程までに喜んでくれると名乗り甲斐もあるってもんだな」
「だね~」
「いや、ちょっと待てよ!」
バンリがある事に気が付く。
「一人だけ名乗ってないじゃねえか!」
誰もが気が付く、最もな疑問点だった。
「バンリちゃん・・・そこ言っちゃうんだ・・・」
「え?」
「無粋な奴め・・・」
「何でだよ!何であたしがおかしい見たいになってんだ!」
敵である、ヒサメと名乗った女だけならまだしも、仲間であるはずのセイムも、何故か芳し
くない顔をしている。
「貴様はキャラクターというモノを知らんのか?」
「きゃ、きゃらくたー・・・」
「性格の事だよ」
「名乗りと言えど、その人物が持つ本来の性格を捻じ曲げるような名乗りは、真の名乗りとは
言えんのだ!名乗りは言わば、自己紹介だからな」
「そ、そう・・・なのか・・・」
何故怒られているのだろうか。ちょっと疑問を口にしただけなのに・・・。
「して、お前達の方には名乗りはあるのか?」
「ごめん、無いんだ。折角いいものを見せて貰ったのに・・・」
「構わん。理解してくれただけで十分だ。お前、名は?」
「私はセイム。セイムだよ」
「セイム、か・・・・・・そろそろ、始めるか」
「ヒサメちゃん・・・うん!」
二人は周りなど全く気にせず、二人だけで見つめ合い、対峙している。
「え、あ・・・始めるの?」
「私たちも気合を入れ直すとするかねえ」
それを見て、シュリたちも三度、戦闘態勢を取った。
「行っくよー!」
セイムが真っ先に目の前の相手、青髪のヒサメに向かって駆け出して行く。
「セイムちゃん!?待って!戻って!」
シュリが飛び出したセイムを引き止めようとするが、セイムは聞こえていないのか、止まる
素振りも見せない。
「真正面から向かってくるとは・・・潔い奴だ。来い!」
「逆巻け!『シュピラーレ・フェアシュテルカ!』からのー!」
セイムは身体が相手に対して横になる程右腕を大きく引く。
「随分と大振りな・・・」
そして、左足を力強く踏み込み、腰の回転と共にその右を撃ち出す。
『螺旋剛拳!』
対するヒサメはそれを受け止めるかのように手をかざす。すると、突如として氷の塊が、盾
のような円形が出現し、セイムの拳をその中央で受けた。
「氷?氷なんて・・・砕いてあげるよ!」
セイムは更に左足に力を込めて踏み込み、氷を貫かんと拳を押し込んで行く。受け止めてい
た氷は、拳を受けている中央部分からミシミシと音を立てながらヒビを外側に広げて行く。
「成程これは・・・中々の威力だな。だが」
「ん!?」
セイムの拳を受け止めている中央部分からヒビ割れていない新しい氷が生成される。
「それくらいでえ・・・!」
それでもセイムは押し込み続ける。だが、新たな氷にヒビを入れても、また更に新しく生成
されてしまう。
「ぐ、う・・・・・・きりが・・・ない!」
幾ら押し込み、ヒビを入れても砕くには至らず、次から次へと新しい氷が出て来てしまう。
セイムが一旦下がるべきかと迷い始めた時だった。
「セイムちゃん!周り見て!」
呼び掛けに反応し、左右を見ると、そこにはヒビの入った氷がセイムを周り込み、真後ろま
で到達しようとしていた。
「い!?」
左右だけではない。上を見ると、氷が垂直に高く伸びていた。そしてその氷は次第にセイム
の方へと倒れてきていた。
「だめ!!」
強く危機感を感じたセイムは、咄嗟に踏み込んでいた左足を今度は逆方向に蹴り出し、真後
ろへと飛び退いた。
氷が完全に閉じた。セイムが脱出して直ぐの事だった。
「はあ、はあ・・・危なかったあ・・・・・・」
「セイムちゃん、流石に迂闊過ぎたねえ」
シュリは怒っている様な、呆れているような表情をしている。
「うう・・・氷くらい何とかできると思ったんだけどなあ」
「さっきの名乗り、聴いてなかったのかねえ?」
「名乗り?聞いてたよ?」
「じゃあ、言ってたよねえ『北の大妖怪と愉快な仲間たち』だって」
「・・・うん!言ってた!」
あっけらかんと答えたセイムの様子を見て、言葉は覚えているのにその意味までは理解して
いないのだと察し、シュリは小さく溜め息を吐いた。
「『大妖怪』だって・・・分かってるのかねえ・・・」
「大妖怪?・・・あ、そっか」
『大妖怪』は、妖怪の中でも強い力を持つ者を指し、その中でも取り分け強い者には頭にそ
の住まう地方名が付けられ、他の妖怪たちから一目置かれたり、恐れられたりする。『北の大
妖怪』という呼び名がその例であり、同様に東西南の大妖怪も存在する。
ちなみに、ここで言う東西南北はこの五つの世界が共存するこの世界「エヴァー・ラスト」
で生まれた呼び名ではない。今でこそ、妖怪たちは創生界を住まう代表的な世界としているが、
そもそもは別の世界から移り住んできた種族であり、東西南北はその世界での方角を指す。
「まあ、とにかくは、正面からぶつかって勝てると思わない方がいいという事が言いたいんだ
よねえ」
「そっか!うん、分かった!それじゃあ、サポートよろしくね!」
それだけ言うと、セイムは二、三歩前進し、構えを取る。また真っ直ぐに突っ込んで行く気
なのだろう。
「な、何も分かって無いねえ・・・・・・はぁ・・・」
溜め息を吐きながらも、それがセイムであり、それこそが何時でも真っ直ぐなセイムなのだ
と自分自身を納得させた。
「シュリよ、セイムよ、わしらも居る事を忘れてもらっては困るのじゃが?」
「メルリアちゃん、ワンコちゃんも・・・。もっと慎重に行きたかったんだけど、悪いねえ」
「なあに、慎重に行けば勝てるという訳でもなかろうて。まずは軽くでもぶつかって相手を知
らんとのう」
「まあ・・・ねえ・・・」
慎重に遠距離からの攻撃で相手の能力を見極めるつもりをしていたのだが、メルリアもセイ
ムと同様に、近接戦闘を仕掛けて行くつもりらしい。
「相手は三人。セイムさんとメルリアさんと自分で一人ずつ引きつけて、一対一の状況に持ち
込みましょう」
「それはいいねえ。相手は姉妹とも名乗ってたし、連携を取れないようにするのが得策だろう
ねえ」
三人の内の誰がそうなのかは分からないが、相手の中に大妖怪がいる。しかも、取り分け強
力な北の大妖怪がだ。それを含む三人に連携を取れてしまえば、厄介極まりない事になるのは
火を見るより明らかというやつだろう。
「セイムがあの青髪に行くのであれば、わしは・・・うむ、あちらの黒髪の者を相手取ろうではな
いか。ハワーも捕まっておるしのう」
「では、自分は赤髪の彼女に」
「皆、相手は物凄く強いと思って、くれぐれも無茶な真似はしなようにねえ」




