終わらぬ異変
ついにその時はやって来た。
夜空に所狭しと賑やかに煌いていた星たちは、一つ、また一つと姿を消して行き、いつしか
空には・・・空には・・・・・・変わらず先住の星たちが大人しく輝いていた。
結局の所、いつを以ってこの異変が終わりを迎えたのかはっきりとは分からなかった。だが、
空が次第に白み始めた事により、異変は終わったと言う事は確かになった。
長らくその姿を拝んでいなかった事もあり、冬の非常に寒い早朝に、人々はわざわざ外に出
て来て皆一様に同じ方角を見ながらその時を待っていた。
そう、日の出である。
空の向こう、青白い中から次第に赤々とした色が昇ってくる。
「おおー!!くる!くるよ!」
その鮮やかな色を認識するや否や、各地で歓声が上がり始める。
その歓声に応えるように、強い赤が更に強く、広がって行く。
そして、思わずまぶたを閉じてしまう程に眩い光が世界中を照らして行く。
それと同時だった。身体は直ぐに異変を感じ取った。
「あ、熱い・・・?何か熱くないか?」
「おひさまのひかりって、こんなだったかなあ?」
暑いのではなく、熱いのだ。陽の光を浴びるのが久しぶりだからだろうか?そのせいであつ
さに敏感になっているのだろうか?
「う・・・ううー!あついよーーー!」
ハワーが堪らず屋内へと駆け出して行く。
「皆さん、私たちも避難しましょう!何だか嫌な感じがします!」
ラキエルたちも後に続いた。
「なんじゃなんじゃ!これはどういう事じゃ!」
「別に問題ないですが」
ひーひー言っているメルリアに対し、ワンコは平然としている。
「まあそうじゃろうな!その身体はほんに便利で羨ましい限りじゃのう!こやつめ!」
「一体何が起こってるんだよ・・・」
窓からは激しく眩しい光が入り込んで来ている。これは最早朝日の光ではない。まるで真夏
の昼の太陽のそれである。
「これは明らかな『異変』ではないでしょうか」
「『異変』だと・・・」
「確かに、ウインターさん言う通りだと思います。これが『新しい異変』なんですよ、きっと」
空をどうこうする点では同じだが、もたらされている現象は全く違うものだ。恐らくこれは
同一人物によるものではないだろう。
「ふゆなのにあつい・・・これをたのしくすごすほうほうは・・・・・・」
「解決しようとは考えないのかよ」
「なつとおなじようにすればいいんだ!」
「聞いてねえな」
ハワーは思いつくや否や自分の部屋に向かって駆けて行った。
「さて、どうしたものか・・・ん?ウインター、どうした?」
ウインターは窓の外をじっと眺めている。
「何か新しい変化でもあったか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、今はまだ朝です。あの太陽がもっと高い位置に昇れば、も
っと暑くなるのではないかと、危惧しておりました」
「あっそうか!」
その通りだ。朝の今現在で真夏の昼のような暑さになってきているというのに、これがお昼
時ともなれば、どれ程の暑さになるのか、予測も付かない。
「まずいですね・・・普通の暑さでは済まないとなると、身体への影響が出るのは確実でしょう」
「むう、悠長にしてはいられぬという事じゃな!」
「早急な解決が必要ですね」
「そういやさ、これは他の世界でもなってんのかな?」
もしこれが異変なのであれば、他の世界でも同様の事象に見舞われているに違いない。
「電話、してみましょうか」
創生界。セイムの家はチームの面々が集まっていた。そしてここでも亜獣人界と同じように
灼熱の光線から逃れるように屋内へと皆が避難していた。
「突然なんだってんだ!?」
「あはは!びっくりしたねー!」
「ねー!」
突然の事態に動揺を隠せないカイエルたちに対し、セイムとその母ライムの二人は楽しそう
に笑っている。
「流石と言うか何と言うか・・・」
その様子を見ていた父アゼルは呆れ顔だ。
「火傷しちゃいそうなくらい熱かったよね。何が起こってるんだろう・・・」
「これは『異変』だねえ」
不安を隠せないメイエルに対し、シュリがぽつりと呟く。
「異変?終わらなかったという事か?」
「いや、これは恐らくだけど、新しいモノだと思うねえ」
星空を創り出していた人物の事をよく知らないため、はっきりと新しい異変と言う事は出来
ないが・・・
ジリリリリリ!
