鈴
予測していた通り、陽が高くなるに連れて気温は上昇し、建物の中に居てもじっとしていら
れない程の暑さになってきていた。悠長にしてはいられない。
「えっと・・・八人、ですね。本当に宜しいですか?」
「ちょっと待ってくれ!」
人数を数え終えた所で、カイエルが制止する。
「お前ら、まさか行くつもりなのか!?」
その言葉を宛てた先にはバンリ、ハワー、ラキエルの三人がいた。
「分かっているのか!戦いになるんだぞ!今までとは違う、『本物の戦い』に!」
あまりの剣幕に、少し圧倒されてしまう。その鋭く向けられる視線を遮るように、ウインタ
ーが割って入る。
「何があろうと、私がお護り致しますので、どうかお許し下さい」
三人に代わり、深々と頭を下げる。
「う、ウインター・・・」
「そんな、頭を下げたからと言って、はいそうですかと送り出せるとでも・・・」
「まあ、待つがよい」
そこに更にメルリアが割り込んでくる。
「カイエルよ、これも経験じゃ」
「経験って・・・こんな、危険だと分かっている事を経験させるのか!俺たち大人が止めるべきじ
ゃないのか!」
「カイエル君、一度落ち着こうねえ」
シュリが宥めに入る。すると今度はラキエルが前に出てくる。
「カイエルさん。カイエルさんが私たちの事を案じて下さっている事はよく伝わりました。申
し訳ありません」
「・・・分かってくれればいい」
「ですが、それでも私たちは行きます!これがどんな結果に・・・どんな経験をする事にになった
としても!」
「・・・お前たちはまだ子供だ。どんな言葉を並べようと、お前たちの言う覚悟など、高が知れて
いる・・・」
カイエルは頑なだった。命の危険がある以上、それが正しいのだろう。一歩も引かないカイ
エルとの膠着状態が続くかと思われた。
「あーーーもう!長い!長いよ!」
セイムが大声を上げた。どうやら痺れを切らしたようだ。
「カイくん!」
「な、なんだ?」
「細かい事はいいんだよ!」
「いや、よくねーだろ!」
「行きたいのなら行かしてあげる。大人はそれに同行して護ってあげる。危険だから行かせな
いなんて言ってたら、何処にも行けないし、つまんないよ!」
「・・・いや、だから、その危険の度合いが」
「うるさい!」
セイムが一吠えしてカイエルを黙らせる。
「お兄ちゃん、行かせてあげようよ」
「メイエル、お前まで・・・」
反対しているのはカイエルただ一人。自分の言っている事が間違っているとは思っていない
が、そこまで行きたいと言うのならば、
「最後に一つ、訊かせてくれ。本当に行きたいのか?」
「ああ!」
「うん!」
「はい!」
「はあ・・・無事に帰ってくると約束するならよしだ。気をつけて行って来い」
安心に胸を撫で下ろす二人に、その言葉に喜びはしゃぐハワー。
「何か悪者になった気分だな」
見ているとそう思えてきてしまう。
「話は付いたみたいですね」
「お待たせしちゃいましたねえ」
「いいんですよ、大事なことですから。さて、それではこの鈴の使い方をお話しましょう」
ヒイカは改めて『神楽鈴』と呼ばれる物を手に取る。そしてそれをシュリに渡す。
「どうぞ」
シュリは素直に受け取る。
「じゃあ、これを」
そう言ってヒイカが差し出してきたのは、『二つの鈴』だった。
「え」
だが、鈴は既に揃っている。
「付け替えて下さい。分かると思いますよ」
「え?付け替える?」
「『本物』と言ったつもりはないですよ」
「ええ!?」
思い返してみる。・・・確かに、本物だと言われた覚えは無い。自分が鈴を見て今までの物と同
じそれだと勝手に思い込んでいたという事なのか!
「シュリさんは研究熱心な方ですので、先に本物を渡してしまうと、準備が整う前に使われて
しまう事が容易に考えられましたので、この様な事をさせて頂きました」
その読み通りだ。使い方を自分で模索していましたとも。もし使い方が分かったら、そのま
まお試しもしていたかもしれない。
「シュリちゃん?何の話?」
「・・・あ、ああ!いや大丈夫、何でもないねえ」
ヒイカが差し出してきた鈴を受け取り、よく眺めてみる。先に渡された鈴と比較してみると・・・
「ん?・・・・・・同じ・・・かねえ・・・?」
よく、何度も見比べてみるが、違いがあるとは思えない。
「見つけ辛い位置にありますが、ちゃんと見えますよ。見ようと思えば」
「ん~・・・」
見つけ辛い位置とは言っても、鈴は小さな球体だ。そんな場所など・・・
「ああ!そういう事かねえ!」
あった。鈴の綺麗な音色を響かせるのに必須の切れ込みだ。この位置からでは真っ暗で何も
見えない。だが、陽の光の当たる位置に移動し、中を照らしてみると
「あった!これが違いかねえ・・・!」
中には確かに、何かの紋様が描かれているのが見止められた。
「そこに描かれているのは魔法陣の断片だそうです。つまり、魔力でどうにかこうにかすれば
いいというわけです!」
「どうにかこうにかって・・・」
「ヒイカさんも分かって無いんじゃ・・・」
「ま、まあ、私には魔法は使えませんから、その辺りの事は分かりかねます」
結局はっきりとした使い方はわからないんじゃないかと、肩を落とす中、シュリは違った。
「私に任せてくれていいと思うねえ」
「シュリちゃん分かるの!?」
「うん。この鈴によって異変を起こしている者の所、つまりは『特定の決まった場所』に行く
事が出来るわけだから、ここに描かれているのは『指定型の転移魔法陣』の断片だろうねえ。
更に、私たちの知らない場所に行く事が出来ると言う事から、この断片の部分には特定の場所
へ行くために必要な印は予め描かれているはずだねえ。要は、この断片を無難な形で繋いで陣
の形にすれば、ちゃんと一つの魔法として機能すると思うねえ」
シュリの怒涛の見解に辺りは静まり返った。
「す、すごいよシュリちゃん!」
「流石だな」
次の瞬間には賞賛の声に溢れた。
「そうするにも、断片をちゃんと確認しないといけないから、今日一日だけ時間をくれないか
ねえ?」
「そうですね。その間に改めて準備をする事にしましょう」
翌日。準備万端となり、いよいよ神楽鈴を用いて魔法陣を展開、いざ出発!
となるはずだった。だが、世界は更なる異変に見舞われていた。