電話が鳴る。それをセイムの父アゼルが取った。
「こちらアゼル。どうぞ」
「アゼルさん・・・・・・えっと確か、セイムさんのお父さんですか?」
「ああ、そうだが、誰だ?」
「申し遅れました、私はラキエルと申します。ヒイカさんから電話番号をお聞きして掛けさせ
て頂いております」
「おお、そうか。ヒイカの知人か。セイムに代わればいいのか?」
「はい、お願いします」
「セイム、電話だ。ラキエルと名乗る人物からだ」
「あ、ラキエルちゃんから?今行くよー!」
母親とじゃれあっていたセイムはアゼルから受け取ろうと手を出した。
「友達か?幼い感じの声だったが」
「うん、そうだよ。十か十一歳の子だよ」
「そうなのか!随分しっかりした子だったなあ。お前よりも大人なんじゃないか?」
「む、そんな事・・・!・・・・・・あるかも」
反論しようと思ったが、今までを思い返してみるとラキエルが自分よりも大人な振る舞いを
している事は明らかだった。
「むー!セイムだよ!!」
「え、ええ!?セイムさん!?何か怒っていらっしゃいますか!?」
「怒ってないよ!!」
絶対怒っている。
「それよりも、どうしてラキエルちゃんはそんなに大人なの?」
「ええ・・・?そう言われましても・・・こればかりはそういう性格だからとしか・・・」
「じゃあさあ・・・・・・ラキエルちゃんは私の事、どう思ってる?ちゃんと大人だって思ってくれ
てるの?」
「え」
思わず声が漏れてしまった。
「あー!!それ絶対思ってないやつだー!!もうーーー!!!」
セイムが更に興奮して行く。
「はっきり言ってみてよ!私の事どんな風に思ってるのか!」
何だか面倒くさい事になってしまった。
「ねえ!怒らないからあ!!」
絶対もう怒ってる。
セイムの印象。一言で言い表せば「風の子」である。いつも元気一杯にそこらを駆け回って
いるという感じであり、いい意味で、いい意味で大人っぽくない。というのも、年の割りに言
動や振る舞いが幼いなあと普段から思っている同級生ハワーと意気投合している点が大きい。
精神年齢が極めて近いのだろう。
という印象を抱いているのだが、当然、口には出せるはずもない。
「えっと・・・強くて、頼りになるお姉ちゃん・・・ですかね」
「え!?」
「一杯遊んでくれるし、一緒に居て楽しいですから、そういう観点からも、セイムさんはやは
り立派な私たちのお姉ちゃんだと思います」
お姉ちゃん≠大人。嘘は言っていない。
「そっかあ・・・!うふふ・・・私お姉ちゃんなんだあ・・・!」
セイムが嬉しそうで何よりである。
これ以上この内容での会話を続けるのはボロを出す危険があるため、セイムの怒りが鎮まっ
たこのタイミングを逃す手は無い。
「あの、セイムさん、お空の様子を伺いたいのですが、そちらはどんな感じですか?」
「え、こっちはって・・・ラキエルちゃんの所も熱いの?」
無事に話を変える事が出来たようで、ラキエルはほっと胸を撫で下ろした。
「はい、そうなんです。これが『異変』かもしれないと思い、他の世界の様子も知りたいと、
電話させて頂きました」
「そうだったんだ。うん、こっちも熱くて、シュリちゃんがこれは新しい『異変』じゃないか
って言ってるよ」
「シュリさんもやはり・・・」
どうやら間違い無さそうだ。
「一度集まって作戦会議しませんか?この件には早急な解決が必要だと思っていまして」
「・・・うん、そうだね。そうしよっか。じゃあ、こっちがそっちに行くから、待っててね!」
「すみません、お気をつけて」




